第11話 兵器
「……ふぅ……。ありがとう……。もう大丈夫……」
ひとまず、栄養補給はできた。腹いっぱいには程遠いが、空腹で死にそうな状態からは脱することができたと思う。
といっても、むろん疲労が回復するわけでは当然、ないのだが。こうして高速される前までは眠ってこそいたものの、ただの気絶。
まともな疲労回復には至っていない。
「綺星は……? 大丈夫?」
「……うん……」
本当に小さい声が聞こえてくる。力強さはまったくない。だけど、意識は少しだけ回復したのかな。
「もう、いいんだな? なら、質問を始めるぞ」
拘束はまったく変わってこそないが、一応床に座りこめる状態にはできている。座っているリーダー格の男を見上げる形で顔を上げた。
男はそれを返事と捉えてくれたらしく、小さくうなずくと続けた。
「さっそくひとつ目だ。てめぇはてめぇのことをどこまで理解している? 立場は知らんが、隠す必要もたいしてないだろう?
知っていることは全部話せ」
いきなり随分とざっくりした質問だ。……それに……こっちとしてもどう答えたらいいか、悩むな。
頭の中で自分のことを整理し、言葉を並べていく。
「たいしたことは知らないし、わからない。むろん、知っていることはある。だが……、その知識が正しいのかは……保証しかねる」
「まどろっこしい言い方だな」
「話す前の前提をまず共有しただけだ。ようは、わたしがこれから話すことが、正しいのかどうか、確かめるすべがないんだ。
わたしたちが持つ知識も、こうやって話す言葉も、思考回路も、みな……人によって作られたものだから」
男はしばらく黙って文音を見てくる。
「……つまり、人工物だと言いたいわけだな? ……まぁ、想像通りだな。そのまま続けろ」
いろいろと頭に考えを浮かべたが、どうしてもあの化け物たちが頭に思い浮かぶ。学校という実験場で無理やり戦わされた敵たち。
あれと、文音たちが無関係だとは到底思えない。
なら、まずそこから。
「続ける前にひとつだけ質問をさせてもらう。君たちは……、青色の皮膚に赤い毛を持つ生き物を知っているか?」
この質問に男ははっきりと首を傾げさせた。
「そこら中にいるが?」
……これはこっちが悪いな。
「……質問を変える。顔や手のひらなどは青い皮膚だが、全身が赤色の毛でおおわれた生き物。人型で……、おそらく戦場で投入されるのではないかと思われる生物のことだ」
「アグニマルのことだな? この国における陸戦の主力兵器だ。といっても、一般的には大した情報もないがな」
……主力兵器……。軍用であるということ、そして実際に使われているという話は事実ということか……。
なら、話は伝えやすいな。
「簡単に言おう。おそらくだが、わたしたちはそいつらの後続だ。さしずめ、新兵器ってところだろう。いや、試作器か」
こう説明すると、男は大きく目を開いて見せた。……それは驚きの表情か……。いや……それだけではなさそう。
ある程度、察していたのか? いや、まさかな……。後続といっても、姿も形もまるで違う。……そう簡単に結びつくとは思いづらいが。
「一応付け加えておくが、わたしたちはクローンだ。わたしが持っている知識はこの作成時に植え付けられたものが大半らしい。
あの化け物どもの後続だとかいった情報は、別の形で得た」
ここまで説明すると、男は周りの人らになにかを持ってこさせるよう指示した。
しばらくすると、新聞の記事が持ち出され、ある記事を文音に向かって突き付けてくる。
「ある地域に、危険な生物の目撃情報があったと言って、警告が出されていた。ただ、この記事は妙に匂いがする。
なにかこう、……あまりにも情報が少なすぎる。注意勧告ならもっと派手にやりゃいいのにな。ま、あんまり公開したくなくて情報統制が敷かれているのだろうと思っていた。
そんなところで、お前らを川辺で見つけたんだ。これは……お前らのことを書いた記事で間違いないか?」
……そう言えば、文音たちが脱出したときには、そんな話が出始めていたな。……突き出された記事を詳しく読む気にはなれないが……、ほぼ間違いはない。
「そうだろうな。……ほぼ、間違いない」
男は満足したように、記事を適当に放り投げた。
なるほど、その記事と文音のことをすでに結び付けていたわけだ。国と関係するであろうことも。……そりゃ、説明をしてああいう反応になるわけだ。
「ま、これなら隠すのもうなずけるな……。ただでさえ賛否両論がある話だし、そもそも本来は、国家の最重要機密。公開できるはずもない。
まして、こんな気味の悪い怪物の写真を公開などできるはずもなかったわけだ。どれだけ小さい記事でもパニックになっただろうな」
……気味悪いか……。一応、その言葉を聞こえているし、理解もできるのだがな……。こればかりは仕方がないか。
ともかく、これが文音の話せるすべてだ。
「さて、こっちが話せることは話した。こんどはこっちから本格的に質問をさせてもらうけど」
「悪いが、それはもう必要ない。十分だ」
すると、急に男は右手を上げる。それと同時、周りで構えられていた銃口が一気に文音たちのほうに近づいてきた。