第1話 子供っぽさと大人っぽさ
いつも学校で履いている上履き。一応裏を確認してみると、底に付いたゴムはそれなりの厚さになっているとわかる。
奈美も同じことを思っていたのか自分の上靴を触ってたしかめている。
「たぶん大丈夫だと思うけど、一応気を付けてね。できる限りガラスは踏まないようにしよう」
「え?」
そんなだれもがうなずくような忠告に対しガッツリと聞き返したのは喜巳花。そして、ただいまガラスを踏みしだき中……。
喜巳花の踏み足と共にパリパリ音がなる。
「……氷か!!」
「それや! ナイスツッコミ! それを待っててん!」
瞬間、喜巳花の頭が奈美のこぶしによりポカンと殴られていた。
「ケガ覚悟でボケをかますその勇気と無謀は本当に目を見張るものがあるね。その気持ちが前に進むほうに使われることが心から楽しみだよ」
「ドツキ漫才は好かんわ~」
「はい。綺星ちゃん。気をつけて渡ろうね~。あのお姉ちゃんは悪い見本だから真似しなければ正解だよ」
「反面教師!?」
奈美が綺星の手を握ったままドアの上を歩いていく。その横でガラスを踏みながら追う喜巳花。そんな三人の背中を見ている一樹とライトという図式。
一樹も倒れたドアの上を慎重に歩こうとした。
「……相変わらず緊張感のない方たち」
ふと、後ろからそんなライトのつぶやきが聞こえた。
「……たしかに。でも、あれくらいのほうが僕はいいかも。あんまり緊張感しかない空気だと、気持ちが滅入っちゃうよ」
一樹が振り向くと、ライトは少し足を止めたがすぐに一歩近づいた。
「それはそうなんでしょうね。ああいう人たちがいると、まだ少しは気が楽になって、精神も安定するんでしょう」
そういいドアの上に足をかけるライト。そんなライトの後ろ姿を見て、いまのうちに言っておこうと思い、口を開く。
「ところでさ……、ライトくん。さっき、化け物におそわれていたとき、僕を助けてくれようとしたよね? このウエストポーチを借りようとしてくれてた。
本当にありがとう」
一樹のお礼が想定外だったのか、ライトは一瞬、目を見開いた。
「いや……でも、たぶん僕が代わっても、あの状況は変えられなかったですよ。あのピンチを脱せたのは、あの柳生文音さんという方のおかげでしょう。
というより……いきなりあの数での攻めは……普通はどうしようも」
「たしかに……。もしこれが響輝くんの言うゲームだとするなら、随分と理不尽な展開だよね……。チュートリアル終了後の初戦闘でいきなりピンチとか……。
まぁ、要はゲームじゃないって話で済むんだろうけど」
「それは間違いないですね。僕たちはゲームをやっているわけではない……。気持ちをごまかすためゲームであると考えるのは名案です。しかし、同時に自身の命がかかっていることも認識しなければなりませんよ」
ふたりはドアを完全の乗り越え待っているみんなのもとへ歩き続ける。見た目は一樹と年齢差などまるで感じられないライト。しかし、……。
「……ないというか……ライトくん、君っておとなっぽいね」
「……東さん、君だって十分おとなっぽいと僕は思いますよ」
……その返しがおとななんだよな……。たぶん、そう感じるのは丁寧語で話すせいなのだろう。
「……別に敬語じゃなくてもかまわないよ。こんな状況でかしこまらなくても」
「ありがとうございます。でも、僕はこっちのほうが安心するので」
そういい、ライトが一足先に奈美たちのもとへたどり着いた。