第2話 コミュニケーション
「君たちの処分日程が決まりました」
オリジナルライトの口から飛び出してきたそのセリフ。それがあまりにサラリと言われたものだから、その意味を一瞬、理解できなかった。
頭の中で整理し、口から言葉を発するその過程より先。となりでまだ体を寝転がせていた喜巳花が声を荒げた。
「は!? いきなり!? なんで!?」
上半身だけ起こしてガラスの向こうにいる人間を見る。
その人間、オリジナルライトは丁寧に顔を喜巳花に向ける。
「いきなりではないでしょう。今日今から、ってわけではありませんよ。三日後ですよ。三日後。
つまり、君たちの人生はあと三日というわけですね」
「……三日……」
一瞬、「結構待たされるな」なんて思ったりしたが、冷静に考えたら発狂もの。……三日後、死刑宣告。
しかも、このままじゃ、抗うことはほぼほぼ不可能。
「ま、と言っても、君たちとほぼほぼ変わらない同じ記憶を持ったクローンはまた誕生するのですが。
これはちょっとした哲学でも語れそうな問題ですね」
そんなふざけたような話のなか、喜巳花が少しずつ立ち上がる。
「……なにそれ? ……つまり、またうちらのコピーができて、そのうちはこの事実を知ることなく、あの学校で飼われるん?
……ええ気分やないな」
「すぐ元通り実験再開できるわけではありませんけどね。どこかにいるどいつらが実験場を抜け出しましたからね。
その対策に追われている段階です」
「こんなことになって、まだ続けんのかよ。本物の人間は正しい後悔の仕方もしらねぇらしいな」
「ほう、つまり君は後悔ができるんですね。いやぁ素晴らしい。こうやって会話をするだけで、どれだけ感情がしっかり作られているか良く分かりますよ」
まるで皮肉も通じない。丁寧な口調だが、こいつは響輝たちを、自分たちの実験が生み出した結果としか見ていない。
虫唾が走る、とはこのことか。
ガラス越しで、意味もないとわかりつつも、オリジナルライトにガルルと睨みを利かせる。当然、向こうは動じる気配もない。
そんなことをしていると、ガラスの向こう、オリジナルライトの奥にある扉が開かれた。
そこから同じく白衣をきた人物がふたり入ってくる。
「おぅ、和田。よくもまぁ、これとコミュニケーションを取ろうとするよな。俺にぁ、そんな図太い神経はねえよ」
「そうかなぁ。うちはちょっとおもろいと思うけどな。だって、動物に人間並みの知能と感情を持たせてるんよ?
こうやって、会話するだけでもすごいことやで。うちらってスゲーって」
あぁもう……いやでもわかってしまう。入ってきたのは、自身のオリジナル……そして、喜巳花のオリジナル。
オリジナル響輝は興味がないとでも言うように、奥にある椅子に座り込んで終わり。だが、オリジナル喜巳花はヘラヘラ笑いながら近づいてきた。
「どう、もうひとりのうち? 元気?」
ガラスと指先でコンコンとつついてくる。
横目で喜巳花の様子をうかがう。本人は少し複雑そうに表情をゆがめてガラスの先にいる自身のオリジナルを見ている。
だが、ガラスの前までそっと歩み進むと、少しだけ笑みを浮かべた。そして、オリジナルと同じようにガラスをつつく。
「元気やで。もうひとりのうち」
オリジナル喜巳花はあからさまに喜ぶ演技を見せて手をたたく。
「すごいやん。上手にできたね~。えらいえらい」
……なんかもうむかつく。限りなくバカにされているよ、これ。
しかし、喜巳花はあまり気にしないよう。笑顔のまま
「じゃぁ、そのご褒美ってことで、似た者同士のよしみで、ここから出してくれへん?」
「あははっ、そりゃ無理やわ絶対。ごめんやで。うちのクビ飛ぶって」
「ちっ、無理か」
「「あたりめーだろ」」
思わず喜巳花に突っ込んだのだが、その声は向こうからも聞こえてきた。奥のほうに視線を移すと、ちょうどオリジナル響輝と顔があってしまう。
「「……っ!?」」
びっくりして目が見開くのも同時。気味が悪くなってそのまま、さっさと目をそらした。
「すっご、息ピッタリやね君ら」
「本当ですね。たしかに人格、性格はコピーされたものでしたが、まさかここまで似るとは。実に興味深い話ですね」
……こっちは吐き気がしそうなほどに最悪の気分なんだがな。
だが、こいつらの言動を聞けば、さっき湧いた疑問は解消されてきた。なんでこんなガラス越しの部屋に移されたか、なぜ殺すのが三日後なのか。
わざわざ宣告したのか。
「……つまり、あれか? ……残り三日。俺たちを観察して研究した後、ポイっと捨てるように殺すわけだ。
実験で俺たちの反応を見ようってか? 実験の成果をたしかめるのか?」
オリジナルライトがビシッと響輝に指を差してくる。
「お見事。この思考力は目を見張るものがありますね。並みの小学生よりずっと頭がよさそうです。少し恐ろしさも感じるほどです。
が、まぁ、それだけではありませんよ」
「あ?」
それだけじゃない?