22.悪魔令嬢は、お父様と話す
読んでくださった方ありがとうございます。主人公の父親は無口で不器用な人だと思ってます
目を覚ましたら月が空に浮かんでいた。あのまま泣きつかれて眠っていたらしい、泣きすぎて体が重く頭痛もひどい。侍女を呼ぶにも夜中に声を出すのは気が引けた
自分で取りに行こうと部屋の扉をゆっくり開けるとなぜか燭台を手に持ったお父様にぶつかった。こんなところで何をしているのだろう
「お父様、こんばんは」
「ああ、元気にしているか?」
「元気…とは言えないわ。喉が渇いて水をとりに行くところよ」
いつものお父様ならそんなもの使用人にやらせればいいというだろうが、なんとついていくと言い出した。驚くというより本物のお父様か疑ってしまいそうになった。暗い廊下を二人黙々と歩いていく。お父様が足を止めたのでそちらを振り向く
「お前は私に愛されていないと思ってるのか」
「へ?」
「イチイから聞いた」
静かな声で伺うように言う姿は本当に彼らしくない。確かにあの時『お父様は私がいなくなるよりもあなたがいなくなる方が悲しむわ』と言った気がする。あの時は必死で気づかなかったけれど本心だったのかもしれない
「私は、お前をちゃんと愛してるよ。自慢の娘だ」
「娘が嫌がっている婚約をさせるのに?」
自分でも意地悪なことを言っている自覚はあった。それでも、クローバ様と婚約すれば死ぬ可能性が上がるのを知っているこちらとしては不満はいっぱいだ。それに、あれは物語への最後の抵抗だったのだ。失敗に終わってしまったときは反抗することをあきらめて、トゥルーエンドを目指すことにした
「お前を信じているから婚約させたのだ」
「詭弁ですわ。信じてるからって娘を復讐しようとしている人と婚約させますの?」
「現にお前はクローバ君を殺してないじゃないか」
ふつう逆だろう。ここではお前は殺されていないというべきではないか。お父様の言葉は意味が読み取りづらくて苦手だ。イチイもそうだが遠回しすぎることがある
「私の娘の技量なら、毒薬などあっという間に作れる。ましてやお前は」
「私は、誇り高きクロッカス家の娘よそんなことすると思うの?」
「ましてや、お前は言葉だけで彼を殺せるのだぞ。一言で良いお前が母親を殺したと事実を告げてやれば、彼は心から弱り病にかかり…」
その先は言わないでも分かった、言ってほしくもなかった。私は一度そうしようとしたことがある。その気持ちを持ったことが妙に後ろめたかった。そわそわしているのが早く水を飲みたいからだろうととったのかお父様は歩き始めた
「頭の良いお前のことだその方法があると気づいているだろう。だが、お前はそうしない何故だ?私ならすでにそうしているだろう」
「それは、良くないことだからですわ」
「死ぬからか?そうしても、お前は直接殺していないのだから罪には問われまい」
お父様の言葉に私はうめいた。どうして私はその方法をとらないのだろう、復讐者を先に始末してしまえば一生安心できる。ろうそくの灯が揺らめきお父様の顔に影を作る。私は考えて考えて考え抜いて
「わかりませんわ」
「そうだろう、それがお前の傲慢さの素だろうからな」
「イチイにも傲慢と言われましたわ」
「自分の性格というものは自分で見えないものだ」
またわけのわからないことを言っている。お父様がイチイを重宝しているのは自分の言葉を正確に読み取っているからだろう。彼のことを思い出すと深いため息が漏れた
「イチイを怒らせてしまったわ。私謝ったほうがいいかしら?」
「悪いと思っているならば謝りなさい。子供には許されている特権だ。だが、間違っていないと思うなら流されるな。胸を張って思うように行動しろ」
お父様の言葉に私は目を見張った。謝りなさいと言われるかと思ったのに、そうすれば謝れたのに大事なところを私にゆだねるとは厳しい人だ
それでもその言葉は私にとって嬉しいものであった
ありがとうございました
明日の午前8時に次話投稿します




