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第8話 オリジナル綺星

 銃を握り締めるオリジナル綺星の腕をつかみ、馬乗りするように抑え込む綺星。文音はその隣で見守っている状況。


 オリジナル綺星の目にあった、覇気はみるみる消えていく。

「言われるまでもない。あたしだって、妹を、サラを化け物の巣に入れたくなどなかったよ。決まっている」


 オリジナル綺星はあきらめたかのように、頭を床にコツンと置いた。

「そもそもこの実験自体、ほとんどの人間は知らない。知っているのは研究チームの七人と、国の一握り。本当の極秘」


 ……だろうな。知っている。武装した人たちはいるが、彼らが文音たちのことをどこまで知って、理解しているのか。

 それこそ、文音たちの脱走によって詳しくしった者も多いだろう。


 オリジナル綺星は続ける。

「もともと、ゼロ号は監視役兼、実験の推進剤として投入されていた。だけど、この実験の責任者、和田ライトは……それ以上を求める」


 和田ライト……。ゼロ号、監視役……。あのライトも、オリジナルがいるというわけか。……それが……責任者。


「あいつはこう言った。「ここのところ同じ繰り返しばかりだね。じゃぁ、ちょっと人間でも入れてみましょうか」と。


 だからと言って、どの人間を入れる? 屈強な軍人? 警戒されて、実験に悪い影響を与えかねない。


 進行させるうえでの起爆剤、誘導するにちょうどいい人間。だけど、機密は守らせないとならない。


「君、妹いたでしょう。あの子でいいじゃないですか。アルバイトとでも言って投入してみましょうよ。

 下手をうたなければ、殺されるようなことはないでしょう」


 話は勝手に進められる」


「……」

「……」

 オリジナル綺星の語りに言葉は出なかった。ただ、黙っているとオリジナル綺星は少し声を荒げる。


「ふざけるな!! そう言いたかった。本当は心の底から思っていたことだった。だけど、あたしはチームの中では最年少。

 まともな拒否権も……あたしに断る勇気も……なかった」


 文音は話を聞きつつ少し腕を組む。

「だれかひとりぐらい、おかしいと言いそうなものだがな」


「まともな人間ならそうだろうね。でも、あたしが言うのもなんだけど、まともな人間、関係者にはいないんだよ。

 こんな研究、まともな人間がすることじゃない。あたしも含めて」


 ……まともじゃない、というのは否定しない。だが、その言い方だと、まるで結局、自分もまともじゃないから妹を放り込んだ、というように聞こえかねる。


 本人もそれは理解しているのか、大きくため息をつく。


「結局立場的に、あたしは妹が殺された怒りを向ける場所はどこにもなかった。都合がいいのは、殺した化け物たち。

 君たちだ」


 最後の一言が異様に力が入っていた。ゆえに、また反撃にでるのかと警戒したが、それはない。

 むしろ、手に握られていた銃が離れ、音を立てて落とす。


「でも、もういい。あきらめた。この状況じゃ、どうあがいても仇はうてない。しようとしても、逆に殺される。

 これでも、君たちを設計したひとりだからね、さすがに分かる」


 オリジナル綺星の腕の力が抜けたのだろうか。綺星がそっと拘束していた手を離した。オリジナル綺星の腕はするりと抜けて落ちる。


 一応、となりで文音は警戒し続けるも、オリジナル綺星からの覇気はまだ戻ってきていない。


「なんか、話したら少しスッキリしちゃった。……一号……いや、新垣綺星。君とあたし、根本が一緒だったからかな。


 ……さっさと行ってよ。仲間を助けに行くんでしょ? 君たちの身体能力ならまだ間に合うはずだよ。

 この怒りは、あたし自身に向けておくから」


 ……こうは言っているが……。


「あんなにわたしたちに嫌悪感を抱いていたお前がか? ただでさえ人間など信用しないつもりなのに、その投降を信じろと?」


「文音ちゃん。大丈夫だよ。行こう」

 だが、文音の問いとは裏腹に、完全に拘束を解除した綺星は、そっと立ち上がっていた。


 危険だと思い、文音がオリジナル綺星を拘束しようと動くが、綺星が止めてくる。

「大丈夫。……わかるから」


 ……綺星らしからぬ強い口調だった。根拠などあるはずない、でも、……綺星は……疑っていない。


 その姿を見れば、もう大っぴらに動くことはできなくなった。警戒はしつつも、オリジナル綺星は自由のままにしておく。


「行く前に、ひとつだけ言わせて」


 ふたりで割れた窓ガラスの前に立つと、後ろからオリジナル綺星が声をかけてきた。

 だが、オリジナル綺星はまだ、寝転んだまま。ただ、天井を見たまま口だけ動かす。


「この開発チーム。あたし含めて基本、みんな頭おかしいよ。バグっている。でも、その中でも、研究の総責任者。和田ライトは……あたしたちから見ても異常と思えるほどに、クレイジーだから」


「……それって、ライトくんのオリジナルのことだよね?」

 綺星の質問に、オリジナル綺星は「あぁ」と答え続ける。


「君たちが“化け物”だとするなら、……あれは“狂人”……いや、“悪魔”。……気を付けたほうがいいよ。

 化け物と悪魔、どっちが強いのか、あたしは知らないから」




 それから、文音と綺星は難なく塀を飛び越え、森の中に身をひそめることに成功した。

 あとは、目的の方角に向かってひた走るだけだ。


 ポケットに突っ込まれたまだ注射器が二本入っているケースを確認し、目的の方角を見据える。


「……よし、行こう」

「うん」


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