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人とゆかいな化け物たち  作者: 亥BAR
第三部 第1章
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第1話 森の中

 壁の中の世界、学校という建物の中はありえないほどに狭い。だけど、一歩外に出ることができれば、一気に世界が広くなる。

 しかし、その広い世界に……果たして化け物の居場所は……あるのだろうか。


「……じゃぁ、これで……お別れだね」


 手だけで掘った地面の穴に、眠っているライトが埋められている。そして、奈美が最後に、そのライトの顔へと土をそっとかぶせていった。


 全員一緒になって残りの土をかぶせる。



 壁の上に立っていた一樹たちは、周りにあった木々に飛び移りながら、地面にまで降り立っていた。一樹たちの体はずっと頑丈であるらしく、ケガもなく無事に降りることに成功している。


 そして、奈美が望んでいた通り、和田ライトの亡骸をみんなで埋葬。埋め終わると、みんなしばらく、沈黙している時間が過ぎた。


 一樹がまだ目を閉じ、じっとしているなか、文音の声が耳に入ってきた。


「あまり、ここでのんびりと過ごしている時間はないだろう。ひとまず、地図にあった小さな人里を目指して進んでみよう。

 奈美、方向はわかるか?」


 目を開けて隣にいる奈美に目を向ける。

 奈美は「ちょっと待ってね」なんて言いながら、ウエストポーチから地図を取り出した。


 この地図は、施設の地下から奈美が引っ張りだしてきたもの。このあたりの航空写真らしく、一樹たちの今後の道しるべとなる貴重な一枚だ。


「……う~ん……」

 地図と周りを照らし合わせながら、しばらく首をひねる。


「……周り木ばっかり……。壁の上に立っている時に、方角だけでもしっかり、確認しておくべきだったね……。しくじったかも」


 そんな風に言ってはため息をはく奈美。冒険のしょっぱなからつまずいているのだが、……さてさて。


「……うん? でも、大体……あっちらへんやろ? 知らんけど」

 喜巳花が漠然とした肝心に方角を指さして、その後、奈美から地図を奪い取る。


「うちらが屋上から壁に向かって飛んだ方向から考えたらええやん。ま、どれくらいの距離あんのかはホンマに知らんけど」


 かなり適当な雰囲気があったが、喜巳花は自信ありげに「しゅっぱーっつ!」なんて言って、腕を振り上げながら森の中を進んでいく。


 学校の中では方角のことなどまるで意識したことがなかった。校内地図が頭の中にあれば、そんな概念は必要なかったからだ。

 ゆえに、自分の方向感覚がどれくらいのレベルなのか、検討もつかない。


 その点、この喜巳花は……それなりに自身の方向感覚に自身があるのだろう。そんな喜巳花に引っ張られるように、一同は進み始めた。


 足を進めながら、ずっと懸念していることを口にする。

「……ところで……、僕らって、本当に人里に近づいて大丈夫なのかな? まだ、不安しかないんだけど……」


 まだ一樹の頭の中ではこの世界のことをまるでイメージできていない。

 いや……、イメージはあるが……、それはあくまで一樹たちが普通の人間としたうえでの、ふわっとしたものだけ。


 自分の立場がどういうものなのか……。そして、これから先のことなど、……まるで想像できやしない。


 すると、となりで頭の後ろで手を組んでいる響輝がぶっきらぼうに答えた。

「……この中に不安じゃないやつなど、いないんじゃねえか。……たぶん」

 最後、心なしか、先導する喜巳花に視線が向けられた気がする。


「ただ、だからと言って、人里から離れて山奥で、じっとひきこもっているわけにもいかねえだろ……」


「……正直に言えば……、その山奥でひきこもるって選択肢が、僕の中では割と打倒なもの思えているんだけど」


「……うぅ……あたし……無理……」

 後ろから明らかに拒否するって声を綺星が漏らす。


「それが大きな選択肢のひとつであることには変わらないだろう。だけど……それは、他に選ぶことがなくなった時に選ぶ……最後の手段だ」


 文音が指を一本立てながら振り向く。


「なにしろ、わたしたちが持っている知識はあまりにも少ない。少なくとも、わたしたちにサバイバルで生き抜くすべがあるとは思えない。


 ある程度の知識はあっても、それはあの実験場で、実験を円滑に進めるため与えられたもの。しかも、都合よく捻じ曲げられた情報だ」


 文音の話に深くうなずき納得する。


「……僕らの持っている知識が、真実である保障は……どこにもないんだもんね……。この目で見て確かめないと……、なにが本当でなにがウソか、判断する材料すらない……ってことか」


 本当に考えれば恐ろしい話だ。

 しょせん、一樹たちは人の手によって作られたもの。それは、記憶もしかりで……知識もまたしかり。


 一樹たちが持っている知識は人によって作為的に与えられたもの。自身の経験は一切といっていいレベルで入っていない。


 ……そうか、こっそり人から隠れて生きるにしても、その生きるためのすべを、まずは身につけなければならない。

 ……少なくとも、森の中に缶詰が埋まっていることだけはないだろう。


 そんな話をしていると、ふと喜巳花が振り返ってきた。

「なぁ、……うちら、ちゃんとまっすぐ進んでる?」

「「……え?」」


「いや、だって……。ほら、目標にできる目印もないし、曲がってても絶対、わらかんで。森ん中やし、なおさら」


 さも、当然とばかりに天に向かって指を振る喜巳花。あまりに平然と言ってきたので、ポカンとするしかなかった。


「いや、だれだよ! 自ら進んで先頭を歩いていたやつ!!」

 怒り混じりに全力で突っ込む響輝。


「え?」

 あろうことか、後ろを振りかえる喜巳花。

「いや、お前だよ、お前!」


 ボケをかます喜巳花に必死に対応する響輝。


 そんなふたりをよそにして、今できることをするとしよう。……と言っても、辺りを見渡すだけなんだが……。


「……うん?」

 ふと、視界に明らかに自然物でないものが入ってきた。


「一樹くん? どうかしたの?」

 後ろから質問してくる奈美を置いて、足をそちらに向けて進めていく。足場の悪い地面に踏ん張りを利かせて歩く。


 すると、その視界に入ってきたものが、はっきりと確認できる位置までこれた。そして、それは……一言に言って……。


「……ゴミ山?」


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