第3話 山奥にある家
一樹たち一同は、再び山の中を息をひそめつつ進んでいた。そして、文音以外のみんなは、さっきまでとは違う格好になっている。
フード付きの服を身にまとったり、布で顔を隠すようにしたり。とにかく、顔の露出を下げるような姿を取るようにしていた。
で、……それはどうやって調達したかと思えば……。思い出したくはないが、ゴミ山からである。
ゴミ山のあさり、ちょうどいいものを引っ張りだしている。
ちなみに、文音の服装はもともと、フード付きの服を着ていたため、それをそのまま使用している状態だ。
こんな顔を隠したあやしい集団、まず目立つことだろう。だけど、ペールオレンジの肌を露出するよりはマシと判断した結果だった。
少なくとも、一樹たちは……人間の肌に対して異様な不気味さを覚えるし、青色という肌は遠くからでも、すぐに発見しやすいように思えている。
逆に言えば、向こうも一樹たちが同じように見えているのかもしれない。ペールオレンジの肌は、あまりに異色で目立つ。だったら、こういった格好のほうがまだマシではないだろうか。
そういった判断のもと、半ば苦肉の策としてこれを選んでいる。
「ゴミの山から出てきた服を羽織るってのは……やな気分やね」
喜巳花が自分の腕に鼻を近づけつつ、言う。
「……自分の死体に取り付けられていたアイテムを身に着けているんだから、今更……って考えようよ……」
と、言ってみたものの、少々強引な話だった気もする。
「なぁ、文音」
「悪いな。断る」
「まだ、なんもゆうてないやん!」
「助けを求めるような大声をありがとう。救援がくることを祈っているよ」
「「「……すんません」」」
ずいっと顔を前に突き出し、笑みの圧力をかけてくる奈美。遠回しに「黙れ」というそれに、三人押し黙る。
「しっ、お前ら、本当に黙れ」
そんな中、ずっと静かにしていた響輝がシリアスなトーンで告げてきた。そして、木々の陰から奥を指さす。
そこには一軒の家があった。庭付きでそれなりの大きさはあろう感じ。
「……だれかいるの?」
「わからねぇ」
奈美と響輝が小声で話す。
近くに、ほかの家はなさそう。本当に森の中に埋もれるようにたたずんでいる、といった感じの家だ。
ただ、庭の状態を見る限り、人は住んでいるように思える。
「……少し……寄ってみるか?」
「……なんで? 行く必要ある?」
さて、実際にどうしたものか。そんな風に、次の行動に悩んでいると、再び遠くから音が聞こえてきた。さっきも聞いた、エンジン音だ。
舗装もされていない道を走ってくるそれは白塗りの質素な車だ。ただ、それだけではなく、後ろにはもう一つ、車が連なっている。
そっちのほうは、随分と特徴的だ。白と黒がはっきりした色彩の車。一樹の知識があっているとするなら、それは……パトカー。警察の巡回用の車。
「……さがろう……。絶対に見つかっちゃダメだ」
警察相手に姿を見られたら、文字どおり言い訳など聞いてくれないだろう。その後はまるで、想像すらできない。
全員で、草むらに身を潜めていると、やってきた車は二台とも、見つけた家の前で停止した。
住んでいる人だろうか? だけど、パトカーの意味は……? この状況じゃ話をすることもできない。とにかく、黙っているしかない。
白塗りの車から、ピシっとスーツを着こなした者が降りてきて、続くようにパトカーから警官が降りる。
すると、スーツを着たほうの者が玄関前に立ち、インターホンを鳴らした。
最初、なんの反応もなかったが、数回ピンポンピンポン鳴り響くと、まるで観念するかのように、玄関が開けら、中から人が出てきた。
この場にいる三人、どいつもこいつも青い肌。そして、おそらく家の主であろう出てきた人物は随分と老けているように見えた。
老人は訪問客を見て、あからさまに表情をゆがめ、口を開く。
「また、役所か……。観念したんじゃなかったのか! 時間を置かれても答えは変わらんぞ! わしはここを立ち退かん! 絶対にだ!」
見た目とは裏腹に……だが、ある意味見た目通り、頑固な感じで、力強い口調。だが、スーツを着た人の隣の警官に視線が映ると、少し驚いたように目を開いた。
「警察? ……力づくってわけか? 冗談じゃない! 許されるはずなかろうが!!」
朝の静かな山に響く老人の声。ためらいもせず、警官に向けて指を差す。
それに対して、スーツを着た人物は、冷静に言葉を並べ始める。
「いえ……。たしかに立ち退きのご相談もしには来ましたが、それ以上に警戒していただきたい話もありましたもので」
そう言うと、男は警官に促すよう一歩後ろに下がる。すると、今度は警官のほうが前に行き、何やら紙を広げて老人に見せつけ始めた。
「このあたりで、不審な生き物がいるという情報が流れています。それに対して最大限の注意をしていただきたいと。
こちらが目撃情報から作られた絵となっています」
……っ!
こちらからは、警官の後ろ姿しか見えないため、紙の表を見ることはできない。だが……この状況では……それがなにを意味しているのか……。
言うまでもない。