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第10話 森の中

 町から拝借してきた地図を片手に、森の中をひたすら移動していく奈美。一樹が盗んだ果物が入った袋を手に隣がいる。


 ただ、言っていた通りまともな目印が存在しないため、感覚に任せて歩き進めている状態だった。


 おそらく、最初に進みだした方角自体はあっていると思う。だが、その後もまっすぐ進み続けているという保証はどこにもない。


 方角をできる限り見失わないように、直線的に進もうとするのだが、そうすれば道は必然的に険しいところも進まなくてはならない。


 ことあるごとに、険しい道を進み続けるか、迂回するか選択を迫られる状態が続いていた。


「……また崖……。これ……どうしよう」

 一樹がため息つきながら見上げている。


 目の前に現れたのは嫌ってぐらい高い崖。とてもじゃないが、ノッククライムしてやろうという気には慣れない。


「方角……あっているよな。……奈美ちゃん、回りこもうか」


「いや、もう使っちゃおう。さすがにこの調子じゃ間に合うかわからないしね」

 そう言い、自分の腰に巻きつけられたウエストポーチに手を当てた。


「ドレスアップ」

 謎の光に包まれつつ、羽織のドレスが体を包み込む。そのまま、思いっきり跳躍をしてみた。


 その跳躍は目の前の陰を飛び越え、無事に着地に成功。

「ほら、一樹くんも」


「……あぁ、そっか。しばらく使ってなかったら、選択肢になったや」

 同じくドレスアップのシステムを使用した一樹が跳躍。奈美のちょうど隣で着地をしてみせた。


「……よし、じゃぁ、このまま一気に進んでみよっか。体力が持つがどうかはわからないけど」


 システムの力を利用すれば身体能力は大幅に向上する。一気に時間短縮を図ることはできるはず。


「いや、待って」

 だが、奈美が走り出すより先、一樹が止めてきた。


「どっちに向かって進むつもり?」


 一樹の質問に少し首をひねった。その後すぐ、目の前を指さす。

「……え? どっちって……こっちだよ」


「……うん。うん……わかったよ」

 指を差した方向を見る一樹は首を縦に振って納得したようなフリをする。だけど、心の奥ではそうでないのは明白だった。


「どうしたの? ……心配事?」

「……心配ごと……ないわけないよね?」


 ……ごもっともである。


「いや、このまままっすぐ進むしか方法がないのはわかっているよ。もしかしたらだんだん方向がずれているのかもしれないけど、それを知る術もない。


 変にかもしれないレベルで方向転換しても、逆に目的地から遠ざかる可能性が高い。なら、このまま進むしかない。


 でも、必要以上に急ぐのはやめよう。それよりは……周りに川がないか探しつつ進んでいこうよ。

 耳を済ませれば聞こえてくるよ」


 自分の耳に手を当てて周りに意識を向ける仕草をする一樹。そのまま、一歩ずつ先に前に向かって歩み始める。


 少しあっけに取られたあと、一樹の背中を追うようについて行く。


「なんで川?」


「当然、水分補給するためだよ。果物だけじゃ、水分が不足するし。ただでさえ、栄養不足なんだから、水分は意識しないと」


 そう言って一樹はウエストポーチからペットボトルを取り出した。中身はなにも入っていない。そこに水を入れる予定らしい。


「……それ……どうしたの?」

「……ゴミ箱からあさってきた」


「え!? きたな!!」

「……それぐらいは……我慢する覚悟だよ」



 それから、ただただずっと、森の中をひたすら歩くだけの時間が流れていった。太陽は一度折ってしまい、完全な暗がりになってしまう。


 周りに町や道が一切ないため、暗闇の度合いはすさまじい。おまけに森の中で月の光も地面にまで届かない。

 残念ながら、太陽が昇るまでは、移動を断念しなければならなかった。



 太陽が昇り始めれば、再び歩き始める。タイムリミットは一日に迫っている。ただ、歩いて歩いて、ひたすら歩き続けたが、一向に目的地へたどり着ける感じはなかった。


 唯一の情報と言えば、施設は山の中にあるであるという予測に近いもののみ。それを信じて、山のふもとに向かい始めていれば、引き返すといったことをして、とにかく進むだけ、進んだ。


 ……だが、時は無情で、一度また昇っていた太陽もまた、沈む時間が近づいてきていた。


「……はぁ……。ゴメン……ちょっと休憩したい……いい?」

「……僕も……気持ち的に限界だよ」


 お互い、そのままほぼ同時に地面に転がり込んだ。


 体力という面も確かにあるが、それ以上に気持ち的にかなりまいっていた。

 このまま歩き続けても確実にゴールできるわけではない、という現実が、精神的にかなり追い込んでくる。


 一樹から渡されたリンゴを受け取り、力なくかじる。最初は複雑な味にいちいち感動していたものだが、今となってはなにもない。

 ただただ、味を実感するでもなく、腹を満たす作業になっていた


 しばらく休憩をはさむと、一樹が立ち上がった。

「ちょっとまた木、登ってみる」


 リンゴの芯をそこらに投げ捨て、近くにある木をすばやく昇っていく。途中途中で、高い木に登って周りを見渡すのも作業のひとつになっていた。


 だけど、いつも見えるのはどこまでも続く森だけ。特別高い木でもなければ、遠くを見渡すこともできない。


 どうせ、今回も同じ結果だろう。そんなことを思いながらチビチビとリンゴをかじりつつ、一樹の帰りを待っていた。


 だが、起こる。

「文音ちゃん! 登ってきて!」


 上から一樹の声が聞こえ、とっさに反応する。

 今まで、こんなタイミングで声を掛けられることはなかった。奈美もかけることはなかった。


 ……まさか。

 ふと訪れた希望に食べかけのリンゴを放り投げ、一樹が登った木を同じように登っていった。


「こっちこっち。右の木に飛び移って。来て来て」


 言われるがまま木を飛び移り、登り続ける。その木は周りからは一段と高く伸びており、森の頭を抜けると、さらに先があった。


 先に上っていた一樹が、先を指さしている。一樹と同じ高さにまで登りきると、指さす方向に視線を持っていく。


 基本的に回りは森、木だらけだ。太陽も傾き始め、辺りが赤色に染まり始めている。そして、そんな中で、ひとつ。


 遠目ではあるが、白いそれは周りから異才を放っている。間違いなく、人工的な建物だった。


「……見つけた」


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