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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第三部 第1章
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第8話 朝日のもと集合

 ***


 町に繰り出してから、数時間ほどたつころだった。奈美と一樹は少ない戦利品を抱えつつ、町から離れるべく足を進める。


 まだ日が昇り始めるにしたら、時間はあるだろう。それに人々が起きだすのも、どうせ日が出始めよりもあと。

 だけど、余裕を持っていくことに越したことはないという判断。


 ……いや、そうじゃないな……。


「……なんというか……町に出たはいいけど……どうすればよかったか……良く分からなかったね……」


 そういう奈美の手に持たれているのは、りんご。申し訳程度にひとつだけ。これ以上、どうすることもできず戻ってきたというのもそこにはあった。


 ちなみに、これは小さな果汁園らしきところからパクってきたものだ。

 一樹が黙って入ろうとしたとき、奈美は想像通り思いっきり首を横に振っていた。端的に言えば泥棒はやめろ、ということ。


 だけど、それ以外に方法はないと言いくるめなんとか手に入れられた。ただし、「一個だけだからね」と言う素晴らしい遠慮を見せて、ここに至る。


 一樹は『一種類につき一個ずつ』と勝手に解釈してりんごに、柿、梨、ブドウを手にしている。


 今まで意識もしなかったことだが、このラインナップから考える限り、実りの秋まっさかりということらしい。


 朝起きたら、果汁園の人たちは何かしらの違和感を持つのだろう。でも、こんなところだ。動物に取られたと解釈してもらえることを祈るとしよう。


 そのまま無事、人に見つかることもなく、再び森の中に入ることができた。奈美が言っていたように、日が昇る前に待ち合わせ場所に向かう。


 まだ、だれもいなかったが、しばらくすると、日が昇る前に文音と綺星が帰ってきた。持っているラインナップは一樹たちと変わらない。

 ……まぁ、量は一樹たちの倍はとってきていたが。


 こちらの戦利品を見た文音が喉をうならす。

「へぇ、奈美が盗みを働くとはな。和らなくなったな」


「奈美ちゃんが取ったのはこれだけだだけど」

 一応報告としてリンゴ一個を持ち上げると、文音は軽く噴き出した。


「別にお堅いままだったか」

「……おかげで生きるために必要ないろはを教えてもらえたよ」


 奈美は少し口をとがらせつつ、そんなことを言っている。そんな中でふと奈美がそのまま視線をある方向へと向けた。


 それは、東。少しずつ、赤い光が地平線の彼方から漏れ始める。日が昇り始めたのだ。


「……もう、朝だね……」

 綺星が肩に抱えていた戦利品が入っているのであろう大きな布の袋と地面に置く。そのまま、いかにも眠たいと言いたげに堂々としたアクビを放つ。

 ゆっくりと、その置いた袋を枕にするように寝転がった。


「……ずいぶん、目覚めのいい朝を迎えられたみたいだね」

 そんな綺星に一言声をかける奈美。だけど、その直後に、うつったように同じアクビをした。


「……仕方ないよ……。本当に寝てないんだから……。この後、もう少し森の奥に入りこんで、少し眠ろうよ」

 太陽の下で寝るのは心もとないが、森の中ならまだ。


「……待って。……喜巳花ちゃんと響輝くんは?」


 奈美がふと寝ぼけかけていたその顔をはっきりさせ、見渡す。約束であった太陽はもう十分昇ってきていた。よって、もうお互いの顔がはっきりと見える。

 だが、まだふたりの姿は見えていない。


「……あのふたりだ。ちょっと遅れているだけじゃないのか? ……まさかの寝坊だったりしてな」

 文音が冗談めかすように笑って言う。だが、奈美は真剣な表情を崩さない。


「もう太陽は出てるよ? この状況で町中を歩くのは危険だよ。だけど、喜巳花ちゃんたちはここにはいない」


 そう自分で説明しといて、顔を真っ青にする奈美。しばらく思考したかと思えば、弾けるように森を出ようと動き出しかけた。


「おい、奈美。待て」

 その行動を見込んでいたかのように、素早く動きその手を止める文音。がっちりとつかみ引き戻す。


「ここで、君が出て行っても変わらないだろ。太陽でている中、町を歩くのが危険だと、君がいったんじゃないか。なぜ、自らそれを犯す?」


 言い返す言葉はないのか、口を開こうとはしない。だが、文音の手を振りほどこうとする動きもまた止めないでいる。


「奈美、慌てるな。ひとまず、あの子らを待とう」

 なんとか奈美をなだめようとする文音。


 そんな奈美をよそに少し周りを確かめるようにうろついた。近くに響輝たちが戻ってきていないか確認するためだ。

 だけど、確認できたのは、別のこと。


「……いや、……残念だけど……これ……、あんまりここで待っているわけにはいかないかもしれないよ」


 人差し指を唇に当て、静かにするように求めながらみんなの元へ戻る。


「……どしたの?」

 文音の制止に観念したらしい奈美がようやく、解放される。


「少し遠目で見えただけだけど、……なんか、町中に武装した人たちが何人か見えた気がした……。たぶん、学校にいたあの人らと同じ……」

 すなわち、一樹たちを殺し収めようとしてきた人ら。


「……森の中にも……入ってくるかも。……いや、入ってくる」

 一樹たちのような異質な姿が町中でずっと居れるはずがない。必ず身を隠すのは向こうを理解しているはず。なら、当然森の中が最適な逃げ場所。


「……ウソ……もう、出てきたの? それとも、まさか、……周りにある町、すべてに目を光らせているのかな……」

 奈美が不安そうに声を漏らす。


 だけど、一樹は思う。それが違うだろう、と。もっと、理屈の通った話がある。


 なぜ夜は武装した人たちが町に居なかった。なぜ、今朝になって出てくるようになった? その答えは……。


「響輝くんたち……捕まったんじゃ?」

 答えをボソッと口に漏らしたのは綺星だった。


 それに対して、反論というか、とにかく声を上げようとしたのは奈美。その性格なら当然。だけど、これまた文音は先周りして口を抑え込む。


「気持ちはわかるが取り乱すのはよせ。とにかく、ここを離れるぞ」

「おい、こっちから声が聞こえるぞ!」


 文音の控えめな声が、遠くから響く知らない男の声でかぶさる。それは、やつらがすぐそこまで迫っていることを知らせるに十分すぎる情報だった。


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