第2話 よみがえる地下
真夜中、研究施設の中に潜入中。少し探索すると、すぐにエレベーターを発見できた。
やはり、事前に聞いていた通り、すばやく地下に潜入できそうだ。
最初、迷いはしたが、すぐ近くに備わっていた階段を使用して地下へと向かう。
地下に向かう階段と言えば、どうしてもあの学校、実験施設でのことを思い出してしまう。
あそこでは、降りて行った先にある扉の向こうで、文音たちのクローンを見せつけられるハメに。
その後、次に見たのは綺星だったな。ちょうど、このメンツか。
「……扉、あるね」
「だな……」
綺星もあの時のことを思い出したのだろうか。表情が少しくらい。だが、そもそもこの状況で明るくけるわけもないか。
この状況でもヘラヘラするのは、知っている限りひとりだけ。
あたりに注意を向けつつ取っ手に手をかける。
「……開かないな」
そんな簡単にいくわけもないか。ドアの周囲を確認すると奇怪が備え付けられているのがわかった。
機械のセキュリティらしい。こりゃぁ、ピッキングでどうこうできるものではないな。軍の研究施設がそんなゴミみたいな鍵なわけがないか。
「ねぇ、さっき、文音ちゃんが倒した人がキーとか持ってないかな?」
ふと綺星がそんなことを言い出した。
「……その可能性は十分あるな。よし、戻ろう」
あの人が警備員で、見回りをする人なら、ある程度の場所には入れる権限を持っているはず。
一度、階段を上り、元の場所へ。ガラスを割った音で騒ぎが起きているわけでもなさそう。
あの時、すぐにやったのが功を奏したな。
倒した警備員のもとへ歩み寄り、その男の身体を見渡す。まさぐるまでもなく、首からかかっているものに目がいった。
それは手のひらサイズのプレート。この人の顔と、おそらく名前。ほかにいくらか情報が書かれている。
「これで、いけるのかな?」
綺星が丁寧に警備員の首から抜き取ったプレートを手に取る。
「そうだな」
それがセキュリティのカードキーとなっている可能性はあるだろう。だが……、自分の持つ知識では、あの機械がカードを読み込むものかどうかわからない。
「指紋認証とかの可能性もあるがな。確率を上げるなら、指と眼球ぐらいは切り取っても」
……と思ったが、綺星の嫌悪感を隠そうともしない表情を見て止めた。
「冗談だ。かなりダークだったけど。忘れてくれ」
再度、綺星の手にプレートがあることを確認すると、いま一度地下の階段を降りて行った。
そして、扉の近くにある機械に、綺星がカードを当てる。すると、機械がなにか音を鳴らしたかと思えば、画面に赤い文字が浮かび上がった。
「……知っている文字じゃない」
綺星がその文字をじっと見て言う。
文音も後ろから覗くが確かに知らない文字だった。ひらがな、カタカナ、漢字のどれでもない。
「ま、読めなくてもいい。開けるぞ」
そして、扉の取っ手に手を伸ばしたが、ガタッという音が鳴るだけ。今なお扉は固定されており、開く様子がない。
「……開かない?」
「あぁ……あかないな」
……このカードキーでは開かないということだろう。この文字はさしずめ、エラーかロックといった意味の文字か。
「……その、やっぱり、……その……指?」
綺星が自分の指を見て恐る恐る口にする。
事実、あと試せるとしたら、あの人の指を切り取ってくるとかか。ほかの人のカードキーを手に入れる術はないだろうし。
「いや……、キーは合ってるだろう。機械がなんらかの反応は示していた。そもそも、これが指紋認証の類なら、カードキーで反応すらしなかった。
ということは、このカードキーでは入れない場所ということになるな」
「……ど、どうしよう」
オロオロし始める綺星を横目に、文音は一歩前に出た。
あんまり、考えている時間はないと見たほうがいい。これ以上ここで時間を食うべきではない。
腰を落とし、目の前の扉に向かって攻撃態勢に入る。
「……どうするの?」
「無理やりこじ開ける」
実験施設にあった一部の扉は文音たちの力では破れないものだった。だが、あれば文音たちに対応するために作られた特注。実験動物の力に耐えうる前提で作られたものだろう。
だが、この研究施設の扉は同じものである必要はない。ここの扉なら、こじ開けられる可能性は十分ある。
激しい音ができるだろう。ガラスを一枚割るのとはわけが違う。
だが、それだけの価値はあるはず。少なくとも、警備員が入れないレベルのセキュリティなら、何かしらが中にあると見ていい。
あの注射器があるとすれば、そう言った場所のはず。
「変身」
再び、瞬間的に化け物の姿にあると、壁を爪で勢いよく切り裂いた。その瞬間、はっきりとした手ごたえを感じる。
文音の放った衝撃に耐えきれなかった扉は大きく曲がる。一部は向こう側に向き飛び、新たな経路を見せる。
「頑丈なセキュリティだったな」
無事、開けることができた扉を押し、文音から率先して入っていく。続くように綺星も入ってきた。
今、目の前に広がっているのは一筋の廊下。懐中電灯の明かりだけでは、どこまで続いているのかピンとこない。
だが、人の気配もなさそう。
「ひとつずつ部屋を覗いて行こう。それっぽい部屋は片っ端から開けて確かめていくぞ」
文音が先に一歩踏み出す。だが、綺星の足は進まなかった。懸命に廊下の奥を懐中電灯で照らし続けている。
「……が、……ガス……とか……ないかな」
「……あぁ」
そりゃ怯えるよな。一度、同じ地下に巻かれた毒ガスで、死にかけた。、いや、死んだんだ。トラウマとかいうレベルではない。
そう考えれば、文音も意識するなというのが無理な話。一気に背筋が凍る。だが、なんとか気を落ち着かせ、思いっきり無理やり息を吸い込んだ。
「ここでの毒ガスはないよ。外には人間だってまだいる。被害がわたしたちだけじゃすまない」
……と思う。
どちらにしても、ここで引き返すわけにはいかないんだ。進むしかない。
綺星もそれはわかっているのか、小さくではあるが首を縦に振ってくれた。