表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/168

第11話 潜入開始

 人工的な建物を森の中に確認できた奈美と一樹。とにかくその方角へ向かって歩み進めた。


 距離としてはさほど遠くなく、すでに沈みかけていた太陽が沈み切るより先、建物のすぐ近くへとたどり着いた。


 森の陰から建物の周辺を確認していく。

 警備は入り口にふたり。それ以外の警備はどうやらなさそう。屋上や上の窓あたりも確認するが、それらしい人はいない。


「……思ったより警備員、少ないね」

 一旦、森の奥に隠れてボソリと口にする。隣で一樹が静かに首を縦に振った。


 予想ではすでに厳重態勢が敷かれていると考えていた。むろん、それはこの施設に潜入して響輝達を救出しようとする奈美たちに対応するため。


 だけど、そんな気配がまったくない。


「どういうことだろう。あたしたちが来るはずない、って思っているのかな? それか……この施設は響輝くんたちが捕まっている場所とは違う?」


「どうだろう。でも、新聞の情報が正しいとは限らないしね。いや……そもそも、目的とは違う場所に着いたのか」


 たしかに。もう既に森の中を迷いに迷ってたどり着いた状態だ。ここが目的の場所であるという確信は持てない。

 だが、こんな森の中の施設がそうそういくつもあるものだろうか。


「僕らを誘っているのかも。中に入って来いって。あの新聞の記事も、僕たちをおびき寄せるための手段であった可能性は高いんだし」


 一樹がごもっともな意見を述べてくる。この状況じゃ、もっとも妥当な推測だろう。そして、考えうる限り最悪の状況。

 ……いや、どう考えてもその可能性が一番高い。


「狭い施設の中で迎え撃つつもりなんだろうね」

「うん。そしてそう考えれば、罠をわかっていながら入っていくことになる。


 野外なら身体能力で優れる僕らに有利に働くかもしれない。でも、建物の中なら機動力が奪われるし、施設の構造も把握していない。

 完全に相手の陣地。分が悪い」


「……それはどうかな。だって、あたしたち、学校の中、建物の中でずっと戦わされてきたんだよ?

 むしろ、あたしたちの領域と考えられるかも」


 奈美の記憶は一回分しかないが、過去の自分たちはさんざん、あの建物の中で戦わされ続けていたんだ。

 施設内での行動が弱点とは思えない。


「……そうか。それを考えたら……むしろ建物内での戦闘を想定されて僕らが作られたと……。

 向こうの意図がわからないな」


「……意図とかどうでもいいよ。あたしたちはもう、救出する以外の選択肢はとっくの昔に捨てたんだから。ましてや目標が目の前にあるのに。


 もし、侵入して、ここじゃないと分かったら、また移動するまで。さっさと始めよう」


 そう意気込み、手に力を籠めようとした。だが、そんな奈美の目の前に果物、柿がぬっと出てきた。

 思わず、声をあげかけ、慌てて手で口を閉じる。


 それは当然、一樹からのものだった。


「潜入前に少し休憩してからいこう。森の中を歩き続けたし、疲労もたまってる。まだ完全な夜にもなっていないし、一旦落ち着こう」


 そう言うと、一樹は持っていた袋をそっと地面に落とした。残り少ない果物が露わになり、そこからひとつ取り出しかぶりつく。


 合わせて自分のウエストポーチから水を入れているペットボトルを口につけ始めた。


「どうせ、潜入中に食べられる余裕もないし、しっかり食べておかないと。奈美ちゃんの慌てたい気持ちもわかるけど、戦う力はつけないと。

 施設内で食料奪えればなおグッドだね」


 そうしゃべりつつも次々に果物を口に入れていく一樹。その姿は、まさにここが正念場だ、と言わんばかり。


 そして、事実そうだろう。貰った柿にかじりつきつつ、袋から奈美も果物をとってはひたすらかじりついた。




 そして、完全に闇に染まる夜になったころ。休憩をして少し落ち着きを取り戻した、奈美と一樹は建物の入り口付近で身を潜めた。


 警備隊がライトを片手に入り口のあたりを警備している。ここから見る限り、入り口の中には警備隊がいる感じもない。


 ひとまず、入り口の警備隊ふたりを黙らせるところから行くとしよう。


「一樹くん。一応言っておくけど」

「できる限り殺すな。でしょ? 善処はするよ」


 もう、さんざん口にしてきたので一樹もわかってくれていた。


 正直、奈美自身も人を殺さず救出が可能だなんて思っていない。だけど、自ら進んで殺すのは絶対に間違っている。


 正義? 道徳? ……そうじゃない。ただ、奈美たちが人を殺すことを目的のひとつとして作られているなら、それに形だけでも抗いたいという思いなだけ。


 ここで人殺しを良しとすれば、……完全に向こうの思い通りなのだから。


「合図で飛び出すよ」

 隣にいる一樹に指示。腕でリズムを取りつつ、ふたり同時に森の中を一気に飛び出した。


 システムを使用した状態の奈美たちは、やはり人よりずっとすばやく動ける。警備員の頭上を見事に奪い、動きを封じ込めることに成功できた。


 頭部を狙った一撃は思ったより強く入ってしまい、警備員は意識を失い倒れてしまう。残念ながら、死んでしまったか確認する余裕はない。


「入り口、開かない。鍵ある?」

 後ろから一樹の声が聞こえてくる。


 警備員の持っていたライトを持って、警備員の服をいろいろあさるが鍵らしきものは見当たらない。持っていないか……。


「……見つからない」

 あるかもしれないけど、……この暗がりじゃ探すのに時間がかかりそう。


「……わかった。グズグズせずに行こう」


 まだ、奈美が警備員の体を探っている中、後ろで急にガラスの割れる音が聞こえてきた。

 一瞬、敵が来たのかと思い振りかえるが違う。


「……随分と静かなノックをしたものだね」

 入り口のドアに貼られたガラスは粉砕され堂々を侵入する一樹の姿がそこにあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ