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第5話 久しぶりの休息

 ひとりの少女が一樹たちのために、パンを置いてくれた。すでに彼女の姿は見えなくなっており、パンだけが残されていた。


 一樹と奈美は、しばらく顔を見合わせた後、パンのほうへと近づいてみた。大きな袋を下に敷き、いくつかのパンが丁寧に置かれている。


 ひとつ手にとり、感触を確かめてみた。

 かなり柔らかいものだ。パッケージを見る限り、中にソーセージがなにかが入っていそう。


 奈美はすでにひとつパンをとってそのパッケージを破り取っていた。

「こんなの、あの学校の中にはひとつもなかったよね」


 パッケージから取り出したパンの匂いを嗅いでいる。そのまま、奈美は一口、パンを口に突っ込んだ。

「う~ん、おいしいっ!」

 本当に満足そうに笑みをこぼしながらパンを食べている。


「そりゃぁ、そうだろうね。……非常食の乾パンとは本当に全然違うや」

 さすがに、こんな奈美の顔を見せられたら我慢など、できるはずもない。一樹も大きく一口でパクリとパンを口に含んだ。


 結果、一気に口の中にはぜいたくな味が広がっていく。それまで感じたこともなかった複雑な味が次から次へと押し寄せてきた。


 もう、明らかに学校で食べていた非常食とは別物と言っていい食べ物。ちょっと甘いこの味がクセになってしまいそう。

 ……たぶん、綺星なら、本当に喜んで飛びついたことだろう。


 それぞれ、ふたつ目のパンもしっかりと完食。少女が持ってきてくれたパンはすべて、一樹と奈美のお腹に収まった。


「……いやぁ、本当に助かったね。おいしかったし……」

 のびる竹の間に体を寝転がらせる奈美。お腹をそっとさすっている。


「うん。……本当にに感謝しないと」


「……そういえば、お礼言えてなかったよね。あの子は一度戻ってまでしてくれたのに……。あたしたちは……なにも答えてない……」


 たしかに。現状、一方的にパンをもらっただけ。

「……でも、余裕もなかったし」

 そもそも、あの子の行動にあっけらかんとさえ、最初はしていたんだ。お礼をしなくちゃ、なんて考えにまで浮かばなかった


 ただ、それはただの言い訳だ、と言わんばかりに奈美が続ける。

「あの子も一緒だよ。それに……たぶん、あたしよりも年下だよね?」


「奈美も僕も……生後二日じゃない?」

「……いや、そういう話じゃないよ」

「……だよね。……僕と同じくらいかな……」


 すなわち、小学三年生ぐらい……。

 そう考えれば、ますますあの子の行動がありがたいものに思えてきた。


「ま、どちらにしても、もうどうしようもないよ。それとも、あの子の家を特定して恩返しでもしに言ってみる?」

 一樹の奈美の横でゆっくりと寝転がった。


「……化け物の恩返しか……。あの子は良くても、親たちの反応は……想像したくもないな」


「うん。だね」

 大人が一樹たちを見たら、それはもう血相を変えて悲鳴を上げるだろう。いや、腰を抜かして警察を呼ぶか……。


 少なくとも、「宇宙人ですか? よかったらパンでもどうぞ」と言ってくれる大人がいるとは思えない。


「それに、もう日も暮れるし……。ひとまず、暗くなるまでは待とうか。その後、ちょっと村の中を探索でもしてみようか」

 と、言ってみたはいいが、寝っ転がった途端、ビックリするくらい、自然にアクビが出てしまった。


 それとほぼ同時に、奈美もアクビをしだした。

「……でも、その前にひと眠りしない? ……もう、眠くて眠くて……。……倒れそう……」


 ……そう言えば、ここに来るまで……逃げようとする前も似たようなやり取りをしていたな。……ずっと、寝よう寝ようと思っていたが、逃走するのに必死でそんな余裕がまるでなかった。


 だけど、本当はとっくの昔に限界を突破していたんだ。自分たちの命を優先していたため、寝るという行動が後回しになっていただけ。

 本当は空腹以上にえげつない疲労がたまっていたはず。


 ましてや、ついさっき食事を終えたばかり、寝転べば……もうそれはそれは恐ろしいまでの睡魔に襲われてしまう。


「……しばらくは……寝よう……。もう日が暮れるし……人も……」

 そう声をかけたが、すでに隣では奈美の寝息を立て始めていた。


 本来なら少しは警戒して周りを確かめてみるべきだろう。実際、少女とはいえ、顔を合わせてしまったぐらいだし。

 だけど、一度眠りのスイッチが入ってしまえば、もう体を動かす気力はわいてこない。


「……あぁ……もう……いいや……」

 あとは、もう欲のおもむくままに眠りにつこう。とにかく、まずは……体を……休めないと……。


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