5.悪魔令嬢は、馬に乗る
あまり、馬に乗っている描写はありませんがよろしくお願いします
あとがき付け足しました
数日後、クローバ様を玄関で迎えた。今日の彼はいつものきちんとした服でなく乗馬用の少しラフな格好をしている。私もドレスではなく乗馬用の上品なズボンにしている
「お手紙ありがとうございました。アザミーナ姫、手紙の文字を見るたびに頭にあなたの顔が浮かんできてこの胸が躍るようだった」
「私も手紙を書くときカミモル侯爵子息様のことを考えながら書きましたの。喜んでもらえたならばうれしいですわ」
どうしたらクローバ様の心を傷つけず真実にたどり着かせるか考えながら書いているから嘘ではない。あとは文字をきれいに書くことぐらいしか考えていない
挨拶もほどほどにして馬小屋のほうに向かっていく
「アザミーナ姫は一人で乗れますか?」
「クローバ様確かに私のほうが年下ですが、子ども扱いはよしてください。もちろん馬に乗ることできますよ」
クローバ様は、クロユリはあなたと共にの先輩枠であった。アザミーナ自身は彼よりも年下で主人公のネモフィラちゃんと同い年だ。つまり、私にとってクローバ様は年上で主人公のネモフィラちゃんは同い年。これなら、ネモフィラちゃんに近づけるチャンスも多いだろう
「子ども扱いはしていません。あなたが大切で傷ついてほしくないのです」
「では、せめて姫とつけるのをやめてくださいませ」
「では、アザミーナ様とお呼びしても?」
「よろしいですわ」
姫というのはこの世界では向こうでいう”ちゃん”にあたるものだ。ずっとアザミーナちゃんと呼ばれているようなものである。馬鹿にされているのかどうかは判断できないが、悪魔令嬢と同じように呼ばれるのはあまり気持ちの良いことではない。クロユリはあなたと共にでは最期の時までちゃんと馬鹿にしたように呼んでいた
「不快な気持ちにさせてしまい申し訳ない。俺には弟妹や年下の知り合いがいないから少し戸惑っていまして」
「学校ではいないのですか?」
女子が通えるのは16歳から18歳までの3年間だ。それまでは家で家庭教師をつけて勉学に励む。対して、男子は10歳から通える学園がある。差別にも思えるかもしれないが、女子は間違いを起こした場合の代償が大きい。まだ、本人の意思ならよいほうなのだ。小さな子供では抵抗できない可能性が高く本人の意思に反して間違いが起こるかもしれない。ある意味守るためのルールであるのだろう
「その年から通ってくる子たちは大人びている子が多いですね」
「そうなのですか。私も大人ですよ」
なるほど、私は子供以下なのか。甘い言葉に聞こえるが端々に悪意が見えるのはまだ精神的に大人になりきっていないのだろう。前世を合わせると私のほうが年上である。ここは大人になって受け流しておこうか
「アザミーナ様は俺の想像より大人でした。しかし、これからもっと素敵な女性になると思うと、あなたという花に群がる虫が多くならないか不安になります」
「そうですの?私はカミモル侯爵子息様しか見えていませんわ」
馬に乗りつつ柔らかな草の上をゆったりとしたリズムで歩いていく。風は爽やかで日差しも暖かく心も軽くなる。今のは私がまだどう見ても子供だよというただの皮肉だ、それを考えると軽くなった心も重くなっていく。さすがに二回あっただけでは友好度を上げられないのはわかるが、この先のことを考えると長すぎてしんどくなってくる。それでも死なないためだ頑張ろう
「アザミーナ様はいつから薬師魔法を学び始めたのですか?」
「物心ついたときからですわ」
息がしやすくなったかと思ったら転生していたから、前世なかった魔法に興奮して端から本を読み漁ったりひたすら練習したりした。そうしているうちにかなりのレベルになっていったのだ。その時には気づいていなかったけれど大きくなるにつれて見覚えのある顔になっていきある日ここが”クロユリはあなたと共に”の世界だとあるとき理解した。自分があの悪魔令嬢とわかったときはだいぶショックだった
「素晴らしい。俺の婚約者は賢い方のようでうれしいよ」
「女性が学問をするのを喜ぶのですか?その、嫌がる殿方が多いと思いますけれど」
実際、パーティーがあったときは決まって皮肉や陰口を言われた。私だけでなく母のことまで。だから、あまりいい思い出はない
「俺はよいと思います。むしろ、話が弾み楽しい時間を過ごせます。あなたの手紙も読んでいてとても楽しかった」
「…クローバ様は変わったお方ですね」
「そうですか?」
このまま穏やかな時が続けばいいけれど油断すれば目の前の人に崩されていってしまうだろう。草原の程よいところまで行き持ってきたバスケットの中のお昼を食べ終る。サンドウィッチのトマトの酸味が体にしみる
「アザミーナ様、今度身内での夜会を開きます。俺の婚約者として来てくださいませんか?」
ほら、早速嵐の予感だ
明日の午前十時に次話投稿します