9.悪魔令嬢は、パーティーに出席する
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藍色のドレスを身にまとい、髪の毛はアップにして白い花を飾る。
あの日、思い切って言ってみたものの何の答えも得ることができなかった
「アザミーナ様いつも美しいですが今日は一段と美しい」
「ありがとうございます。クローバ様」
この前のことをなかったようにふるまうのは少々ずるいと思う。私はずいぶん悩んだのにクローバ様は悩まなかったのだろうか
「カミモル侯爵子息様も、いつもに増して素敵ですね。スカーフは私の瞳の色ですから私があなたのものになったと主張しているみたいですこし恥ずかしいのですが」
「そんなことは」
クローバ様はなぜかそっぽを向いてしまった。軽く肩が震えているが気分でも悪くなってきたのだろうか。そっと腕をとると驚いたような顔をした
「体調が悪いのですの?少しお休みになったほうが」
「いや、何でもない。感極まったというか」
よくわからない言い訳をしているのは、具合が悪いのを隠すためかもしれない。今は平気だろうが彼は病気持ちだ、いつ発症するかはわからない。止めようとしたがその前にクローバ様に腕をとられ入場してしまった
「そんな顔しないでください。せっかくあなたとパートナーとしていられるのだから俺は楽しみたい」
「ならば、倒れる前に私に言ってくださいませ。看病くらいならできますわ」
本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。ドレスの裏に薬は何個か仕込んできてはある、いざとなったらそれを使おう
今日の夜会の会場はガシュマル伯爵家の別荘を借りて行われている。クロッカス侯爵家やカミモル侯爵家には劣るが十分豪華な屋敷であるとは思う
「あら、その子がアザミーナ様かしら?」
「はい叔母様。婚約者のアザミーナ・クロッカス嬢です」
話しかけてきたのはガシュマル伯爵夫人、クローバ様の叔母だ。強いユリのにおいがこちらのほうまで匂ってくる。クローバ様が紹介しても私は口を利かない
嫌いとかでなく、相手はクロッカス侯爵家より格下なのに名乗りも挨拶もしないことが問題である。もちろん親しい間柄なら省略することもあるだろうが、彼女とは知り合い未満なのだ。ここで口をきいたらクロッカス侯爵家の沽券にかかわってしまう
「挨拶もできない子なのかしら?ねえ、クローバ様そんな子よりうちのナーシサスのほうがいいんじゃないの?」
「叔母様そんなことはありません」
お前が言うなと言いたくなるがぐっと喉の奥に押し込む。それに、婚約者の前でそのようなことを言うのはさすがに人としての常識を疑う。ここで怒るべきなのだろうか。隣を見れば、クローバ様はあいまいな笑みを浮かべている
「でもねえ、結婚には自由な意思が必要だと思うの」
私としてはクローバ様から離れれば毒殺の機会も減るからうれしく思うべきだろうがどうも心が晴れない。今の話を聞くとクローバ様はガジュマル伯爵令嬢のことが好きなのかもしれない。焦りが心の中に浮かぶ。そうであるのなら、ネモフィラちゃんに心を向けさせることが難しくなる
「俺は自分の意思で彼女を選びましたよ」
「そうなの?その礼儀のなってない子を、話を聞くと魔法薬師なんてやっているそうじゃない。良い家の令嬢として恥ずかしくないのかしら」
「クローバ様、私気分が悪いので向こうで休ませていただきます」
バカにしたような言葉を聞いた途端我慢の限界がきて、その場から足早に立ち去った。ここにいたら彼女に平手打ちか肘鉄でもくらわしてしまいそうだ。どこに行こうかあてはなかったが気が付けば庭に出てきていた。無意識のうちに植物のあるほうへと来てしまったのかもしれない。少し落ち着くと後悔が押し寄せてきた
私は逃げてしまった。覚悟していたはずなのに批判されることが怖くて避けてしまった
臆病すぎる私に嫌気がさしてため息をついたとき「誰かいるの?」と声が聞こえた
明日の午前9時に次話投稿します