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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第3章 恐れと戦うための勇気
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第4話 夜中の学校

 ***


 目覚めてから初めての夜が来た。


 三好奈美は南側の窓からとうの昔に太陽など落ち、闇に染まった外の世界を見ていた。あたりに明かりというものはなく、外は完全に闇に包まれてしまう。


まったくもって信じられない話ではあるが、このどこまでも続きそうな闇を見ればふと考えてしまう。


「……人類滅亡……」

 質の悪いジョークだ。笑えもしない。人類が滅亡したというのならば、もっと世界はとんでもないことになっているよ。……いや、人がいないからこそ、静かなのか……。


「三好、じゃあとりあえず俺さきに寝るけど。なにかあったらいつでも起こせよ。つらくなったら交代するからよ」

「うん。ありがとう。交代まではゆっくり休んでて」


 夜、当然奈美たちは睡眠をとる時間だ。だけど、全員がなにも考えず一斉に寝るのは危ないと考え、見張り番を立てることにした。ひとまず交代でひとりは目を開けておくという形になっている。


「じゃぁ、電気消すよ」

 図工室の照明スイッチにまで手を伸ばす。だが、ふとスイッチに手が触れたところで少し止まる。


ここで照明すべてを消すのは危険だし……、そもそも暗闇で起きているのはつらい。半分だけ照明を消して、明かりは残しておくことにしよう。


  半分の照明が落ち、響輝も横になったのを確認してまた、南側の窓に視線を向ける。そこでふと通常教室棟のほうに明かりがあることに気が付いた。廊下越しで、ある部屋の明かりが漏れている。


「……そういや、視聴覚室の電気、つっけぱなしだったか……」

 だからと言って、こんな夜中にわざわざ照明を消しに行く気にはなれない。そのままでもいいだろう。照明のつけっぱなしでわざわざ怒るような人はいない。いてくれたら、むしろありがたいレベルだ。


 一応、懐中電灯も見つけてはあるが、だからと言って無理に使う必要もあるまい。夜中の行動は控えるに越したことはないはず。


 一通り窓の外で異常がないことを確認したあと、今度は廊下側の窓で椅子を用意し座り込んだ。


 もし、化け物が来るとすれば廊下側だ。なら、見張りとしているべき場所はここ。考えたくもないが、もし窓から化け物の姿が見えた場合、飛び出して戦闘か……。いや、さすがに全員を起こすか。


「……にしても……ふぁあ……あ」

 思わずあくびが出てしまう。やはり、相当眠気はたまっているらしい。この時間見張るため昼寝は取っていたのだが……どうも……。

 夜で全員が寝てしまえば、静けさが最高潮に達するのもまた原因か。


 目をこすり、首を何度も振って意識を保つ努力をする時間が続いた。



「あの……奈美ちゃん……奈美ちゃん……」

 遠くから声が聞こえる気がする……。


 違う……耳元だ……

「うん? えぇ? ……あぁ……」


 少し遅れて綺星に声をかけられていたのだと理解。慌てて顔を上げて首を大きく振る。

「寝てない。……あたし別に寝てないよ」


「…………」

 ……綺星にものすごいジト目で見られた。


「……で、どうしたの?」


 顔を落とし綺星を視線を合わせて聞く。綺星は少し顔をうつむかせ、遠慮がちにボソリとつぶやいた。

「……その……トイレ」


「……あぁ」

 そりゃぁ、声をかけるわ。夜中のトイレだけでなく、こんな状況なのだから……あたしだってひとりで行こうとは思えない。


「いいよ。ちょっと待ってね」

 座っていた椅子から立ち上がり、寝ている響輝を起こそうとする。だけど、スヤスヤと寝ている響輝の姿を見て思わずためらってしまった。

 代わりに、壁にかけられた時計を見る。


 寝始めたのは十時で、いまは一時。この三時間なにも起きていない。廊下に化け物がうろついている感じもないし……。実は思っていたほど心配しなくてもいいのかもしれない。


「行こっか」

 綺星の手を取り、音を立てないよう静かに廊下を出た。



 懐中電灯を片手に廊下を照らしつつ足を進める。

 トイレがあるのは通常教室側のほうだけだ。三階なら視聴覚室の奥がトイレの場所だった。ついでに照明も消せるし、一度行っている場所なのだから、そこでいいだろう。


 歩いていると、ふととなりで綺星が口を開いた。

「ねぇ……屋上には……出られないのかな?」

「屋上? ……考えなかったな……」


 そういえばそうだ。三階……すなわち最上階であるはずだが、階段は二階に向かうほうだけでなく、上側にもある。すなわち、屋上に出られる階段はあるということだ。


「でも……どうだろう……。あたしの記憶じゃ、普段でも立ち入ることはできなかったと思うからね。……鍵がかかってて出られない気がするな……。

 でも、確認はしておくべきだね」


 確認をするなら明日かな? そんな風に思いつつ、足はもうすぐ視聴覚室に付くころになっていた。最初、視聴覚室から漏れる明かりにかなりビクリとしたが、冷静に深呼吸して歩み寄る。


 化け物にも遭遇しないし……ひとまずは安心かな……。


 だが、視聴覚室の前を通る直前だった。ピタリと綺星が足を止める。そのまま、ぎゅっと奈美の手を両手でかかえるようにして近づいてきた。


「……ど……どしたの? なにかいた?」

 質問するも綺星は握る手を強くして必死にしがみつくばかり。


「や……やめてよ……」

 まるで幽霊でも見たかのような反応。こんな雰囲気じゃおかしなものが見えてもおかしくないのだから、そんな反応されたらマジで怖い。

 年上として怖がる仕草は意地でも見せたくないが……。


「……ねぇ……聞こえない?」

「聞こえる? ……なにが!?」

 恐怖のあまり、思わず強い口調で聞き返してしまう。口から出たあと失態に気づき口をふさぐが、それも綺星はまったく気にしていないもよう。


 むしろ、それ以上に気になることがあるようで、必死に奈美の服を引っ張る。

「……ほら……カンカンって……聞こえない?」


 そこまで言われて、奈美は少し冷静さを取り戻すことができた。代わりに耳に神経を研ぎ澄ませる。すると、たしかに耳に音が入ってきた。


「……たしかに聞こえる……。なんだろう……」

 まさにカンカンという音。一定の間隔でなり続ける音。なにかがたたかれている音だとは思うけど……。


 奈美も深刻になってその音に聞き言っていたが、ふと綺星の姿を見て意識を彼女のほうに向けた。

「大丈夫だよ。気にしなくて大丈夫。さっさとトイレ済ませてこよう」

 わざと大げさに笑みと明るい口調で綺星の背中を軽くたたいた。


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