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第1話 ご対面

 ***


 響輝と喜巳花は真っ白でなにもない部屋に閉じ込められたまま、なにも変わらない日々が続いていた。


 初めて閉じ込められたと認識してから、果たしてどれぐらい日数がたったのだろうか……。太陽の光などまるでなく、日数の感覚はとうに失われていた。


 おまけに、初日には話かけてきた、この実験の研究者らしき人らからも完全放置。ただただ、窓から放り投げられる食料をむさぼるだけ。


 そして、今回もまた部屋に食料が放りこまれた。


「……なんなんだよ……。あいつらはなにがしたいんだよ……」

 放りこまれた食料を一瞥して背を向く。


 本当に嫌になってくる。これじゃ完全にペット。いや……、外にも出してもらえないし、かまってもらえないならそれ以下のあつかい。


 そもそも、食料も必要最低限のみ。餓死しないように渡されているとしか思えない。


 操られているという自覚もないのか、ヒョコヒョコと食料のほうへ歩いていく喜巳花。

「響輝。ほら、そっち投げるよ」


 響輝は返事をしなかったため、喜巳花の手から乱暴な感じで食料が投げ込まれた。ちょうど、響輝の横当たりで停止する。

 おにぎりが一個だ。ラップで適当にくるまれているもの。


「あれ? 今日のん、すごい味濃いで!! うまいわ!!」

 後ろからそんな歓喜の声が聞こえてくる。


 味が濃い、おいしいから一喜一憂。本当に悲しくなる。ま、実際ずっとお粗末な味付けのものだけだったのだから一大イベントになるわけだ。


「響輝も食いぃや。ホンマ、今までのとは違うねんて」


 さすがに、そんなことを聞いていたら気になってしかたがない。実際におにぎりに手を取ってラップをめくってみた。


 たしかにたっぷりとフリカケが混ぜ込まれている。今まではこんなのなかった。一週間に一回のサービスだったりするのだろうか。


 もう、これを目の前で見せられては空腹に耐えられるはずもない。むさぼるようにおにぎりを口の中に突っ込んだ。


 たしかに濃い味が広がる。……少し濃すぎな気もするが、そもそもまともな料理を食べたことないので、比較対象がない。

 そして、おしいいことは間違いなかった。


 だけど、結局全部口に含んでしまえば、残る感想は「おいしかった」なのではない。……無力で先の見えない絶望のみ。

 楽しい食事になるわけもない。


「おい! 聞こえてるんだろ! なんか返事くらいしろよ!! ずっと閉じ込めやがって! 何が目的だ!!

 殺すならさっさと殺せよ、クソヤロー!!」


「え? うち、死にたないで」

 ……、すごくシンプルで、欲に忠実な回答が喜巳花の口からもれる。

「……のんきか!」


 喜巳花はすでに食い終わっているのに、サランラップにくっついたご飯粒と丁寧にひとつずつとっては口に入れている。

 ……監禁状態にある奴の落ち着き方じゃねえだろ。


「でも、ホントにどうするつもりなんだよこれ。……俺たちを生かしといてメリットがあんのかよ……。

 いつまで、閉じ込められなきゃいけねん……うん?」


 ふととなりでパタリと音が聞こえてきた。

 唐突であったため、一瞬遅れて首を向ける。すると、そこにはピクリともせず倒れている喜巳花の姿が。


「……は? ……おい、……喜巳花、どうし……」

 倒れている喜巳花に近寄ろうとしたが、同時にグランと視界が揺れる。


 なにこれ? あ、ちょっと、や……。

 そう頭の中で考えきるより先……。




 あ……? ……なにが起こった? ……今どこだ……。なんだっけ……。全然頭が回らない。あぁ……なんだこれ……。


 訳の分からない苦痛がしばらく続く。呼吸もどんどん荒くなっていき、全身が汗だく。何度も頭の中がグルグルと回りに回ったあと、ようやく意識が戻り始めた。


 そして、あらかた意識がはっきりとし、現状がどうだったかと思いだすと、慌てて上半身を引き起こそうとした。

 目を開けようとするが情報がうまく処理しきれない。


 ガンガンと響く頭痛にさいなまれながらも、やっと視界が戻ってきた。


「やっとお目覚めしたようですね。やはり少し睡眠薬の量が多すぎましたか。ま、死ななかっただけ、良しとしておきましょう」


「……あっ……、睡眠……薬?」

 頭を押さえながら、声が聞こえるほうに顔を向ける。だが、そこにはスピーカーがあるのみ。部屋の角、上に配置されている。

 そこから声が聞こえているのは間違いない。


 ……が、……。

「っ!!」

 思わず目の前の光景に息をのんでしまった。


 目の前は一面ガラス張り。いや、これ自体は実験場でもそこらにあったガラスと同じようなものだ。


 でも、今までとは明らかに違うもの。ガラスの向こう側に、人がたっていた。


「お前……だれだ? ……いや……その口調は……和田ライトと名乗っていたやつか」


「素晴らしい。しっかりと推測できるのですね。その通りです。僕が和田ライト。オリジナルのライトです」


 そう名乗った男は白衣の姿。いかにも研究者といった感じか。ライトを名乗っているが、知っているあのライトとはまるで違う。


 皮膚や髪の色は当然。そもそも背丈が違う……、大人の姿。面影があるのかもしれないが、そもそもの骨格やら姿が違い過ぎて、感じ取れない。


 それなりに年齢は食っているように見える。ただ、知識不足でどうもはっきりとした年齢まではわからない。


「……うん?」

「あっ、喜巳花っ!」


 ふと、となりで声がしてその存在を思い出した。慌てて駆け寄り喜巳花と顔を合わせる。


「……響輝?」

「おう、そうだ。大丈夫だな?」


「……う、……うん……ん?」


 どうやら、意識はまだハッキリとしていないらしい。そう言えば、睡眠薬を入れ過ぎたなどと話していたな。


 ……そうか、あのやたらと味が濃いおにぎりは、睡眠薬の違和感を消すためのものだったわけだ。……で、まんまと食って、居眠りさせられたと。


 ……本当に情けない。……言いように転がされている。


「あ、そうでした。眠る前、君声を荒げていたようですね。殺すならさっさと殺せ、でしたっけ。

 やはり、君たちでも、あの環境ではストレスがたまりましたか」


「うるせえよ……。ていうか、なんなんだ。このお引越しはなんか、意味があんのか? お散歩にでも連れてってもらえるのか?」


「お散歩は無理ですね。ですが、君の望みはかないますよ。おめでとう」

「……あ?」


 オリジナルライトは、少し口角を吊り上げていった。

「君たちの処分日程が決まりました」


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