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第7話 綺星とオリジナル綺星

 本当に、文音たちを追うどころか、放ったらかしにして去っていったオリジナル文音。


 人質となっているオリジナル綺星を含めた三人、廊下に取り残される。


「……もういいでしょ。わたしを解放してよ」

 オリジナル綺星が特に感情を込める様子もなく、淡々と言ってきた。


「文音ちゃんも言っていたでしょ。見逃してあげるって。じゃぁ、もういいじゃない。わたしを捕まえておく理由もないよね」


「あの話が本当だという証拠はどこにもない。ここを出て地上に出ると、武装した人たちが待ち構えている可能性は十分ある。

 いや、その可能性は高い。少なくともわたしはそうする」


 油断させてだまし討ち、そんなのは基本中の基本と言っていい。もし、あいつが文音のオリジナルで、コピーされた性格が文音なのだとすれば、当然同じ考えにいたるはず。


 もっとも、立場が真逆である以上、完全にその通りだとも言えないか。


「たぶん、文音ちゃんは本気で言ったよ。あの子は、君らなんて実験対象、観察対象としてしか見ていない。

 どう行動するのか、見ていたいだけだと思う」


「……」

 にしても、オリジナル綺星。随分とおとなしくなったものだな。

 さっきまで、文音たちを殺そう殺そうと、殺気むき出しだった人間だとは思えないほど落ち着いたトーン。


 でも、逆に言えば……。

「そもそも、ここで君を解放などすれば、君自身がなにかやらかすだろう。この状況じゃ、一番危険なのは、君だ」


 なにをしでかすかわかったものじゃない。こいつが、文音たちをやたらと憎んでいるのは間違いないのだから。


「文音ちゃん。さっさと行こう。それこそ時間の無駄だよ」

「だな」


 綺星を先頭にして来た通路を戻るように進む。文音はオリジナル綺星に「歩け」と前に突いて押しながら進んだ。


 そして、階段を上って一階に戻っていった。

 オリジナル綺星が言った通り、本当に待ち伏せしている人間はひとりと居なかった。

 実に静かなものだった。


 進んでいくと途中、当然文音が倒した警備員ひとりが再び視線に入ってくる。同じくそれを見たオリジナル綺星はあからさまに嫌悪感を見せてきた。


「この警備員も殺したの?」

「しかたがなかった」

「……化け物が」


 反論は出来なかった。いや、あったかもしれなかったが、わざわざ口にしようとは思わなかった。

 それから重い空気が張り詰めるようになってしまう。


 その中で、文音たちが侵入してきた窓の前にまでたどり着いた。まだガラスは割れたまま、ここからすぐに逃げ出せる。


「綺星、少しここで待っててくれないか。外に見張りがいないか、先に確認をしてくる。確認取れ次第、塀を飛び越えて行こう」


 オリジナル綺星を一旦、綺星に預ける。綺星がオリジナル綺星をしゃがませ、肩と手をつかむのを確認。

 その後、窓のサッシに足を賭けた。


 そして、窓の外へと体を出そうとした、瞬間だった。


「あ、やめっ!」

 突如、後ろから綺星の声。

 振り向いたころには、不意を突かれたからか少しよろける綺星の姿が。そして、同時に、オリジナル綺星がこちらを見据えているのを見る。


「っ!」

 とっさの判断で、廊下のほうへと体を投げ出す。刹那、文音の体の横を一本の針が擦過する。


 投げ出した体は廊下の壁に一度ぶつけつつも、廊下に着地。敵となるオリジナル綺星を見据える。


 オリジナル綺星は、綺星から奪い取っていた麻酔銃を投げ捨てる。

「くそっ」

 代わりに、もうひとつ奪っていた銃を取り出し文音に向けてくる。


「死ねえ!!」

 突如大きな発砲音が響く。だが、そこから放たれる弾丸が当たることはなかった。見当違いの方向へと飛び、天井をうがつだけ。


 一方で、オリジナル綺星の両手は力に押されて跳ね上がる。その勢いのまま、後ろ向けに倒れた。

 だが、それでも銃は話しておらず、再度向けようとしてくる。


 さっきの撃ち方を見る限り、崩れた体重ではまともに撃てない。だが、この人物は間違いなく危険だ。


 一瞬固まった体を再度動かすため、床を蹴ろうとする。だが、それより先、そしてオリジナル綺星が再度、引き金を引くより先。

 綺星がオリジナル綺星の頬を後ろから殴りつけていた。


 壁に打ち付けられ床に転がるオリジナル綺星。そこに間髪入れず綺星がのしかかる。オリジナル綺星が銃口を綺星に向けようとするが、綺星はその手をつかみ、強引に方向をずらせた。


「……あぁ……あぁ! ……くそっ! くそっ! ……なんで、お前らが生きて! ……サラが死ななきゃ!!」


 ひたすら叫ぶオリジナル綺星。それを間近で聞き続ける綺星。オリジナル綺星が銃口を綺星にあわせようとするが、力の差がそれをさせない。


「ねぇ……なんで、妹を……サラさんをあの中に入れたの?」

 綺星は、ひたすらあがこうとするオリジナル綺星に声をかけていく。


「あたしは別に……妹がいたなんて記憶はないよ。でも、話を聞いて、あたしと……君が似ているということはなんとなくわかった。


 そして、気持もわかる。妹が殺された、なんてわかったら、同じように怒って、……仇を、って思ったかも」


 オリジナル綺星の耳に届いているかはわからない。だが、それでも綺星は、オリジナル綺星の手を封じつつ、続ける。


「でも……、わからない。なんで? ……なんで、その大切な妹を……あの学校の中に入れたの? 意味がわからない。

 あたしなら……そんなこと……絶対しない」


 すると、オリジナル綺星の銃を握る手の力が少し緩んだような気がした。拘束する綺星は当然気づいたらしく、それに少し反応を見せる。


 そして、オリジナル綺星の表情が少し変わる。

「……わかってるよ……。あたしだって……絶対……しなかったよ。化け物に説かれるまでもないよ」


 オリジナル綺星の表情は悲壮感に変わっていった。


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