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第5話 姉妹

 うまく隙をつき、白衣の女性に馬乗りに拘束。なんとか、最悪の危機はひとまず、脱することができた。


 女性は力の差を知っているからなのか抵抗する様子は見せない。だが、背中からでもこちらに対する怒りが依然、感じる。


「わたしの勘に過ぎないが、君ら、わたしたちに関わっている人たちだろ? というか、わたしたちを作った人たちじゃないのか?

 なのに、わたしたちに敵意をむき出し。意味がわからない」


 女性は文音の質問に答えようとはしない。……もう、口も聞いてくれないらしい。なんだっていうんだ?


 たしか、こいつは妹を文音たちが殺した、なんて言っていたな。だが、そんな覚えはまったくないのだがな。


 そもそも化け物はさんざん倒したが、人はまだ数える程度しかやっていないはず。さっきの警備員や、武装した人たち。


 妹……、すなわち女を殺したという覚えは……。


「……はっ」

 いや、いた。ひとりだけ、女性を殺している。それも、実験場、あの学校の中で、たしかに……この手で殺した。


「……サラか」

「化け物が妹の名前を呼ぶな!!」


 突如、女性が叫ぶ。サラの名を呼べば、女性の呼吸がどんどん荒くなっていく。そして、その視線が倒れている綺星のほうへ。


 そして、その綺星は、少しずつ、床を這うように移動し始めていた。しびれが回復してきたらしい。

 向かう先は、この女性が落とした注射器のほう。


「あっ、もう……回復しかけて……。この……人殺しの化け物が」

 怒りが増したのか、少し女性が起き上がろうとした。それを力づくで押さえつける。


「あのサラがお前の妹だと? たしかに殺した。だが、それで怒り? むしろ、送りこんだのは君だろう。

 それは、逆恨みというやつだとわたしは思うがな?」


 女性の怒りはまだまだ膨れ上がっている。化け物の話す言葉を聞く耳は持たないってか。


 そんなやり取りをしていると、綺星が注射器の元へとたどり着く。すると、綺星はおぼつかない手でケースを開けると、一本その場で自身の体に突き刺した。


「おい、いきなりか」

 案の定、綺星は苦しみだす。だが、それもしばらくするとやむ。綺星は見開くと、荒い呼吸をしつつも、ゆっくりと立ち上がった。


 しばらく、自分の手のひらを見て、グーパーを繰り返している。


「……もう、しびれはなくなったのか?」

「なんとか。……まだ感覚は変だけど」


 あの注射器は文音たちの化け物化を進行されるもの。……それに伴い、毒の効果も薄れるといったところなのだろうか。


 ともかく、それでふたりとも無事を確保できそうだ。


 そう思っていると、廊下の向こうから声が聞こえてた。

「報告は終わったぞ。……新垣? あれ? どこだ、新垣?」


「ここ!!」

「あ、こいつっ!」


 女性の口を封じるが既に遅い。こちらに向かって走ってくる足音。そして、廊下の窓からもうひとりの白衣女性の姿が見える。


 その瞬間、叫ぶ。

「動くな! こいつの命が欲しかったらな!」

 そういい、拘束する女性の首をつかんだ。


 綺星も、すでに動く体を起こし、ドアの前で警戒態勢をとる。


 廊下の外に立つ女性はあからさまに目を見開いた。

「新垣っ! ……お前……、あぁ……」

 目を閉じ、頭を手で抱えつつ首を振る。

「お前、怒りに任せすぎだ。なにをやってる」


 女性はあからさまに視線を背けた。


 たしか、あの女性は同じく文音と呼ばれていたほうだったか。そいつは、恐れというよりは、飽きれと言った表情を見せていた。


「……うん? ……新垣……? ……文音?」


 思わず、視線が綺星のほうに向く。……綺星はたしか、本名、新垣綺星。……今拘束している女性と同じ苗字。……窓の向こうのやつの名は、文音。


「……お前の名前……新垣綺星なのか?」

 馬乗り越しに、女性がピクリと反応するのを感じる。当然、文音が知っているほうの綺星も驚き、視線をこちらに向けてきた。


 構わず続ける。

「……妹の名前は……新垣サラ……」


 ……ということは……。窓ガラスの向こうに立つ人間へ視線を送る。

「お前の名前は……柳生文音……」


 ピースがはまっていくのを実感した。

 あの実験場で会ったサラのことを、最初は文音たちの慣れの果てだと勘違いしていた。


 とくに、綺星が力を使い続けた慣れの果てだと。綺星キラとサラという、似た発音から、記憶が一部損失した影響で間違えているのだとか。


 だが、結果的にはサラこそ人間で、……というのはもう周知の事実。


 だが、そう思ってしまうのもまた必然だった。

 綺星とサラの名前が似ている? そりゃ、姉妹だものな。成れの果て? そりゃ、姉妹だもの、そう思えるのも無理はない。


 ……いや、直接この綺星とサラが姉妹関係にあるわけではない。だが、文音と綺星は……クローン。作られたもの。コピー。


「……わたしたちは……君たちのコピーということか」


 文音という女性は初めて少し恐れた表情を見せた。

「……これだけの情報でたどり着くのか。人間とそう変わらない推測力だな……。新垣が捕まってしまうわけだ」


 ……その反応は、正解らしい。


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