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第1話 なぞの部屋

 ***


 響輝は闇の中でうっすらと意識が覚醒しはじめた。


 やたらと体中が痛かった。全身がはっきりと冷え切っているのがわかる。そう言ったものが不快感として体にたまっていく。


 まぶたは異常なまでに重たい。体も重たく、このまますべてを投げ捨てて眠り落ち続けたいという思いに駆られる。


 だけど、体中の痛さがそれを許さない。眠りたいけど、眠ることすら億劫になる。そんな現実に、もう耐えきれなかった。


 そして響輝は押し負けるようにまぶたを開けた。


 まず真っ先に視界に入ってくるのは平たく固い床。白色でなんの特徴もないただただシンプルな床。どうやら、響輝はこの床に地べたで寝かされているらしい。


 どうりで体中が痛いわけだ。

 床で寝るのはもう学校でさんざんやっていたことだが、それはあくまで一度死んだ体のほう。こっちの体では、まだ二回目の経験。

 ましてや、向こうでは毛布を使用していた。


 だけど、現状はまるで理解できない。ここがどこなのか、さっきまで何をしていたのか……。……まだぼーっとしている頭では追い付けない。


「……う……、ん……」

 隣から自分ではない、別の人の声が聞こえてきた。聞いたことがある声。


「……高森か?」

 うまく体を上げることもできないなか、顔だけ声のするほうへ向けた。そこには、響輝と同じように横たわっている喜巳花の姿。


 当然、彼女もまた毛布などなく、乱雑な感じで床に投げ出されているような状態にあった。


「……響輝……。そこにいるん?」

 喜巳花が少しずつ上半身を起こしていく。辛そうに頭を右手で押さえつつ、辺りを見渡していた。


「……ここは? ……ほかの……みんなは?」


 響輝も少し覚醒しだした頭を上げて、同じように首を辺りに回した。


 そこで今いる場所の全体を知ることになる。と言っても、非常に小さい部屋で本当になんにもない退屈なところ。


 白い床に白い壁。なにひとつとしてオブジェクトが置かれていない空間に、もう頭が狂いそうになる。

 なにより、……喜巳花と響輝以外は……だれもいない。


「……そういや……俺ら……、町中に入って食料……奪おうとしてたよな。……で、どっかの家の倉庫に入ろうとした……けど……」


 なにか、襲われたような記憶がある。暗闇での不意打ちだったため、抵抗する間のなくやられた気がする。

 その結果が……この監禁状態。


 喜巳花も思い出したように顔を勢いよく上げた。

「そやんそやん。で、夜明けにあの森で集合……。今何時なん!?」


「わかると思うか? ……というか、集合できる状況だとでも?」

 どう考えてもそうレベルの話ができる場所と状況でないことは一目瞭然。あきれるように頭に手を置いて、近くの壁にもたれかかった。


 話としては、食料や情報を町中で集めた後、再び森で集合する予定だった。だが、響輝と喜巳花は……なぞの部屋で監禁状態か……。


 太陽の光などはまったく届いていないため、今の時間帯など想像もつかない。ほかのみんなは果たして、無事合流できているのだろうか……。


 少しは調子を戻したらしい喜巳花がこの部屋にある唯一の扉に近づく。だが、その扉はビクともする様子はなかった。……まぁ、予想通りか。


「セイヤッ!」

 ガンッ!

「いっつ……ぅ……、あぁ……ちくしょう」


 ……。

 無視しよう。


「捕まった……ってことは……あの実験してた連中にやられたってわけなんだろうな……。……このまま処分ってか……。

 冗談じゃない……が……」


 だから、どうしたらいいのか……検討がつかない。その検討がつかないということは今までにもあった。だが……その中でも……間違いなくトップレベル。


「……なにもないんだもの。できることもねえよ、そりゃ」


「する必要もありませんよ」

「「……っ!?」」


 突然、部屋の中に、響輝でも喜巳花でもない声が響きだした。その突然の音声に反応し、弾けるように立ち上がる。


 周りを見るが当然、だれもいない。扉に視線を向けるが、だれかが入ってきた様子も一切ない。


「……放送やね……」

 先にこの声がどこからきたのか理解したらしい喜巳花。キッと、この部屋の上のほうを見上げた。


 響輝もつられるように見上げる。


 気づかなかったが、この部屋の天井は思いのほか高いものだった。学校の天井など、比較にならない。高すぎて、パッと見測ることもできないほどだ。

 だけど、少なくとも教室の天井の二倍はありそうか……。


 そして、限りなく天井に近い部分の壁にひとつのスピーカーが備わっていた。


「おはようございます。お目覚めのようですね。よかったです」

 さらに声が部屋に響く。

 どうやら、スピーカーから声が出ていることに間違いは無さそうだ。


 随分と丁寧な口調。だけど、なぜが背筋が凍りそうなほど冷たいものを感じてしまう。


「……てめぇ……だれなんだよ……」

 返ってくるかどうかもわからない。でも、とにかく質問をしてみる。


「いや、答えるわけないやん」

「これは、失礼しました」

「「あぁっ!?」」


 完全に想定外の返事に思わず乱暴な声を上げてしまう。だけど、目を離すこともできず、視線がスピーカーに向け続ける。


 すると、スピーカーのすぐ近くにあった壁に変化が訪れた。

 いや……壁ではなく、それはガラス……窓。


 すっと、そこからひとりの人物が顔を出してきた。遠目ではいまひとつはっきりとは見えない。

 だが、やはり青色に赤っぽい髪の色は目立つ。


 そいつは高いところからガラス越しに口を開く。

「初めまして。三号、六号」


「三号?」

「六号?」

 聞きなれない単語に疑問を投げ返す。だが、それには答える素振りもなく、男は続けた。


「わたしは、和田ライト。この実験、最高責任者です」


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