3.悪魔令嬢は、薬師魔法を見せる
今回もよろしくお願いします。侯爵子息様という表現はおかしいですがこの世界特有のルールだと思ってください
あとがき加えました
私たちは庭に出てゆっくりと談笑しながら歩いていた
「ここは、薬草園ですか?見事ですね」
「ええ、ここはハーブ園でもありますのよ。先ほどのバラ園のバラたちも薬の原材料となるのですわ」
「そういえば、姫も薬師魔法を嗜むとクロッカス侯爵に伺ったのでですが」
「はい、私も薬師魔法で有名なクロッカス侯爵家の一員ですから」
「それはぜひ見てみたい。見せていただいてもよろしいですか?」
もちろん断る理由もなくハーブを何枚か摘んでいつも持っている魔法陣を刺しゅうしてあるハンカチの上に乗せる。薬師魔法にもいくつか種類があり魔力の多いものは精霊を頼るものであったり、魔力のないものは錬金術と同じような理論を使ったり、ほかにも多くの方法がある。ちなみにこの世界の錬金術というのは前世でいう化学のようなものだ。質量保存の法則などあるが、魔法は全部無視して生成を行う
「そのハンカチは?」
「家の秘密にかかわってくるので詳しくは言えませんが、この魔法陣で魔力を増幅させて様々な過程を省略させて薬を作り出す道具ですわ」
「なるほど、詳しくは知りませんがすばらしい技術ですね」
詳しく知らないわけがない、もうすでに学問的な知識はある程度頭に入っているのだろう。その証拠に目には好奇心の光が宿っている。アザミーナに出会う前はいろいろな可能性を考えていたけれど、悪魔令嬢が薬を使って嫌がらせを行うのを見て彼の中で毒殺説が大きくなっていったのかもしれない。無駄な憶測はしないほうがいいだろう
体の中心から手の先へ熱を送り込むようにして魔力を注ぐ。魔法陣が柔らかな緑色に光ったところでポシェットから空き瓶を取り出し光を操り注ぎ込む。これで出来上がりだ
「こんな感じですわ。これは簡単なものなので呪文いらずでできますの」
「これは、何の薬ですか」
「気になるのなら飲んでみますか」
私が聞いたときに、クローバ様が顔をわずかにゆがませたのを見逃さなかった。これが毒だとでも思っているのだろう。それならばと一気に瓶の中身を飲み干した。クローバ様は今度ははっきりとわかるほど驚いた顔をしていた。自分も毒薬を飲まされると思っていたかもしれない
「どうかしたのですか、カミモル侯爵子息様」
「何でもないです。あっという間に作ってしまったので少し驚いてしまっただけで。その今の薬の効果は」
「そうですわね、心臓の動きを変える毒薬です」
「早く吐き出しなさい!」
いきなり顎をつかまれて顔を近づけられた。急に近づいた顔にドキドキしつつも、大部分は冷静に毒薬という言葉にトラウマがあるのだなと考える。それにしても、復讐しようとしている相手をここまで心配するなんてずいぶんお人よしのようだ
顎をつかんだ手に自分の手を重ねてほほ笑む。ゆっくり幼子に言い聞かせるように言う
「毒も使い方次第では薬に、薬も使い方次第では毒になるのです。私たちはただ作るのではなくそれを見極める必要がありますの。さっきの薬も心臓の動きを変える薬と言いましたが少量では興奮した感情を抑える薬に、多量に使えばそれこそ心臓を止める毒となります」
「それはさすがに、素人では判断できませんね」
「心配かけてごめんなさい、カミモル侯爵子息様さえよければ一緒に魔法薬師のこと学んでみませんか?さすがに製造の魔法は教えることはできませんが、薬がどのような働きをするかくらいなら私でも教えることができますよ」
これぞ、私のやりたかった計画第一歩。クローバ様に薬と毒のことを知ってもらおう作戦。必要な知識さえ持っていればクローバ様は優秀な人物だから自分で母親の薬のことも調べられるだろう。そうすれば真実にたどり着くはず。かなり膨大な知識が必要になるから時間もかかる、その時間があれば主人公のネモフィラちゃんと愛情度と友情度を深めることも可能だ
「俺に教えていいのですか?」
「先のことを今語るのは恥ずかしいですが、いずれ夫婦になるのなら問題ないと思います」
主人公のネモフィラちゃんと恋に落ちて結婚してもらうから、夫婦にはならないんだけどね。そっと顎から手を外させる。離れていくぬくもりに切ない気持ちになったが気のせいであろう
「どうですか?」
「俺は…」
「アザミーナ様!侯爵がお呼びです」
「すぐ参りますわ。カミモル侯爵子息様行きましょう」
クローバ様に背を向けて歩き出すと、後ろから左手をつかまれた。クローバ様は目をさまよわせながらも真摯に言葉を紡いだ
「どうか教えていただけませんか」
「提案したのは私のほうですわ。こちらこそお願いいたします」
後でこの光景を見たメイドから聞いたのだが、どう見てもやむを得ない事情のために力を欲する青年と大きな代償を払わせようとする悪魔だったらしい
続きは本日20時に投稿します