第5話 万事休す
「……ゾンビかよ……てめえは」
システムを重ねがけした響輝の猛攻をことごとく受けていたはずのオリジナルライト。
衝撃でへこんだ地面の上で、立ち上がっている
「ふふ、かもしれませんねぇ」
オリジナルライトの余裕は、いまだに消えていない。
そんな姿に、一樹は恐怖すら覚えてくる。
「……こ、これでも効いてないのか」
「いえ、効いてますよ。さっきの攻撃で、内臓はほぼほぼダメになったのではないでしょうか。……感覚がないので、なんとも言えませんが。
胴体ではなく、頭部を狙っていたら、もう少し変わった結果になっていたかもしれません。
避けられることを恐れて、命中率の高い部分を選んだのでしょうね」
オリジナルライトの姿は、一見ボロボロのように見える。少なくとも、体にはダメージがしっかり入っているように見える。
なのに、……当の本人は、ヘラヘラした顔。
「それよりも、五号さん。あなたこそ、かなり効いたのでは?」
そうオリジナルライトが言った途端だった。
「……うっ、……ガハッ!?」
響輝が突如うずきだしたかと思えば、そのまま崩れ落ちる。さらには、咳とともに、地面に赤い液体が飛び散った。
「……っ!」
吐血だ。
響輝は地面にうずくまったまま、動かない。……これは……。
「ほら、言った通りでしょう。もう、反動が来てしまいましたか」
それは、システム重ねがけの副作用。やはり、体への負担は相当なものらしい。オリジナルライトが近づいても、動けない響輝を見れば一目瞭然。
「ちなみに、教えてもらえますか? 痛みは十段階で言えばどれくらい? どう痛みます? 体がミシミシ? 頭がガンガン?
いや、痛みより、脱力感だったりします? ……返事できます?」
響輝の顔をのぞきこむように聞き出そうとするオリジナルライト。その直後、響輝の目が見開いた。
「くそがっ!」
不意を突いたパンチを繰り出す。だが、それはあまりに弱い。オリジナルライトは手のひらでなにひとつ、苦も無く受けきる。
「無茶しすぎですよ。まぁ、でも脇響輝くんのコピーですからね。やせ我慢はお得意なのでしょう。
なら、もう少し痛みつけてあげましょう」
「はぁっ!!」
いつの間にか、後ろに回っていた喜巳花がオリジナルライトに攻撃を繰り出していた。
オリジナルライトが反応しないまま、蹴りが頭部にぶち当たる。だが、変化なし。オリジナルライトは微動だしない。
「あ……、……」
喜巳花の表情が一瞬で青ざめていく。
一方でオリジナルライトは足元にいる響輝を適当に蹴り飛ばすと、喜巳花の首元をつかみにかかった。
「あっ……ぐっ!?」
喜巳花がオリジナルライトの手を締め付けて、離れようとするが、それもかないそうにない。
オリジナルライトの視線がチラリとこちらに向く。
「六号さん、二号さん。……どうされたのですか? ふたりはもう、戦意喪失ですか?
もう一度、システムの重ねがけに挑戦してもよいのですよ?」
そう言いつつ、喜巳花の腹に強烈な一撃をたたき込む。苦悶が喜巳花の表情に浮かび上がる。
だけど、……一樹はどうしても動けなかった。今ここで動いても、喜巳花を助けられるビジョンはない。
同じ目にあうのがオチ。
目の前には倒れている響輝の姿。いまでもなお、必死に立ち上がろうとしているが、とてもそんな力が残っているようには思えない。
「……、ご、ゴメン。今、助ける」
完全に飲まれ切っていた奈美が、慌てて響輝のほうへと駆け寄る。システムの包帯を駆使して、治療し始めた。
……この治療回復がすさまじい物なのはわかっている。だが、すぐに戦闘復帰できるほどではないし、できたとしても、パワーアップするわけではない。
「ゴフッ!!!?」
一方、喜巳花にもう一発撃ちこんだオリジナルライトは、ゴミでも捨てるように、喜巳花を一樹たちのほうへと投げ出してきた。
慌てて駆け寄るも、先に喜巳花の体が地面に激突してしまう。そこに、遅れてたどり着いた。
……よかった。まだ息はある。
「一樹くんも、手当を」
「……う、うん」
奈美に言われるがまま、包帯をウエストポーチから取り出した。
これになんの意味があるかわからない。……今の一樹に出来ることは、せいぜいこれくらい。
「あぁ、もう手当する必要はないですよ。もう、そろそろ実験は終了段階にはいりますからね。
この体が壊れきる前に、トドメと行きましょう」
「……くっ!」
ダメだ……。こんなところで治療しても……本当に意味はない。……それより……。
「……」
手当している喜巳花の腕にピントがふとあった。そこには、リストバンド。……プットオンシステム。
「喜巳花ちゃん……借りるよ」
返事はなかったが、腕からリストバンドを取り出した。
「……ッ! 一樹くん! ダメ!」
奈美から制止を食らう。まぁ、当然だろう。
これからすることは、ただの無謀。十中八九、響輝の二の舞だ。……でも、……やるからには……。
「……最後ぐらい……抵抗している」
「いいですよ。そう言う悪あがきも時には大切です」
オリジナルライトが近づいてくる中、リストバンドを手にはめ込める。
ダメージ自体は与えられているんだ。……体そのものを、砕ければ……。
「プット……」
そう、声をかけようとしたその時だった。
突如、地面に衝撃。同時に地面に落ち広がっていた砂煙が一瞬、舞い上がる。それはちょうど、一樹とオリジナルライトの間だった。
それは、ふたつの陰。一樹と同じくらいの背丈の者と、奈美と同じくらいの背丈の者。
思わず、リストバンドにかけていた手を離す。
「……文音ちゃん? ……綺星ちゃん? ……なのか?」
おそらく、そうだ。だけど、いまひとつ確信できないものがあった。一樹たちの特徴であるペールオレンジの肌は随分と少ない。
代わりに青い皮膚と、全身に広がる赤い毛。そして、まるであの化け物のように、筋肉質な体付き。尖りに尖った鋭い爪。
その中のひとりが、一樹に向かって指を差す。
「正解」
確信した。
文音だ。