6.悪魔令嬢は、返事に困る
よろしくお願いします
「カミモル侯爵子息様さすがにそれは時期尚早なのでは?」
「確かに早いかもしれませんが、叔母があなたに会いたいと」
「叔母様?確かガシュマル伯爵夫人ですよね」
何度かパーティーであってはいるが、挨拶程度なのでよくは知らない。もちろんクロユリはあなたと共にでも出てこなかった人物だ。そんな人が私に会いたいとは、あまりいい予感がしない
「その通りです。あったことはありますか?」
「パーティーで何回かお目にかかったことがありますわ」
「そうですか。きっと叔母もあなたのことが好きになりますよ。俺のようにね」
確か気の強そうな人ではあった。あと、だいぶ噂好きな人だった気がする。そういうことで近づかないでいたから、あの人は私のことを何も知らない。だから、私と話して情報とか弱みとかを掴みたいのではないのだろうか。薬師魔法を勉強していることを知られれば皮肉や嫌味やらが炸裂するに決まっている。それでも魔法薬師であることは私の誇りだ、かくしておびえてるなんて嫌だ
「まずは、父に相談します。よろしいでしょうか」
「かまいません。俺は叔母に叱られたくないのでできれば来ていただけると嬉しいです」
「カミモル侯爵子息様は叔母さまに叱られることがあるのですか?」
「ええ、俺の母が早く亡くなったので母親代わりとして俺を育ててくれました。叔母が子供を産んでからはそちらのほうを優先していましたが」
なんということだ。一瞬呼吸が止まりかけるほど驚いた。まさか、彼のほうから母親話題に触れてくるとは思っておらず。何と答えればいいか考えていなかった。クローバ様の顔をじっと見るが少し悲しそうな顔をしているだけだ。ずっと沈黙してたらまずいから、早く会話を続けないと
「そうなのですか」
「暗い話になってしまいましたね。失礼いたしました」
それから、会話が途切れてしまった。沈黙した空気が肌に刺さってくるようだ。話題に出されることを想定していなかった自分の甘さが憎い。長く感じる沈黙を破ったのはクローバ様であった
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうしましょう。少し疲れてしまいましたわ」
「それならば、俺と一緒の馬に乗っていきますか」
「自分でできます」
ひらりと馬にまたがりクローバ様の一歩先を進む。子ども扱いしないでと言っておきながら自分で子供のような行動をしている。矛盾に笑ってしまうがそんなことをしている場合ではない。背後からクローバ様の視線を感じる。さすがに目が後ろにはついていないのでどんな表情をしているかまでは見えない。こんな時、バックミラーが欲しくなる
こうして馬乗りは気まずく終わった
「クローバ君に母親のことの話題を振られて返事ができなかった?」
「はい、その上パーティーの返事は保留にしてあります」
今日あったことを報告するとお父様はため息をついていた。いつもだったら腹を立てていただろうが、今回は私が悪い。素直に非を認めておこう。謝ろうと口を開きかけたところでお父様のほうが先に言葉を発していた
「アザミーナ少しまじめに考えすぎではないのかい」
「いきなりなんですの」
「君の考えはまじめすぎてその上、傲慢な時がある。君は自分だけでクローバ君を救えるとでも思っているのかい?」
その言葉はお父様にしては厳しいもので、私の胸に突き刺さった。でも、私はクローバ様の救い方を知っている。ゲーム画面越しにだけれど彼が救われるのを何回か見たのだ。言葉に詰まった私を見てお父様は部屋から出て行った。
今日はなんて日だろう。私は、もやもやする感情を胸に抱えながら部屋に戻った
明日の10時ごろ次話投稿します