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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第三部 第1章
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第5話 記事

 しばらく様子を見届けた後、そっと顔を上げた。警官と役所の人たちはもう車で走り去っている。老人も家の中に入っており、近くに人の気配はない。


「……ふぅ……焦った。……でも、ひとまずは安心かな……?」


 やたらと敏感な警官が拳銃をこっちに突き付けてきた時は本当にどうしようかと思ったものだ。


 あの銃ひとつで一樹たちが危うい状況におとしめられるかどうかはわからない。だが、見つかればことのほか厄介なことになることは確実だった。


 だから言って、先に飛び出して警官を押さえるか? それこそをいい手だとは思えない。逃げだせば、その後、全力で追いかけられてこれからがきつくなる。


 あの状況、運を信じて待つ以外にあれることがあるだろうか……。


「でも、できる限り静かにね」

 奈美が小声で話しかける。

「家の中にはまだ人がいるし、気づかれたくない」


「……だな。……あの老人はうるさそうだしな。……俺たちを見て、スルーするとは思えない。

 まぁ、あの人らに突き出すような性格だとも思えないが」


 とにかく、ゴミを捨てた車やパトカーが走り去っていった方向から、町がある方角はおおよそわかることができた。

 向かうなら、ひとまずこちらの方向だろう……。


 が……。

「……ちょっと待ってて……」


 みんなに断りを入れると、ひとりでそっと草むらの中からあの家のほうに向かって歩き始めた。


 むろん、奈美たちが一樹を止めようとするが、静かにだけしてもらうようにお願いして、先に進む。

 そして、目的の位置に着くと、少し草をかき分けて探した。


 しばらくして、目的のものを見つけると、みんなにこの場を離れるように促す。全員で老人の家から少し離れたところで、一樹は追い付いた。


「なにしてたの?」

「これを探してた」


 奈美に言われて、持ち出してきたものをみんなに見せる。それはくしゃくしゃに丸められた紙。警官が持ち出して、老人が草むらに投げ捨てたものだ。


 広げてその全面を確認する。それはカラーで作られた新聞。予想通り、一樹たちのことであろうことが書かれている。


「あれか……、指名手配ってやつやね?」

 喜巳花が紙をのぞき込むように見てくる。


「違うだろ。指名手配は人に対してするもの。わたしたちは違う」

 だが、文音はそう淡々と言って紙のある文字を指さした。

「わたしたちは、危険な猛獣だって」


 そう、この記事では、どう見ても……一樹たちのことは、獣という前提に作成されている。


 しかも、一樹たちの写真ならいくらでもあるはずなのに、そう言ったものは一切使用されていない。ただ、ペールオレンジの肌に黒髪といった特徴的なものを示した似顔絵が一枚のみ。


 そりゃ、老人が「ふざけている」と激怒しても仕方がないものだ。


「……世の中には情報を濁して流しているみたいだね。少なくとも、はっきりとこの状況を説明するつもりはないみたい」

 奈美がうなずきながらそう分析する。


 おそらく、その考えはそう外れてはないと思う。


「逆に言えば、町の人たちはほとんど信じていない……。少なくとも関心、注意が向けられているような状況ではないんじゃないかな?

 たぶん、他人事、ぐらいにしか思っていないんじゃない?」


 少なくとも、見つかって騒ぎが大きくなる前の段階のうちに、できる限りの手は打っておくべき。

 やるべきことは、食料確保と情報収集。


 文音がフードを深くかぶりなおしつつつぶやく。


「さっさと手頃な町に降りよう。ゴミをあさってでも、まずは食料を確保する必要がある。町の人たちも、まさか自分のすむ町にその手書きの猛獣のモデルがいるとは思うまい」


 一樹の思う通り、今のうちに動き出すべきだという文音。だが、奈美が少し不安そうに手を上げる。


「……と言っても、あまり大きな町は避けたいけどね……。町というよりは……ポツンポツンと家が並ぶ村がうれしい。


 あの老人がいたってことは、少し離れたところには、まだ村が残っているかもしれない」


 響輝が腕を組み、近くの木にもたれる。

「……都合よく探せると思うか? 町は車が去っていった方向をたどればいい。が、村となれば、そうはいかねえんじゃねえか?」


「……でも、やっぱりリスクもあるよね? ……この程度とは言えば、あたしたちのこと、町の人たちにも知られているのは事実だよ」


 ……奈美に言われて、少しハッと考えなおした。

 つい、いい方向に解釈をしようとしていた。まだはっきりと広く、知られているわけではない? 違う、……すでに知られ始めている。そう考えるべきなかも。


 そう、少し揺らぎが一樹の中で起きる。だけど、文音はそんな一樹の考えを打ち抜くように鋭く言ってきた。


「だったら、なんのために脱出の時間を選んだんだ? ひとつは、明るい時に森を抜けるため。もうひとつ、暗くなったタイミングで、人里に近づくため、じゃなかったのか?


 わたしたちはもう、覚悟をしている中のはずだ。

 食料がない以上。長期戦には持ち込めない。仕掛けるなら、まず今夜だ。そうだろう?」


 そうだ、……もう壁を超える前から決まっていた話だ。……今更覆して、どうこうできることでもない。

 そして、それは奈美もすでに了承していたこと。


 この世界の本当の人たちを見て動揺していたのだ。……でも、……本当にやるべきことを、見失うわけにはいかない。


 奈美は思い出したように見開き、文音を見る。

「ごめん、文音ちゃんの言う通りだね……。今夜……このまま、町にまで侵入しよう」


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