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第15話 ガラスの向こうから

 オリジナルの奈美を先頭にして施設の中を進んでいく。以前、オリジナル一樹は一樹の手で人質状態。


「東くん? どう? 自分のコピーに脅されている気分は?」

「誇らしいかな。これが親の気持ちかな?」

「それはそれは。楽しそうで何より」


「口は閉じろ。足だけ動かして」

 一樹が低いトーンで勧告する。


 彼らは足は進めているが、どこか緊張感に欠ける。一樹のこの警告に対しても、お互いに顔を見合わせ笑みを浮かべている。


 思えば、奈美たちのことを見て恐れを見せていない人間は初めてだ。手助けしてくれたアリサも最初は恐怖を感じていたのに。


 いざとなればどうにでもなると思っているのか。策があるのか。どちらにしても、この人間ふたりは奈美たちを恐れはしない。


 だが、それが信頼などではないのも確かか。彼らは奈美たちを、今でもなお、完全に下に見ている。


「はい。ついたよ。ここに君たちのお友だちは入れられている」

 ふと、オリジナル奈美が扉の前に立ちどまった。


「え? 近っ!」

 思わずそう口にしてしまう。


 階段など使っていない。つまり入り口と同じ一階。しかもエントランスから数部屋離れている程度。

 もっと奥だと思っていたが。


「本当にここ?」

 一樹がオリジナル一樹に今一度銃口を突き付けて問う。


「監禁されているなら地下か最上階かと思っていたんだけど?」


「疑うなら確かめればいいじゃない。もし、彼らがいなかったら、また案内をしてあげるし。さぁ、どうぞ?」


 扉の隣に立ち入出をうながしてくる。それに一樹が一度思考する様子を見せていた。いろいろ可能性を考慮しているのだろう。

 やがて、オリジナル奈美に指示。


「開けて。中の様子を見せて」


 すると奈美は「快く開けるよ」なんて言い、扉を普通に開けた。そして、同時に部屋の様子が目に飛び込んできた。


 そこまで広くはない部屋だ。そして、部屋の奥がガラスの壁で仕切られている。その奥には……。


「響輝くん! 喜巳花ちゃん!!」

 ふたりがちょうどガラスの向こうに監禁されていた。


「奈美ちゃん。待って」

 部屋に入りかけたが、直後一樹に止められる。


 だが、オリジナル奈美が理解したらしい。ひとり先に部屋の中へとこっちを向いたまま入っていった。


 くるりと体を一回点させて“なにもない”とアピールしてくる。


「……奈美ちゃん」


 一樹から合図を受けたので、一足先に部屋に入っていく。直後、なにもないことを悟ると同時、ガラス壁に向かって駆け抜けた。


 ガラス壁に到着。向こう側にいる響輝と喜巳花が合わせてガラス壁に張り付いてくる。だけど、口を動かしているのは見えるが、声が聞こえない。


 割ってやろうとこぶしを振りかぶる。だが、システムを使っている今でもなお、やはりこのガラス壁はビクともしなかった。

 乾いた音だけが部屋の中に響き渡る。



「やぁ、こんにちは。君は六号、……三好奈美と自覚している子ですよね?」


 目の前のガラス壁と響輝たちに気を取られて、反応に一歩遅れた。顔を向けると、そこにはオリジナル奈美たちと同じように白衣をきた人間が三人。


「ようこそ。ふたりを歓迎しますよ」

「動かない! 撃つぞ!」

 奈美に近づこうとした男性にけん制するように一樹が声を荒げる。


「無様だな。なかなか愉快な光景じゃねえか」

 別の男性がオリジナル一樹を見て、同情より、煽りをしていく。

 この人たちも奈美たちを恐れている様子は微塵もないか。


「……君たちも、……オリジナルなの?」

「正解です」


 中央の男性が言うと、自分に手を当てた。

「初めまして。わたしは和田ライトといいます。そして、右が高森喜巳花さん。左隣が脇響輝さん」


 それを聞いて思わずガラス壁にほうに視線を向けた。声が聞こえないが、必死になってガラス壁を叩く喜巳花と響輝。


 再度、彼らのほうを向いた。

 堂々と立つオリジナルライト。両手で手をふるオリジナル喜巳花。そして腕を組んでこっちを見ようともしないオリジナル響輝。


「ふたりになにをしたの!? 解剖とか書いてあったけど」


 聞くと、オリジナルライトが隣にいるオリジナル喜巳花に指示をうながす。すると、オリジナル喜巳花は少し後ろに下がったかと思えばなにかスイッチを押しだした。


『おいっ! さっさと出せ!』

『奈美! 一樹! よう、生きとった! グッジョブやで!』

『いい加減にしろよ! じゃねえと、てめら全員、ぶっとば』


「……」


 急に部屋に響輝たちの声が聞こえたと思ったらプツンとまた途切れる。スピーカーをオンにしないと中の声が聞こえないらしい。



「よかったやん。めっちゃ生きいい状態で保たれてるで」

「ま、健康を疑う必要はなさそうだよね。よかったじゃない」


 ……うん。よかった。

 すごく元気はよかった。一応、食料は与えられていたみたい。


「ひとまず、ここから出して」


 奈美がそう言うが、すぐに彼らは動かない。だが、一樹が人質をアピールすると、オリジナルライトが動きだした。


 いくらか後ろにある機器を操作する。すると、なかなかに大きい音が部屋に響き始める。

 そして、音と同じくガラス壁がゆっくりと上に上がっていった。


 ガラス壁の下をくぐって真っ先に奈美のほうへ飛び込んできたのは喜巳花。


「やった! 助かったで! 自分ら、ようやるやん!」

「き、喜巳花ちゃん……」


 本当に監禁されていたとは思えない元気っぷり。だが、響輝の動きは喜巳花とはまったく違った。


「響輝くん! ストップ! 手を出さないで!!」

 一樹が響輝に制止を呼び掛けた。


 そしてその響輝はというと、ガラス壁が上がると同時、ある男性のもとへと駆け抜けていた。


 響輝はオリジナル響輝の胸ぐらをつかんでいた。

 今にも殴りかかりそうな響輝とオリジナル一樹がなだめる。


「だとよ。二号の言う通りにしたほうがいいぞ」

「関係あるか! こっちが人質握ってるんだろ? だったら一発は殴らせてもらうぞ」


 これはマズイと思い動く。響輝の腕を握ると少し強引に、オリジナル響輝から引きはがした。


「おい、三好! 離せ!」


「一樹くん。聞いて」

 暴れようとする響輝に一樹がまた声をかける。


「こっちはたしかに人質を持っている。だけど、これが有効なのはこっちが手を出さないという条件である限りだと思って」


「……なんでだよ」


「あくまで彼らが言うことを聞くのは、この人質の命を天秤にかけてのこと。代わりにほかの人に危害が及ぶことになれば、話が変わる。

 ここで手を出せば、彼らは割り切って反撃にでかねない」


「……この個体。そうとう冷静に思考しますね」

 これに一番反応したのはオリジナルライトだった。本当に驚いたようで、目を見開いて一樹を観察しようとする。


「……わかったよ」

 それにやっと察したのか、響輝もこぶしを下ろした。


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