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第5話 荷台の中で……

 ***


 ゴトゴトと揺れる荷台。お世辞にも快適とは言えない空間の中、文音と綺星はいた。


 現在、トラックの荷台に乗った状態で移動中。非情に密閉された空間で、ほとんど太陽光は入ってこない。

 代わりに明かりは弱いがランプが中でともっている。


 まだ、それだけならよかった。しかし、文音たちを囲うものはそれだけではない。ガッシリとした鉄の棒が何本も連なり、文音たちを囲う。


 ただでさえ密閉空間だというのに、そのオリは更なる圧迫感を生み出して仕方がない。下も完全な鉄板であるため、心地は最悪。


 こんなところでずっと居たら、頭がおかしくなりそう。


「ねぇ、もうちょっと他にやりようはなかったわけ?」

 両手を広げて“こんな場所”をアピールしてやろうと思ったが、それすらままならない狭さ。伸ばせば手はオリからはみ出る。


 荷台にはほかにも数名の人物がいた。ただし、どいつもこいつも完全武装。銃を肌身離さず握り締めている。

 おまけに、このオリからは全力で距離をとっている。


「一緒に運ばれるだけありがたいと思った方がいい。

 本来なら、てめえらが襲撃したい場所の方角だけ伝えて、あとは放り出すという選択肢すらあったのだからな」


 そうやって、文音に言葉を返してくれるのは、この組織の中心核であろう男。あれから、こうやってまともに会話をしてくれるやつすら、この男以外いない。


「だいたい、てめえらの姿をさらして移動できるはずもないだろうが」


「いや、そこを言っているわけじゃないんだけど。それは、わたしも理解している。問題は……」

 自分の足元を指さす。

「このオリだ。気分がいいものじゃない」


「この世界に、なんの仕切りもなく猛獣と一緒の荷台に、体をうずめるような勇敢なやつはいやしねえよ」


 ……猛獣か……。ま、実際にこの連中に爪を立てたのだからそういう印象を持たれても仕方がないのか。

 いくら達者にしゃべろうが、猛獣は猛獣と。


 ただ、このオリで文音たちが捉えられるのかは知らん。本気を出せば、このオリ程度なら、簡単に脱出できそうな気がしないでもない。


 すると、となりで綺星が小さく口を開く。

「じゃぁさ、あたしたちだけを別の荷台に入れてくれてもよかったんじゃ?」


「だったら、てめえらの監視がなくなってしまうだろう。そんな状態にするわけにはいかねぇ。なにをしでかすかわかったものじゃない。


 猛獣……いや、それ以上の力を持ちながら、人間と同等の知能まで持つ。それが俺たち人間にとって、どれだけ脅威に映っているのか。

 到着するまで、その立派な頭脳でせいぜい考えるといい」


 ……考えるまでもないな。さぞかし驚異的なのだろう。もし、実験場で戦ったのあの化け物たちが知能を持っていたら、と考えただけでも恐ろしいんだ。


 あれが、パワーでも文音たちを上回っていたとしたら……、とてもじゃないが、太刀打ちできるとは思えない。


「……うん? 太刀打ちできない……そうだよな……」

「どうしたの、文音ちゃん……?」

「……うん? あぁ、いやぁ……まあな」


 ふと、思ったが、文音たちに太刀打ちできない、というのは国の連中にとっても同じじゃないのだろうか。


 事実、実験場では簡単に武装した人間をに練りつぶした。ここの連中にも簡単に牙を向けられた。


 そう、文音たちを制御する方法が、国は持っているのだろうか。いや、あるだろう。……そうでなければ、リスクがでかすぎる。


 有効手段のひとつが、一度文音たちを殺した毒ガスだろう。だが、あれを町中で放てるわけがない。ほかにも、文音たちを対処する方法を握っているはず。

 しかし、それは一体、どういうものなのだろう。


「……ねぇ、国がわたしたちを止める手段として、どんなのを持っていると思う?」

「……あ?」


 男は質問の意味がわからなかったのか、疑問を投げかけてきた。なので、少し言い方を変えてみる。


「わたしたちを殺す手段、国はどれだけ持っていると思う?」


「……そんなの知る由もねえな。ま、アグニマルをぶつけるか、機関銃による弾幕か……、爆弾投下か……。……あとは毒ガス……。

 どのみち、てめえらとはまた違う、兵器武器を使用するんだろうな」


 アグニマルでは止められない。銃は……わからない。一発程度でどうこうなるとは思わないが、たくさん食らえば危ないかも。毒ガス……爆弾……。

 どちらにしても、兵器である以上、町中で使えるものじゃない。


「それこそ、直接施設に殴りこんで、お役人に質問してみたらいい。俺らよりずっと確実な返事をしてくれることだろうよ。実践で示してくれるかもな。

 できるなら、その情報を俺らに流してほしいもんだ」


「……善処しよう」


 にしても、思えばやつらの手の打ちはまるで見えていないのだよな。武装したやつらにも余裕で抗えたから、調子に乗って攻めに出ようとしている。


 だが、やつらの文音たちに対応する手段を知り尽くしていない以上、簡単な話ではないのかもしれない。


 そんなことを思いふけっていると、となりで綺星が少し前に出た。

「ねぇ、それって新聞?」


 綺星が指さす先は、別の男。その手には文字がびっしりと詰まった紙束。だが、そいつは、それを聞いても固まったまま動かない。


 代わりにリーダーの男が答える。

「その通りだ。興味あるのか? 恐ろしい話だ」


「……ねぇ、あたしたちのことって、どうなってる?」


「どう? また、あいまいな……。そうだな……、最初、未知の生物が目撃された、なんて情報はまぁ、そこそこの大きさで出てたがな。

 俺たちもそれを見て、てめえらを捕獲したんだしな。


 だけど……あれから、どうだろうな……。それらしい情報はなかったか?」


 周りに質問する男。新聞を実際に持っているやつは無反応。となりにいるやつは小さく首を振る。


「ま、そういうことだ。ためえらの記事は」

「記事は……その、続いてますよ」


 おそるおそる手を挙げたひとりの男。

「本当に小さな記事ですけどね。……というより、うわさの都市伝説みたいな書かれ方。……で、確か……昨日だったかな……。


 その、捕獲されたUMAの研究解剖が三日後されるとか」


「……おい……、今……なんて言った?」


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