21.悪魔令嬢は、叱られる
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「アザミーナ様!イチイが意識を取り戻しました」
「本当?すぐ行くわ」
クローバ様と見つめあっていた目をそらして、私は廊下を駆けだす。解析の魔法は久しぶりに使ったけど、ちゃんと発動したようだ
「姉さまイチイがおきたよ」
「ローレル、聞いたわ。すぐに向かいましょう」
ローレルと合流して部屋を目指す。一心に走っても部屋が遠すぎてもどかしく感じる。ローレルに先に行くと告げて走るスピードを上げる。病室のドアを音がするほど勢いよく開け放つ
「イチイよかった意識が戻ったのね」
「アザミーナ様、ありがとう。少しこちらに来てくれ」
「なあに?」
私は手招きするイチイに近づいた。死にかけた後だからきっと心細いのだろう。ゆっくりとベットの中かを出した彼の手を取る。イチイは私を見ずにうつむいたままだ。ほどいたままの銀糸の髪が彼の顔にかかり表情を隠している
「なんであの時逃げなかったんだ」
感情を押し殺したようにその言葉を発する。暗殺者に襲われたとき立ち向かおうとしたことに対して言っているのだろう。何でと言われたら死んでほしくなかったからだ
「え、だってあなたを置いて逃げるわけにはいかないでしょう?」
「そうじゃない!あの時の標的はお前だった。なのになんだ私は死なないだと、前から言っているがお前は傲慢すぎるときがある!」
イチイは声を荒げて私のほうを睨むように見た。
彼が今まで声を荒げることは無く私の視線はさまよう。真正面で受け取るにはその怒声は重すぎた。彼は私が掴んでいた手を痛いほど握りしめた
私は彼の手を振りほどこうとしたが全く振りほどけない
「いいじゃないの!私は死ななかったでしょう…あなただって死ななかったじゃない感謝してほしいものだわ」
「本気で言ってるんだ、この傲慢娘が!」
「なんで、何で怒るのよ。私あなたを救うために頑張ったのに、苦手な解析もしたのよ。褒めてよ」
「話を逸らすんじゃない、俺が言いたいのは」
「もう放して」
耐えきれなくて涙を流しながら振り払うとイチイは手を放してくれた。私はそのまま駆けだした。ぼやけた視界にもローレルとクローバ様の困惑したような顔は写っていた。よけい惨めな気分になってしまった
傲慢なのだって知っている。でも、この物語は来るべき時が来るまでは私を殺すことは無いのだ。クローバ様の復讐に決着がつく時までは絶対に
私の立場では狙われることも多々ある。でも、いつも死ななかった。あの日だってそうだった
私は死にたくないと思っているくせに物語を当てにしている。皮肉なものだ、私をいずれ殺す物語しかすがるものがない
私を殺すことができるのはハッピーエンドとバットエンド。生かすことができるのは、トゥルーエンドのみ。
それは、この世界の理だ
声を押し殺して泣く
解放されたいと願っても意味がない
助けたいと思っても無力のまま
物語に組み込まれた歯車は狂うことさえ許さない
明日は午前8時に投稿します




