第12話 暗闇の中を進む
施設の入り口。
ドア一面に貼られていたガラスは一樹の手によって破壊。先に一歩、施設の中に入っていく。
懐中電灯を片手に暗闇へ進んでく一樹の背中を追いつつ、ドアの枠をそっとくぐった。
にしてもガラス、いとも簡単に割れたな。学校に貼られていた外ガラスや、奈美たちを閉じ込めたガラス壁はバカみたいに割れなかったのに。
いや、でも学校の内側の窓は割れやすかったな。あんなガラスはそうそう使えるものじゃないのだろう。
あれも、軍事技術の塊なのかも。
そんなことを考えつつ、施設の中に足を進めると、一樹がふと手元の懐中電灯をこちらに渡してきた。
「……あたし、もう持ってるよ?」
すでに自分が握っている電灯を振る。今はお寝んねしてる警備員が持っていたのを貸してもらったやつ。
当然、一樹も入手経路は同じ。
「いいから。ふたつともつけてて」
そのまま強引に渡され、奈美は両手に懐中電灯を握る状態になった。……なにこの無駄な装備?
さらに一樹は小声で続ける。
「ひとまず構内図を見つけよう。たぶん、入り口に近いところにあると思う。じゃ、僕はこっちを行くから、向こうをよろしく」
「え? ライトは?」
そう聞こうとしたが、それより先に一樹はすたこらと歩いて行ってしまう。
大声は出せない、というか会話自体少なくしたいこの状況じゃもう止めようがなかった。
静かにまるで足音も立てない一樹を見習い、自分もそっと足を進め始めた。懐中電灯ふたつの明かりを照らしていく。
実際は、ふたつあれば、それはそれで便利ではあった。右と左、前と後ろ。両方同時に照らしつつ行けるので、周りの判別が楽になる。
だが、逆に言えば明かりがなければ本当になにもない。真っ黒な世界だ。この施設自体、町から離れた明かりとは無縁の森の中。
周りの明かりもないし、建物の中にも明かりがなければ、そこは完全な暗闇。懐中電灯がなかったらまともに行動できそうにもない。
一樹はこっちにふたつとも懐中電灯を渡してきたけど、どうつもりで? 一樹でもこの暗がりはどうしようもないと思うのだが。
いろいろ思考を巡らしつつも、明かりがあるボードをとらえた。懐中電灯の明かりを反射するそれは、まぎれもなく掲示板。
そして、狙い通り、構内図だった。
少し慌ててしまい足音を漏らしたが、そのまま近づく。
まずは現在位置の確認。赤い印が付いていたからわかりやすい。入口の場所も確認オッケー。
なら……、響輝と喜巳花たちが捕まっているのであろう場所。
オリなどといったあからさまなものは記されていない。倉庫……ワンチャンあるか? PC室は違うか。 ……何個かある研究室なら。
可能性がありそうな場所をピックアップして進行ルートを模索してみる。
だが、その直後だった。
急に目の前全体が光に包まれる。否、辺り全体に光が生まれた。そしてそれに反応するより先、後ろで大量の足音。
振り向いた時には、明かりがついたエントランスより、何個もの銃口がこちらに突き付けられている状態だった。
しまった。構内図に気を取られ過ぎて、周囲に気を配りきれていなかった。
すでに空間全体が明るくなっており、奈美の身は露わに。手に持っている懐中電灯は意味をなさないように。
「なんの策もなしに潜入か。もうちょっとなにか策を講じてくるかも、と思っていたけど。
ま、これが限界レベルなのかな」
そんな声が武装した集団の後ろから聞こえてきた。
その人は女性。……いや、もうひとりとなりには男性もいる。そのどちらも、武装した人たちとは明らかに違う雰囲気を出していた。
白衣を着て、一件優しそうな表情を見せる彼らは、どう見ても非戦闘員。というより……研究員か。
武装した人たちを壁にするように、奈美から離れた位置を保つふたり。
にしても、どうする? 本当にまずいぞ。こんな簡単にピンチになるとか……。浅はか過ぎた……。いや、助けたい一心で考えることをやめていた。
奈美の前をしっかりふさぐ武装集団の銃口はすべて確実にこちらを狙っている。しかも後ろは構内図……がある壁。
打開できる策はひとつか。一瞬で間合いをつめて、混戦に持ち込む。同士討ちを嫌って撃たれない状況に持ち込めれば。
だが……一瞬でも動いたら……撃たれるか。
「君は六号だよね? じゃぁ、あたしの記憶を持っている個体だね。そして……うん? ……あれ?」
しゃべっていたと思ったら今度は少し表情を曇らせる女性。となりにいた男性が今度、くちを開く。
「六号、一匹だけのかい? ほかは?」
「ここだよ!!」
力強い声が男性の口を遮る。その声は一樹のもの。
いつのまにか男性の背後をとっていた一樹。後ろから白衣をしっかりつかみつつ、右手に握られたピストルが男性の頭に狙いをさます。
「むろん、策は講じてきたよ」
一樹はそう、女性に対して自身たっぷりに言って見せた。