12.悪魔令嬢は、お母様に会う
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私アザミーナ・クロッカスと申しますわ、目の前のイケメンがクローバ様という方で私の婚約者。馬車の中で二人きりですが緊張とかする前に酔ってしまい、気持ち悪くなっている
「クローバ様、はしたないけれど少し眠ってもよいかしら?」
「構いませんよ。良ければ俺の膝かしますよ」
「要らないわ」
話しかけるなと言いたくなるくらい吐き気がこみ上げてくる。いつもは自分で馬に乗っているせいか馬車には慣れていない。体調が悪い私を乗せた馬車は、いつの間にか王都に入っていた
「王都に来るのは久しぶりですわ」
「社交シーズン以来でしょうか」
そう言えば、そうだった気もする。王都にいるお母様にもしばらく会っていない。勢いのままに来たけれどどのようにしてお母様に会えばいいのだろうか
「クローバ様、王城はどちらですの?」
「こちらですよ。クロッカス侯爵夫人に訪問の知らせはしていますか?」
「していませんわ。まあ何とかなるでしょう」
王城は壁が白く圧倒的な存在感を放っている。城を見て思い出したが、クロユリはあなたと共にでは攻略対象に王子がいた気がする。その悪役は公爵令嬢のヒーラギ様、乙女ゲームの悪役にしては珍しく男装の令嬢だ。
攻略対象の王子は平民の愛妾から第三王子として生まれたため立場が弱くいじめられていた。ヒーラギ様は彼を守るために強くなろうとした結果そうなったらしい。ちなみに、王子の復讐相手はヒーラギ様ではなかった
「こんにちは。私アザミーナ・クロッカスと申しますの。母のチェリー・クロッカスに会えるかしら?」
「アザミーナ様ですか。上のものに確認をとりますお待ちいただけますか?」
近くにいた門番に声をかけると、慌ててどこかに行ってしまった。どうしたのだろう。程なくして戻ってくると、後ろにはふんわりとした茶色の髪を持つ女性がいた
「ありゃ、あたしの娘を名乗るなんてどんな偽物かと思えば本当にアザミーナじゃないか」
はかなげな見た目と中身が一致しない彼女こそ私の母親チェリー・クロッカスだ。無地のワンピースの上に白衣をまとい珍しいこともあるものだと呟いていた
「お母様お久しぶりですわ」
「ん?まだその変な口調直っていなかったのかい」
「変って失礼じゃございませんこと?こちらは私の婚約者のクローバ・カミモル様ですわ」
「カミモル…ああ、ナズーナの息子か。元気にしてるか?」
「おかげさまで」
若干クローバ様の声音が低くなる。警戒しているのか怒っているのかのどちらか、あるいは両方かもしれない。しかし、それを気にしている暇はない私にはやらなければならないことがあるのだ
「お母様私聞きたいことがありますのよ」
「何だいと言いたいところだけど、ここで立ち話もなんだ。私の部屋に来るといい」
お母様は私たちに背を向けて慣れた様子で王城の中に入っていく。私は恐る恐る中に入ると、兵士たちの目が威圧感を与えてきた。悪いことをしているわけではないが結構怖いものだ。そう思ってうつむいていると誰かの手が差し出された
このきれいな手はクローバ様のものだ。顔を上げると彼はこちらを見てほほ笑みながら手を差し出している。ありがたく思ってその手を取ろうとすると
「こーら!王城でいちゃつかないの」
「いちゃついてなどいませんわ。クローバ様早くいきましょう」
お母様の声を聞いて私はとっさに手を引っ込め、何もなかったように歩き出す。今度はお母様の隣まで行って並んで歩く。一瞬、お母様が後ろを鋭い目つきで見たが気のせいだろう。彼女は人を睨むことなどしないのだ
お母様の部屋は私の実験室のように薬草のにおいが充満していた。机の上にはたくさんの書類、床には本が散らばっている。お母様は適当に書類をどかして出てきたカップに二人分の紅茶を注ぐ。私たちも書類に埋もれた椅子を見つけて座る
「さあ、どうぞ。何が聞きたいのだい?」
私は口を開いては閉じることを繰り返した。聞きに来たのはいいものの、本人を目の前にするとなかなか言葉が出てこないものだ。言うのをためらっていると手に暖かいものを感じた。私の手の甲の上に重なるのは美しい手だ。その手に励まされて私はやっと言葉を発することができた
「お母様がおじいさまとおばあさまを殺したという噂は本当ですの?」
お母様は厳しい目つきで何かを睨んだ。それは、初めて見る表情であった
明日は、9時に次話投稿します




