18.悪魔令嬢は、襲撃される
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泣き終わった後はひたすら集合場所を目指して歩いていた。イチイは昔みたいだとからかったりしたが泣きすぎて怒る気になれなかった
「アザミーナ様伏せろ!」
伏せろと言いつつイチイは私の頭を押さえつけてきた。頭の上を鋭いものが掠めていく。背にぞわぞわしたものが駆け抜ける。訳が分からぬままに息をひそめて、矢であろうものが飛んできた方を見ると黒ずくめの人間が三人いた
「何が」
「お前がアザミーナ・クロッカスか」
恐怖のあまり声が出せず、イチイの服をぐっとつかむ。見るとイチイの顔色が悪い。怖いのは私だけではないのだ
「ええ、私がアザミーナ・クロッカスよ。あなたたちは誰の許可を得て私に矢を射るのかしら?」
「バカか!やめろ」
「なら、話は早い死んでもらおう」
明確な殺意に怯みそうになる。でもここで引いたら私のプライドが許さない
「待ちなさい。私は誰かの恨みを買った覚えはないわけじゃないけど…殺されるほどのはないと思うの。勘違いしていない?」
「いいや、あの方はお前を確実に殺せとおしゃったのだ」
「私のことを。わたしにそんなに価値があったのね、じゃあこの男は関係ないわよね」
「お前だけといわれている」
「じゃあ、私は全力で抵抗させていただきますの」
思い切り戦う気でいるとイチイがかばうように前に立つ。銀の髪が雪の光をはじく。彼の高い背は私を暗殺者たちから完全に隠してしまっている、見えない今がチャンスだと魔法陣のハンカチを出して薬を合成した、そして後ろから暗殺者に向けて投げる
「ぎゃああああああああ」
「ふん、ざまあみろですわ」
安心してください、ただのミント水です。無害とは言えないが失明するほどではない。目が焼けているのではないかと思うくらいの清涼感が来る。なぜ知っているかと問われれば本当は目薬を作ろうとしていた、それで自分に試したからどんな痛みが来るか知ったのだ。痛みが治まれば目がすっきりすることは保証する
「イチイ!今のうちに逃げなさい」
「できるわけないだろ。ほら、行くぞ」
イチイはこちらを見ずに私の腕をとった。雪道は一歩進むだけで体力が削られてつらくなってくる。私が息を切らしながら進んでいくと
どさり
そんな音を立ててイチイが白銀の雪の上に倒れた。混乱して彼を揺さぶる、ぬめりとした感触と共に手が赤く染まる。つい後ろを振り返れば赤い色が点々と続いていた
「い…」
「静かにしろ」
悲鳴を上げそうになるがイチイの制止ですんでのところで止めた。落ち着け私、私は誇り高き魔法薬師の名家クロッカス侯爵家の一員なのよ。たかが血くらいで怯えてどうするんだ。イチイは腹部に傷を負ったらしいくそこから血があふれ出ていた
「イチイ、傷をふさぐわよ」
「そんな時間無い早く逃げろ」
さっき私の前に立ったのは隠すためでなく刃物からかばうためであったのだ。毒が塗られていないことを祈るしかない。何でも消せる毒消しのようなものはこの世にはなくもし塗られていたらその症状に合わせた対処をするしかない
「口論している暇はないの。お父様は私がいなくなるよりもあなたがいなくなる方が悲しむわ。それに私が死ぬはずないもの」
「なにを」
「あなたたち、私はもう逃げない。だから、こいつを治療させてちょうだい」
「人にものを頼む態度か?」
私は後ろから追ってきた黒ずくめに向かって頭を下げた。私は悪役令嬢だからゲームが始まるまでに死ぬ確率は無いとは言えないが低いだろう。けれど、イチイはゲームには出てこなかったキャラだどうなるか分からない
「お願い申し上げます。少しでいいので私に時間をください」
「許すというとでも思ったのか?」
雪か恐怖のせいかわからないが指先はとても冷たくなっている。追いかけてきたのは一人だけだったが、勝てるわけではない。あの薬に耐性があったかと思うと感心する
そんな場合では無い。会話を続けなくてはすぐに殺されてしまう。
「あなたたちは、カミモル家の誰かに頼まれたのかしらね」
ぼそっとつぶやいた言葉を黒ずくめは拾ったらしい、一瞬反応があった。他の家かもしれないと思っていたがその反応で悪い方の予想が当たったらしい
「でも、当主の命令ではないでしょう?その子息の婚約者である私にそのようなことしていいのかしら」
「お前はもう黙っておけ」
失敗だ。喉を掴まれてもう片手は銀に光る刃を持っていた。それに対する恐怖よりイチイを救えない申し訳なさが先に来た
「ごめんなさい」
誰かに向けたかわからない謝るための言葉が口から勝手に出てきた
ありがとうございました。暗殺者を仕掛けてのはいったい誰でしょうか、隠しているつもりですが多分ばれていると思います
次話投稿は今日の20時です




