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第8話 新聞の情報

 その日は日が暮れるとすぐに睡眠に入った。代わりに朝。日が昇ると同時に、一樹と奈美は地面に新聞を広げて、情報収集に努めた。


 が……。


「……うぇ……、文字ばっか……頭が痛くなりそう……」

 そう言えば、こんな文字、文字、文字を見たことなかった。視界に埋もれるように埋まる文字列に、読み切れる自信が一気に薄れていく。


「……てか、読めない漢字あるし……奈美ちゃんは?」


 一樹と同じように地面に広げた新聞に顔をのぞかせる奈美。その表情には若干の戸惑いが見られた。


「……読めなくは……ない。……でも……慣れてないからかな……。まともに読める自信はなくなったね」


 ……こりゃぁ、必要最低限の情報を見極めていく必要がありそうだ。


「……ひとまず、この三日分の新聞、見出しだけ流してみよう。……ただ、僕らの記事は案外、小さな欄にポツンと書かれている程度かもしれないけど」


「なんでそう思うの?」

 一樹が持っているのとは違う日付の新聞を取りつつ、聞いてきた。


 一樹も新聞に目を通すのとやめないまま答える。


「僕らのことを大事にしたくないだろうから。たぶん、一部地域に対しての注意勧告以上はあまり出されていないのかも。


 そりゃぁ、僕らのことを公にしたくないなら、国が公開する情報も限られてくるだろうし」


 そう言っていろいろと記事の見出しを見てくが、思っていた通り一樹たちのことを書かれた大きな記事は見当たらない。


 もっぱら一面を飾るのは、紛争だのテロだの。物騒な記事ばかり。一応確認はしているが、一樹たちのことをテロリスト扱いしているわけではない。

 完全に無関係の話だ。


 逆に言えば、そう言った一貫して注目され続けるネタがある以上、一樹たちの話はよりフタをされてしまっていると言える。


 やっと見つけた記事と言えば、やはり一部地域に発せられた危険生物の注意勧告。お世辞にもピックアップされている記事とは言えない。


 こんなので、どこまで市民の意識に呼び掛けられるのか……。これじゃぁ、テレビのニュースでもそうそう取り上げられる感じではないか。


 いや、市民に必要以上に情報を与えないようにしている。本当に注意を促したい人たちには、役所の人たちが直接、勧告していた。

 一樹は事実しとして見ていたのだから。


 一樹たちの実権現場から、そこまで離れていないこの地域一体にも、そういった勧告はされているのかもしれない。


「あっ、……一樹くん。見て……これ……」

 ふと、奈美がひとつ記事を見つけたらしく、こちらに見せてきた。


「ほら、『目撃されたとされる生物、二体確保』って。存在が確認されたため、警戒態勢が強まるって感じのことが書かれている」


「……ふむ……。……事実な気がするな。……相変わらず小さな記事だが……」


 ただ、文字だけで、イラストや写真が掲載されているわけではない。文面だけでは、これが響輝たちのことか、文音たちのことかもわからない。


「この記事……、とても注意勧告をうながそうという感じには読み取れないけどね……。記事が申し訳程度すぎるよ」


「……本当だよ。……こんなの、意識して探さないと読まれないよ。こういう情報を求めている人がやっと、探して読む程度……」


 ……うん?

「……、もしかしてこれらの記事って……僕らに向けて……だったりして」


「どういうこと?」

 一樹の推測に対して、奈美が疑問を投げかけてくる。


 あくまでちょっとした違和感から生まれた推測だ。でも、あながち間違っていないのかもしれない。

 一応、考えを伝えておこうかと奈美に近づこうとした。


 だが、それより先に、荒っぽい足跡が聞こえてくる。地面を踏みしめるその音のテンポは速く、走ってきているのはすぐにわかる。


 すばやく警戒態勢にはいる奈美と一樹だったが、その人物の正体がアリサだとわかると警戒を解いた。


「なんだ、アリサちゃんか。おはよう、今日は早いね」

 奈美がゆっくりと落ち着いて声をかける。だが、走ってきたアリサは息を切らしたまま、一樹たちの前に立った。


 呼吸を整えるため一呼吸でもすればいいいのに、アリサは止まることなく、パンの入った一樹たちに渡してくる。

 中には、新聞も詰め込まれていた。


「あ、今日もありがとう」

「はやく逃げて」


 奈美がお礼を言うが、それに対してかぶせるようにアリサが声を上げる。そのアリサの表情はこわばったものになっていた。

 でも、それは一樹たちに対する恐れじゃない。


「……なにがあったの?」

「お母さんにあやしまれた。外で犬か猫を飼っているんじゃないかって。お母さん、わたしのあとを」


「アリサ、そこにいるの!?」

「……っ!?」


 唐突に聞こえていた声にアリサがピクリと反応。ふと、一樹が視線をアリサの奥に向ける。そこには、この世界の人間、大人の女性が立っていた。


 状況から、アリサの母であることに間違いない。


「ひっ……」


 アリサの母親が一樹たちのことを確認した瞬間、一気に青ざめていくのがわかった。アリサとの初対面とは明らかに違う。

 ただただ、娘に近づく恐怖の対象を見る目。


 一瞬の硬直のうち、はじき出される事態。ここから逃げ去る以外の選択肢は……なにひとつとしてない。


「行くよ!」

 なにか言いたげだった奈美の腕を引っ張り、森、竹やぶの奥へとすばやく走り去る。そのスピードは、間違いなくアリサやその母親に追えるものではない。

 瞬く間に、……ただ、逃げた。



 しばらく走り抜け、随分と森の奥深くに着いた。


「……あの母親、……どこまで周りに伝えるだろうな……」

「アリサちゃんに……最後のお礼、お別れ……言えなかった」

「……」


 やはり、奈美はそっちの心配か……。だが、あそこで迷ってグダッてもいいことなど、ひとつもなかった。……これは……仕方ない。……これでいい。


「……アリサちゃん……」

 奈美が最後、アリサから渡されたパンの袋を抱きしめている。そんな袋から、一樹は新聞を取り出した。


 入っていたのは昨日の新聞、そして今日の分だ。


「……本当に感謝しかないね。あの子には……」

 これが最後だと確信したアリサが、……すべてを持ってきてくれたわけだ。


 ……どおりで、パンの量もいつもより多い。


 パンが入った袋を抱きしめて、途方に暮れる奈美をよそに、一樹は今日の新聞に目を通す。


 やはり、基本的にはおんなじだ。一樹たちの情報が一面を飾ることはない。ただ、今日の新聞にも、小さな枠で、確かに掲載されている。


 そして、その内容は……思わず、ドキリとする内容であった。


 小さな小さなその記事を見つけ、新聞を握り締める。


「……奈美ちゃん……。本当にグズグズしてられなくなってきたよ……。もう、こっちから大きく動き出さないと……手遅れになる」


「……え?」


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