19.悪魔令嬢は、闘う
よろしくお願いします
私の目が降ってくる刃を目に捉えた瞬間男の腕を矢が貫いた
「え…」
首を掴んでいた手が緩んだのでそのすきに準備をしていた激痛目薬を相手の顔にかける。男は悲鳴を上げて地面にのたうち回った。私は急いで距離をとり助けてくれた人を見る。そこには信じられない人がいた
「アザミーナ様!なぜこんなところに」
「それはこっちのセリフよ、カミモル侯爵子息様」
「今は領地に帰るつもりで」
「来ないで!」
当主の命令でないとするならば、彼しか…クローバ様しか依頼する人間はカミモル侯爵家にいないだろう。しかもこのタイミングで現れたのは私を自分の手で殺すためとしか考えられない。それを無視して私はイチイの前に跪く
「イチイ、今助けるからしっかりして。大丈夫だから大丈夫だから」
「アザミーナ…」
クローバ様の伸ばした手を私は跳ねのけた。裏切者が、いやクロッカス家に復讐しようとしている人間が私に触るなと怒鳴りつけたくなる。それよりもイチイを助けなくては。やるべきことが頭の中で散らかってしまい、まとまらず焦りに焦り喉を掻いてしまう
ぱんっ
小気味よい音が鳴り、頬が熱くてヒリヒリしだした。一拍遅れて分かったのはクローバ様が私の頬を叩いたことだった。頭が真っ白なままゆっくりと彼を見上げると目が合う
「あ」
「あなたらしくないですね」
クローバ様は私に目線を合わせるために地面にしゃがみ込み肩をつかんできた。静かな藍色の目を見ているうちに心が落ち着いてきた
「失礼したわね。やるわ、できるかわからないけど何もできずに終わるくらいなら」
私は足で雪の上に魔法陣を書く。いつもハンカチに刺しゅうしたあるのよりも簡単で大きなものだ。クローバ様に手伝ってもらいイチイを真ん中に置く。彼の息は細くなっており、少しの風の音でかき消されてしまいそうだ
「すべてのものは、火、土、水、風からなる。毒もまたその法の下にあり。故に我に解せぬものはなし、解明せよーー解析」
魔法を一言でいうのならめちゃくちゃなものだ。それこそ法則とかは無いし、ごり押しで何とかなる。この呪文はお前らのことは全部わかってるから情報よこせといった感じだ。普段作る専門の私はあまり使わない魔法だがちゃんと発動したようで、私の脳内に直接毒の成分の情報が流れ込む。良かった全部知っているものだ
そこからは早かった。薬師魔法で解毒剤や造血剤、ほんの少しの痛み止めを作りイチイに与えた。徐々に呼吸が安定して穏やかになりもう大丈夫だと安心できるくらいになった。私が震えているとクローバ様が包むように私を抱きしめてきた。その温かさに眠くなった私は目を閉じた
眠くなったとはいえ雪の中で眠るわけにもいかずクローバ様とその従者の馬に乗せてもらう形で帰路へとついた。暗殺者のほうは逃げてしまったらしい
「クローバ様は勉強の方は大丈夫ですの?」
「実ははあなたの誕生日に間に合わせるために忙しかったのです」
「私の誕生日?」
「ええ、もうすぐですよね。手紙を書けばいいと思われるかもしれません直接言いたくて、その日までに帰れるように、試験を早く終わらせようとしました」
馬に乗り後ろから聞こえる声に返事をする。私が歩くわけにもクローバ様を歩かせるわけにもいかず二人乗りをしようということになった。イチイは馬が引く荷馬車のほうに乗せてもらっている
「それでここにいたのですね」
「早く終わらせて良かったと思います。あなたを失っていたかと思うと」
クローバ様はそこで言葉を切った。声が震えているのはきっと怖いからなのだろう、死も人が突然いなくなることも
「私は生きていますよ。安心してください」
「俺は母を五つの時に失いました」
「知っているわ。この前お母様だって言っていたでしょう」
「昨日まで笑っていたのにその日まで普通の過ごしていたのに急にいなくなってしまった。俺に返事をしてくれなくなった、目はうつろで時々痙攣してそして…死んだ」
私は同情の言葉をかけようとしたがやめておいた。それはきっと私が何を言っても意味がない、時だけがいやせる傷だろう。それよりも気になることがある
『普通に過ごしていたのに急に死んだ』それはまるでそれまで病気があることを知らなかったようではないか。おかしい、クローバ様は母親が病気であったことは知っていないのだろうか?いくら五歳の子供とは言え、気付かないことがあるのだろうか。思い出さなくては、ゲームの中で病気を発症した時の彼はどんな様子だった?
言葉の引っ掛かりは私の胸の奥で燻り始めていた
ありがとうございました。かっこいい呪文を書きたいのですがむずむずしてつらいです
明日は午前8時に投稿します