第2話 オリジナル
目が覚めれば真っ白でなにもない部屋にぶち込まれていた響輝と喜巳花。そんなところで、上にあるガラス窓から顔をのぞかせるひとりの男。
その男がガラス窓越しに名前を言ったのだが……それが……。
「和田? ……ライト……?」
ふざけたようにしか聞こえない名前だった。……いや、悪ふざけにも程がある。
……仮に敵対する仲ではあったとはいえ……。……和田ライトは……ともに戦い、……響輝たちの脱出に死力を尽くしてくれた存在だ。
あろうことか……、こんなところに閉じ込める……青い皮膚の……本物の人間が名乗っていいはずがない。
喜巳花も明らかに機嫌を悪くしたようにトーンを落として指を差す。
「そのジョークはおもろないで? 自分、笑いのセンスないんとちゃう?」
喜巳花が差した指の先にる男がなにか反応をしめすかと思った。だが、それより先に別の声がスピーカーから流れてきた。
「あんたのほうが笑いのセンスないで。人間みたいなこというなや」
「はぁ?」
まるで喜巳花みたいなしゃべり方。それに対して喜巳花が反発するように声を荒げる。すると、上にあるガラス窓から別の人物が顔を見せてきた。
やはり、そいつもまた人間。ただし、あとから来たほうは女性だった。
「なにゆうてんねん! うちらを作ったん、自分らやろ!? あんたなんかに、センスがどうの、言われたかぁないわ!」
……怒りの論点を間違えている気がするがまぁいいや。好きに言わせておこう。ちなみに、これに相手が反応する様子はなかった。
代わりにまた、別のやつがガラス窓に登場してくる。
「ふ~ん、こいつが俺モデルのクローンか。高森のに比べたら。あんまり粋がよくねえな」
「……? ……俺モデル?」
現れた三人目の男がそんな言葉を口ずさむ。しかも……高森の名……。でも、喜巳花ならとなりでワーワー言っているやつのはず……。
「そういや響輝もうちも、クローンの完全体を直接みたことなかったわ。いっつもモニター越しだけやったもんね。
こぉんな、ちっこい状態なら見てるんやけどな」
スピーカー越しで、勝手に向こうが会話を進めていく。だが、その内容がいまひとつピンとこなく、頭の中に疑問が浮かび続けた。
「おい! なんなんだ!? お前らはなんだ!? なにを話している!? 答えろ!!」
必死に壁をたたいて訴えを起こす。だが、スピーカーから聞こえてくるのは非情の声。
「うるさいなぁ。もうええやん。音声は切っとこや。目ぇ覚ましたんやし、あとは適当にエサ投げて経過見たらええやろ」
そう言って、喜巳花と似たような話し方をするやつが、窓から離れようとする。
だが、最初に顔を出した、ライトを名乗る男が口をまた開いた。
「いや、せっかくなので、少し試してみましょう」
……試す?
「その質問にはわたしがお答えしましょう。
わたしは、先ほど申しました通り、和田ライトです。そして……、となりにいるのは、高森喜巳花さん、そして脇響輝さんです」
「……いやいやいや、喜巳花も響輝もここにおるって」
喜巳花が呆れたように手を左右に振ってこたえる。
だが、響輝はもう内心……気づき始めていた。それを答え合わせしてくれるかのように、ライトと名乗るやつは続ける。
「つまるところ、君たちクローンのオリジナル、ということになります。むろん、この実験の研究者でもありますけどね。
ちなみにわたしは、君たちの監視役として投入されていた個体のオリジナルですよ」
「……オリジナル? ……なんやそれ」
……オリジナル。
その表現を素直に受け止めるなら、響輝たちクローンを作るうえで、ベースとなったのが目の前にいるやつらということになるが。
「我々人間の細胞をベースに、アグニマル……、君たちが化け物と呼んでいた旧世代動物兵器の細胞、そして最新技術を掛け合わせたものが、君たちなのですよ。
性格などは一から作成するのが面倒だったので、そのまま流用されたという点においても……オリジナルという表現に一躍をかっているでしょうか」
「……」
つまり……、ライトと名乗る男のとなりにいるやつが……脇響輝……。すなわち、響輝のオリジナル……。
言われてもピンとこないが……。
なにしろ、肌色も髪も……姿かたちが違うのだ。信じられるようなものではない……。
だが、考えれば……それを否定はできないことはすぐにわかる。
自身のことを脇響輝という名前で認識していたが、この認識や記憶が、一から作られていようが、コピーであろうが……知る術はない。
「あれ? 思ったほどいい反応は見せなかったですね……。あまりピンと来ていないのでしょうか。
……それか、たいして驚くような情報ではなかったのでしょうか」
……どっちもだな……。いま、響輝が知りたいことは、脱出する方法。助かる術。もはや、自分たちのことなど……。
「まぁ、よいでしょう。ひとまずは、おとなしくしていることです」
「おい……、俺たちをこれから、どうする、あっ」
スピーカーからプツリと音が途切れた。それが、もう響輝たちの話など聞く耳もないという意味であることだろう。
いや、そもそもここまで話を合わせてきただけいい傾向なのか……。どちらにしても、今の響輝には、途方にくれるほかない。