第10話 やつらの捜索
奈美が背負っていた袋はそこらへんに投げ捨てる。そして、一樹と奈美は少し離れたところの木に登った。
なるべく、葉っぱが生い茂っており、体を隠せる木を選択して一気に上る。
それから、息をひそめること数分。すぐ下に武装した人たちがやってきた。木の上でお互い、息をひそめつつ彼らを見送る。
武装した人たちは見た目から見れば、おそらく実験室で一樹たちを殺そうとしてきた……殺した人らと同じ感じ。……少なくとも同じ組織の者たちだろう。
彼らは警戒をしつつ、森の中を進んでいる。
その動きは実に機敏で、訓練されたものであることはすぐに理解した。手信号などを使いながら、一樹が上る木の根元を通りすぎていく。
やがて、彼らの中のひとりが、奈美と文音が放り出したあの袋を発見したようだった。
三人チームのうち、ふたりが周りに警戒の意識を向ける。そして、ひとりが慎重に袋の中身を確認しだす。
当然、中に入っているのは一樹たちが……いや、文音と綺星が盗んだ果物。それらを一通りあさられ、確認されていく。
「こちらブラボー。盗難物を発見。対象のもので間違いない。送れ」
無線でそんなことを伝えている。
「せっかく盗んだのに捨てたのでしょうか?」
「そのほうが、逃げやすいと判断したんだろう」
「……結構、知能があるんですね」
「知能が高い、という話ではないと聞いているぞ。注意を怠るなよ」
三人は会話をはさみつつ、辺りを見渡し続ける。どうやら、木の上で隠れている一樹たちには気づいていないらしい。
……ふむ。
この話や今までのことから察すれば……、彼らは一樹たちのことについて、詳細まで聞かされているわけではないのかもしれない。
少なくとも、今下にいる彼らは事のすべてを知らされることなく、ただ捜索に駆り出されているということだろう。
まぁ、それも当然か。
もともと、一樹たちの存在の秘密レベルは高かったはず。一晩二晩で、組織全体に共有できる情報であるはずはない。
やつらは、一樹たちをかなり頭がいい獣、という感じで見ているのか。……木登りをするやつだ、という発想にはで至らないのか……。
「すみません。少しこちらに」
武装した三人のうちのひとりが、声を上げる。ちょうど、そこは文音と綺星が川に飛び込んだ谷に続く場所だった。
地面に手を当て、探りながら言う。
「跡を発見しました。……この感じだと、このまま下の川に落ちたのではないかと」
三人の中で一番立場が上なのであろう人物もしゃがみ込み、地面を確かめる。
「……これだけだと、やつらが同かはわからんが……。いや、意図してこの急な坂を降り、川に飛び込もうとする動物がいるか……」
しばらく調べていると、立ち上がり川をのぞきこんだ。
「捨てられた荷物もある。川に飛び込んで下流に流された可能性はあるな。報告しておこう。捜索範囲を絞りこめるかもしれない」
……まずいな……。
こんな簡単に推測されてしまうのか……。まだ、文音たちが飛び込んでからそう時間もたっていない。無事でいてくれるといいのだが。
そう、文音たちのことを案じていた時だった。
「待て! しっ」
下からそんな声が聞こえてきた。思わずぎょっとして、木の上で奈美と顔を合わせる。
一樹たちが隠れていることがばれたのか? そう思ったが……ギリギリそうではなさそう。
「……奥に向かう足跡だ。……近くか……」
そう、かすかに声が聞こえた後、一気に彼らの話声はなくなった。
……この状況では……どう考えても、奈美と一樹の足跡のことだろう。……とてもじゃないが、そこまで意識は回っていなかった。
武装した三人集団は、確実に一樹たちの足跡を見て、こちらに静かに一歩ずつ近寄ってきている。
手にはマシンガン。三人の油断なく構える銃口が迫る。
足跡の対策などひとつもしていない。……ということは、おそらくこの今いる木の下にも足跡は残っているはず……。
このままでは、見つかるもの時間の問題だ。
彼らから目をなんとか逸らして、同じく木の上にいる奈美に顔を向ける。すると、彼女はすでに一樹に対して目を合わせに来ていた。
奈美は無言で、潜入した町とは反対方向に指を差す。今のうちに動き出そうという話だろう。
こうなったら、先に動くほうが吉か。……それに地面を降りるよりは、上で木々を伝って逃げるのうが、意外と逃げられる可能性が上がるかも。
奈美に賛同し、無言で首を立てに振る。
それからは、特に合図もなく、奈美が先に木の幹を素早く蹴り上げた。奈美が乗っていた木が大きく揺れ、奈美は次の木に着地。
一歩タイミングがずれて、一樹が後を続く。
「っ! 伏せろっ!」
下でそんな声が聞こえてくる。特に銃を発砲するような音は聞こえてこなかった。
そうなれば、チャンス。やつらが一樹の姿を見たのかどうかもわからない。一樹を確かに認識したのか、動物と誤認したかも知らない。
だが、どうでもいい。
とにかく、奈美と一緒に森の中を跳ねるように木から木へと飛び移りながら移動。必死になって、彼らから逃げた。