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第10話 脱出方法

 喜巳花に連れられ、みんなは屋上に足を運んでいた。


 上には青い空が広がる。それは……この世界が学校外に、どこまでも続いていることを身にしみて予感させる。


 ただ、視線を下ろし目の前に向ければ違う景色が広がる。

 お前たちの居場所はここしかないと物理的に言わしめている壁。一樹たちがずっと過ごしてきたこの学校を取り囲み、閉じ込めんとするもの。


「脱出方法が……あるんだよね?」

 奈美が小さな声で喜巳花に聞く。


 すると、喜巳花は「せや」とうなずきつつ、少し歩き出した。


 屋上は柵で取り囲まれて、体が落ちないようになっている。だが、その高さは一樹たちの背丈とそうそう変わらない。

 一樹たちならいとも簡単に飛び越えられることだろう。


 ただ、地面に降り立ったところで、壁の中では意味がない。……となれば……。


 喜巳花はそんな先に手を置きつつ、もう一方の腕を壁に向かって指さした。


「いまのうちらやったら、全力で飛べば、壁を越せるんと違う?」


 喜巳花の提案は予想通りだった。すごくシンプルな答えだ。だけど、それが果たして本当に可能なのかどうかは……一樹には判断しかねる。


「うそ……、あたしたちに……できるの?」

 この提案にもっとも驚きを見せたのは最年少、綺星。策の間から顔をのぞきこませて、先の壁を見る。


「……壁が大きいから分かりにくいけど、……十メートルは離れているよね? それに……ここより壁のほうが高い」


 奈美ものぞきこみつつ、そう分析する。

 そして、その奈美の分析は一樹も同じ。壁が屋上と同じ高さか低ければ可能性も高かっただろうが……、壁のほうが高いのは……。

 成功のイメージを大きく損なわせる原因となる。


 しかし、喜巳花は真剣なトーンで続ける。

「せやけどさ、うちら。一度でも、全力でジャンプしたことある? なかったやろ? うちらもまた、うちらの力の限界を知らん。

 だったら、……確かめてみよや」


 そう言うと喜巳花はおもむろにリストバンドに手を振れた。

 プットオンの掛け声とともに、システムが展開。同時に、屋上を走りこみだした。そのまま大きく飛び上がる。


 すると、喜巳花の体は信じられないくらい軽々と宙を舞いだした、その体は余裕で五~六メートル離れたところで着地。


 みんなが沈黙して喜巳花の背中を見ているなか、くるりと体をこちらに向け返してきた。

「な? 勢いあまって屋上からでてまうかも、って思ったから全力はだせんだけど……、試してみる価値はあるとおもうで?」


 ……たしかに、喜巳花の言う事に間違いはない。一樹たちは一樹たち自身の……すなわち動物兵器としての実力すべてを知っているわけではない。

 少なくとも、人間の常識ははるかに超えるスペックを持っているはず。


 なら、この壁を超えることだって……。


「いやいやいや、でも……ほぼ、ぶっつけ本番だよね? 壁に着地しなくてもいい。追い越せたならまだましだけど……。


 壁にぶつかって終わったら? あたしたちは真っ逆さま。生き残っても、変わらず壁の中。学校の外で、二度と入れないことになる。そうなれば……今以上に最悪な結果だよ?」


 奈美が壁と下を交互に指さしながら訴える。そんな奈美に近づくように文音が前に出た。


「だが、地下からの脱出は無理だと、君が言ったな。当然、昇降口から出ることも不可だし、壁があれば同じ。


 ……となれば……、喜巳花の提案だけが……現状を打破できる策だと、わたしは指示する」


「そうだよな……。どのみち、このままじゃ変わらねえ。ここまでやったんだ。もう、……あとは突っ走るしかねえ」

 響輝も賛成というように、策に手をかける。


 ……、……ここで決めないといけないか……。

「僕もその可能性にかけてみる価値はあると思う。……今までのことを考えたら、そこまで分が悪い話でもないとも思えるし」


「……と……飛べるかな……あたしに」


 まだ戸惑う綺星に文音が手をかけた。

「……システム的に、一番身体能力が向上しているのはわたしたち。大丈夫」


 だと思う、という言葉がうっすらと聞こえた。だけど、綺星には届かせないようにしたのだろう。綺星の表情に結審が浮かび上がってくる。


 残るはひとり……。全員の視線が集まるなか、奈美は大きくため息をついた。


「……わかった……。みんながそうするなら……。ここまで来たなら、あがいてみよう……。やるならみんな一緒に……」



 それから、みんなでいろいろと話あった。食料などはどうする。持っていくか? 壁を越えたとして、その先は?


 だけど、壁を超える前……、常識の世界がわからない一樹たちには、あまりに難しい想定。具体的な話は壁を越えた先だ


 食料に関しても、変にたくさん持っても壁を飛び越えるのに邪魔になるだけ。サラが食していたため、外にも一樹たちの食べ物はあると判断。

 よって、最低限の水のみをもって、壁越えを挑むことが決定する。


 あとは、決行する時間帯。

 壁越えには明かりが必要であるため、日が出ている時間帯であることは絶対条件。問題は、その先を進むときだ。


 明るい状況で森をくぐるか、日が落ちた暗闇か。

 どっちもどっちだ。一樹たちの行動が目立たないのは夜。だけど、なにがあるかわからない外で、いきなり夜に出る危険性もある。


 みんなでいろいろ話し合い、結構は一夜を過ごした次の朝であることが決まった。

 地図が本当なら、近くに人里はない。見つかる可能性を警戒するより、安全を取るべき。そして、日が暮れるころ、一番近くの人里に着くのを第一目標とすることで、折り合いがついた。


 そして……、おそらく、一樹たちがこの学校ですごく、最後の一夜となっていった。


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