第3話 知能を与えられた意味
「この三日間の猶予はお前らの実験のためだけではない? なら、ほかに……どんな理由があるんだよ」
「最後の時を一緒に遊んでくれるんとちゃう?」
「喜巳花は黙ってろ。全力で、今すぐから」
空気を読めない……いや、読まない喜巳花の口をしっかりチャック。喜巳花をにらみつけた後、顔の向きを戻す。
対するオリジナルライトはアゴに手を当て少し笑みを浮かべた。
「君たち、アグニマルの記憶は当然残っていますよね?」
「……アグニマル? 記憶もなにも、その単語すら知らねえよ」
もしかしたら、最初あの部屋に突っ込まれたとき聞いたかもしれないが、覚えちゃいない。
「君たちが実験施設で倒してきた動物兵器のことですよ。あれもクローンではありますが、別にまともな知能も感情も人格も与えてはいません。ただ、プログラム、命令通り動くものです」
あれ……か、あの化け物ども。ま、確かにあれは知能も感情もまるでなかったな。ただ、響輝達を襲い続ける……兵器か……。
「で?」
「しかし、新型……いや、試作型である君たちは違います。こうして会話しているように、知能も感情も人格も、すべて与えられています。コピーではありますが。
それはなぜなのか。推測は出来ますか?」
「てめえらの思惑なんざわかるわけねえだろ」
「一緒に遊ぶためやろ? あいたっ!」
軽く喜巳花の腹にこぶしを打ちつけておいた。
「待ってや、六号。さっきからもうひとりのうちの扱いひどない?」
「君も黙っていてください」
なんか良く分からないが、ガラスの向こうでも似たようなやり取りしてた。
オリジナルライトは空気を戻すようにコホンとせき込み。響輝の回答に少し考えこむ。
「これは推測不可能ですか。……そう言えば世界情勢関係の知識はカット対象のひとつでしたね。
なら、難しかったでしょう」
そう言って指を一本立てるオリジナルライト。
「ひとつは単純な興味本位です。技術があるのだから、実際に使ってみたい。だけど、人間のクローン生成は実質禁止。
なので、人間扱いする必要のないアグニマルを使ってやってみた、ってところでしょうか」
そこで響輝が殴った腹を押さえている喜巳花が首をかしげる。
「……ん? おかしない? そのアグニマルっていうんは古いやつなんやろ? うちらとちゃうやん」
「と言うよりは、アグニマルに感情やらなんやら、プラス人間の細胞だとか、いろいろ組み合わせて、配列をいじったりしたのが君たちですから。
言えば、君たちはアグニマルの進化系と言って差し支えないでしょう」
……なんてことだよ……。響輝たちが化け物呼ばわりしていたやつらが、実は同系統だったと?
これだけ見た目が違うのに……、いやこの姿もいじくりまくられた結果か。
「実際、記憶や知能、感情……なにより人格。この移植がことのほか、高水準に成功しているのは、今改めて実感しているところです。
あ、本音はこうですけど、一応建て前もあるにはあるんですよ?」
オリジナルライトは似合いそうにもないウィンクをかます。
「戦場でのより高度かつ臨機応変な作戦を遂行できる新たな動物兵器というテーマですからね。
アグニマルは命令には忠実ですが、命令外のことは一切しない。軍隊としてはこれ以上ないことですが、できることはライン線と攻撃目標への突撃程度。
危険な適地に侵入して目標を破壊する。これこそ人ではないアグニマルにうってつけの場であるべきでした。だが、知能がないアグニマルにそれは無理。
これが君たちを高度な知能を持ち、複雑な思考、推測可能な動物にしたてあげた理由です」
とことん考え方は兵器ってわけだ。
「だが、その思考回路を持たせた結果、反撃を受け、逃げられたわけだ」
「いや、自分今、捕まっとるやん」
「……」
……オリジナル喜巳花による返せない一手を繰り出されたので、押し黙るしかなかった。
「でも、六号の言う通りです。知能、思考能力、感情など持たせれば、当然反乱、暴走、いろいろと不確定で危険な条件が生まれてしまいます。
その制御方法や、与える知能、思考回路の適切な度合いを知るというのが、あの繰り返し実験の目的のひとつだったわけですよ」
ここで一呼吸置いたオリジナルライトは「そして」と言い続ける。
「生みこまれた感情は、制御するためのものでもあるんです」
「……感情が……制御?」
とてもそうは思えないが。……むしろ制御するにあたって感情は邪魔ではないのか……。
「逆転的な発想なんですよ。
感情というものは、その動物の行動に大きく影響を及ぼすものです。感情があるから、楽しいものうれしいものに飛びつき、怖いもの苦しいものから逃げる。
逆に言えば、感情を持たせることで、行動をコントロールさせやすくなり、また思考を読み取りやすくなる。
感情というのは、時に理屈にあわないこと、思考上は「ダメ」と判断していても、行動に移してしまうほど強力なもの。
与えた強力な知能、思考回路を付随させた感情でコントロール下に置く。平たく言えば、洗脳と言うところでしょうか。
もっとも、知能と感情を切り離すことのほうが、難しい話だったんですね。事実、感情を切り離したゼロ号、すなわち僕をベースとしたクローンもおかしな行動を取ってしまいましたから」
「「あっ……」」
思わずライトのことを思い出してしまった。
そう言えば、あいつは感情などない、なんて話をしていたな。だけど、結果、響輝たちを救う行動を起こした。
「さて、話を本題に戻しましょうか。なぜ、君たちに三日間の猶予が与えられたか。それはね、君たちの処理を世間に公表するためですよ」
「……公表……だと?」