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第6話 目標選択

「今、なんて言った?」


 文音の吐いた言葉がシンと荷台の中に響いた。その後はしばらく、ゴトゴトと車体が揺れる音だけが、定期的に耳に入ってくるだけ。


「……え? ……いや……」

 文音のこのセリフを吐き出させた張本人はあたふたとするばかり。こっちがにらみを利かせても、より委縮されるだけ。


 代わりにリーダーの男が口を開く。

「UMAが……三日後に……解剖だぁ? そりゃまたユニークな記事だな」


 なんて言うが、すぐ男の視線はこちらに向けられた。

「が、……実際、目の前にもUMAはいるんだもんな……。いや、はっきり見えている生物を未確認としていいのかはわからんが……。

 同じようなやつがほかにもいるのか?」


「……うん……。四人いた」

 綺星がそう、指を四本立てて言う。


 UMA、それがなにを意味するのか、はっきりとわかるものではない。だが、状況から考えて文音たちのことである可能性が高い。


 現状、確実に捕まっていると思われるのは、響輝と喜巳花か。町中に潜入したまま待ち合わせ場所に戻ってこなかったのがあのふたりだったはず。


 奈美と一樹に関しては……その行方はまるで知らない。


「三日後といったよな? そして、それは昨日の記事だと?」

 記事について答えてくれた男が小さく首を振る。


 それを見て、小さな窓から外を見た。太陽はもう沈む。……今日はもう終わりか。三日後ということは……。


「二日後……あさってか!」

 もともと、グダグダするつもりもなかったが、……想像よりはずっと急ぎ足になりそうな話だ。


「……文音ちゃん……、どうしよう?」

 細々とした声を出して見上げてくる綺星。

「あ、そうだ、ねぇ。その場所ってわかる?」


 オリにギリギリまで顔を近づけて問う綺星。それに対して、このことを教えてくれた男がひるみつつも口を開く。


「場所……書いてあったかも……でも覚えていないな」

 首を小さく横に振られる。


 すると、聞いていたリーダー格の男のほうが声を上げた。

「行先のアジトに昨日の新聞も残っているはずだ。それで確認するといい」


 そういうと、さらにギロリとこちらをにらみながら続けてくる。

「で、どうするんだ? えぇ? 襲撃の日程はどうする? 今日は絶対に無理だ。明日か? あさってか? もっと後か? ううん?


 襲撃場所は? 予定通りか? ターゲットを変更するか? 場所によっちゃ、予定は変更せざるをえないぞ」


「……」

 予定では、文音たちを研究しているのであろう研究所を襲撃する、という話で通っていたはずだ。


 だが、この状況で研究所を襲っている場合か?


「……文音ちゃん……」

 不安そうに声を震わす綺星。その表情を見れば思っていることはすぐにわかった。困惑気味ではあるが、救出したいと考えているのだろう。


「予定通り、研究所を襲撃する。決行は……、解剖日とされる二日後、早朝にする。それで、手を貸してもらえるか?」


 男はとくに驚いた表情を見せることもなく「いいだろう」とうなずく。だが、隣にいる綺星の表情はあからさまにくもった。


「……あ、文音ちゃん? た、……助けないの?」


 もっともな疑問に対して、文音はそっと綺星の頭に手を置き答えた。

「安心しろ。助けにはいくさ。だが、それも今じゃなくていい。まだ、わたしたちには奈美と一樹がいる」


「奈美ちゃん?」

「あぁ、あの子なら、このことを知れば、ぜったいに助けに向かう。奈美の性格は綺星もわかっているだろう。

 なら、ひとまずはあの子たちに任せようと思う」


 そもそも、文音と綺星は例の注射器を一本だけ使用した状態。力を使える時間は極々限られている。その状況で、救出ができるとは思えない。


 まずは、研究所から注射器を拝借するところからだ。


「研究所で注射器を奪いしだい、救出に向かって奈美たちと合流しよう。連中だって、二か所を同時に襲撃されれば、よりつらいだろう。


 それに、研究所なのだから、その解剖するとか、言われている場所と同じである可能性もあるしな。

 そうであれば、もうけものかな」


 納得してくれたのか、綺星の首が強く縦に振られた。奈美にあるあのド直球なお人よしは、こっちも信用しやすい。


 そうやって、話が進んでいくと、別の男がリーダーの男に少し近づいた。

「待ってください。こいつらの力を使うっていう話じゃなかったんですか? この化け物の言うことだけ聞いて終わりなんて」


 ごもっともな意見だ。

 だが、男は豪快に笑って見せる。


「もう、いいじゃねえか。どっちにしても、このままいきゃぁ、国の連中は慌てふためくだろう。それに、こいつらはこいつらの意思で襲撃するっていうんだ。

 俺たちはなんにも関係がない。


 しかも、国を相手に自我を持つ動物兵器どもが救出劇だ。見ているだけで楽しそうじゃねえか。


 その代わり、派手にやらかしてもうらうがな」

 男はそう言い、歯をむき出しにしてニヤニヤと笑う。


「だが、ひとつだけ忠告しておいてやる。これは、おそらくだが罠だ。救出に向かったてめえらを一網打尽にするのが見え見えだ」


「それぐらいわかっている。その上で、救出するんだ。なぁ、綺星? 君は。助けにいかないという、選択肢があるか?」


 少し卑怯な問いだったかもしれない。だけど、綺星は臆することなく言う。

「ない。助けられるなら、いかなきゃ」


 綺星の答えにうなずくと、男に再度目を合わせた。

「そういうことだ」


 男は満足したように首をうなずかせる。

「なるほどな。さすが、動物兵器といったところか。罠に臆して敵前逃亡するようなほど、ヤワに作られているわけではないらしい。


 というか、施設の襲撃や味方の救出なんてのは、てめえら新型動物兵器の専売特許になるのかもしれねえな。


 てめえらを見ている限り、最前線に放り込むのを前提に設計されているように思える。危険な最前線でいくら死のうが、人の犠牲者はゼロと。

 本当にクズの考え方だ」


「……」

 文音たちを見て、兵器であることに納得するのか。それほどまでに、文音たちは人間から見れば、異質に見えるというわけなのだろうか。


「ま、襲撃……施設への潜入は決定事項だ。準備を進めていこう。だが、その前に……」


 男は少し文音たちが入るオリに近づく。すると、ぐっと自身の鼻を摘まみ上げた。


「まずは風呂だな。その途方もないレベルの獣臭を落とさねえと」


「……風呂?」

「……獣臭?」


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