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第14話 一樹のポテンシャル

「要件を聞こう。一樹くん?」


 銃口を向けられているのに余裕の雰囲気を消して崩さない男性、オリジナルの一樹。

 対するこちらの一樹が答える。


「脇響輝くん、そして高森喜巳花ちゃんが捕まっているところまで案内してもらう」


「それはオリジナルの人物のこと? それとも、君と同時期にコピーされた個体のこと?」


「……後者だ」

「なら、もう死んでいるよ。処理済みだ」


「なっ!?」

「それはウソだね」


「……え?」


 この一瞬で二連発驚かされた。

 一樹の問いに間髪いれず衝撃の事実を言ったオリジナル一樹にまず一回。そして戸惑い見せず否定する一樹。


 もう、自分ではどうしたらいいのか。いや、できることがまったく思い至らない。


 少し離れたところで聞いていたオリジナル奈美がポツリと言う。

「東くんが言っていることは本当だよ。もう手遅れだから」

「残念、ウソだ。わかっているんだ」


 なおも一樹は否定。

 だけど、奈美には一樹が一方的に否定できる意味がわからない。正直、可能性としてはあり得る話だと思っていた。十分にあり得る。


 だが、あっさり否定する一樹を前に、奈美自身、少し冷静に居られた。ここで一樹が口を閉ざしていたら、きっと自分は……ここに崩れていた。


「なぜそう思う?」

 当然、オリジナル一樹が質問をする。


「まず、あっさりと口にした理由は、僕たちを精神的に追い詰めるため。救出に全力的な奈美なら、それを聞くだけで挫折したはず。

 まず、狙いははっきりとしている。


 だが、それなら口だけで十分だ。そうやってただセリフを言えば狙いを遂行できる。本当に殺さなくてもできること」


 ……一樹の言う通りだ。しっかり見透かされている。逆に言えば、あそこで速攻で否定したのは、半ば奈美のためだったのか。


「うん。狙いは合っているね。君たちは感情を与えられているからこそ、こういうたぐいの攻撃で制御できる。

 だけど、それが死んでいないという保証にはならないよ」


「そう。だけど、死んでいるという保証にもならない。そうである以上、僕は疑い続ける。僕たちを作ったとかいう人間を信用するつもりは一切ないから。

 案内してもらうまで、銃口を突き付け続ける」


 ピリピリした空気が走るなか、一樹は一段と声を張り上げ続ける。

「僕を信じこませたかったら、ふたりの首でも持ってきたらどう? それか死体のところまで案内してもらおうか?


 それとも焼き払った? なら、映像でもいい。ただし、見覚えのある景色の映像なら、あの実験場でのものだと判断するよ」


 オリジナル一樹が少し顔を引きつらせて首を横にふる。

「……おかしいな。僕、そこまで割り切った性格であるつもりはないんだけど」

「なら、成長したんだんだよ。やたら僕たちを追い詰めようとする人たちがいたんだし」


 一樹は今度、銃口をそのまま、オリジナル奈美に顔を向ける。


「もし、本当に殺していて、そして僕らに絶望を与える目的があったなら、僕らに確実に死を理解させる証拠を残しているはず。

 こうやって疑われたら意味がないから。


 でも、今戸惑って、首のひとつ見せてこない。生きているんだよね? 案内してくれる? ねぇ、おばさん?」


 一樹がおばさん呼ばわりすると、心なしかオリジナル奈美の表情がピクリと動いた気がした。笑みの裏に、怒りが混じっているような。


「わかった。お姉さんが案内してあげる。二体ともついてきてくれる? この“お姉さん”に」


 やたら「お姉さん」を強調してくる。ツボが押されたらしい。


 オリジナル奈美はゆっくりと歩み始めた。それに合わせて、オリジナル一樹としっかり密着させている一樹が進む。


「おっと、他の人たちは銃を下ろして」

 ここで、周りにいる武装集団の銃口が一樹に向けられる。だが、瞬時に一樹は反応。すばやく指示を出す。


 だが、一向に下ろす気配がない。すると、オリジナル一樹が手を挙げたまま、手首だけで下ろすように仕草をしてみせた。


「みなさん、下ろしてください。この二号は僕を撃ちませんよ。ここで撃ってもデメリットしかない。それがわからないほど、チープな知能でないことは、十分分かったでしょう。


 ねぇ?」

「手助け、どうも」


 オリジナル一樹がそう言うと、武装した人たちは銃口をバラバラに下ろし始めた。さらに一樹が「ここで待機」と命令。

 そのまま、オリジナル奈美を先頭にこのエントランスから離れようとする。


 ここまでの一樹のやり取りに、奈美は戸惑いを隠しきれなかった。こんな一樹、今まで見たことなかった。


 奈美から見た印象としては、自己主張しないおとなしい子。……いや、賢そう、という雰囲気はあった。いろいろ知っているな、とも。

 だが、ここまでのことをする子だというイメージはまるでなかった。


 だけど、思えば当然かもしれない。

 あの実験場では相手にするのは基本、言葉など通じない化け物。状況が根本から違う。


 そして、この点を考慮してみれば、彼らにとってこの一樹の動きは、本当に想定外だったんじゃないだろうか。

 少なくとも、あの実験場で、ここまで一樹のポテンシャルが引き出されたことはなかったと思う。


「奈美ちゃん。ぼーっとしてないで行くよ。後ろの安全確保、お願いするよ」


「……あ、う……うん」

 そして今は、奈美のほうが一樹に引っ張られている。


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