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あれはまさか、おとぎ話の中でしか語られることのなかった、空気を読む力?実在していたのね

掲載日:2018/06/26



僕の名前は河田裕也、別にスポーツ万能でもなければ成績優秀でもなくかと言って逆にそれらがとてつもなく悪いわけでもなくルックスも平凡な、どこにでもいる普通の中学三年生だ。

今日は近所にある高校の野球部がが全国高等学校野球選手権地方大会の決勝戦に出場するらしく、同じ町のよしみということで僕たち三年生も夏休みの奉仕作業の代わりとしてクラス全員で応援に向かうことになった。


球場は蒸し暑かった。突き刺すような日差しが僕の体をこんがり焼こうとしている。実は朝から微妙に体調が悪く正直どうでもいい応援とか欠席するつもりだったが、中学最後の夏休みの思い出作りとしてこうして全員で集まったついでにこの後キャンプ場でバーベキューしてそのままテントで一泊したら最後に記念撮影なんて、なんか多少のことで行かなかったら申し訳ない気がしたので空気を読んだ僕は病を押して出席したのだ。


しかし体とは現金なものでバスで隣の席になった意中の女の子から「今夜が楽しみだね〜」なんて言われたら直ぐに元気になった気がするので存外僕も楽しみにしていたのだなぁと再確認。花火も一緒にやる予定なのでテンションは鰻登りだ。9回裏の逆転のチャンス、僕の心の弾みに合わせたかの様に白球が高く跳ぶ。


これはアウトか? そう誰もが固唾を飲んだ刹那、ヒュオーっと大きな風が吹く。ボールはバックスクリーンに向けて遠く流れて、キラリと眩しい太陽に隠れて見えなくなった。


バコン。スコアボードを叩く音。ドラマの様なサヨナラ満塁。そんな奇跡だがその時は誰も意識していなかった。何故ならーー


「なに、アレ?」


観客席に座る一人の少女が指差す先には空から堕ちてくる赤い炎がーー


「もしかして、隕せーー」



空から降ってきた巨大な塊はホームベースに突き刺さり、球場の内部へ甚大な被害をもたらした。






僕たちは、死んだ。







……筈だった。



あれ、ここは?



全身を衝撃波で叩きつけられ、地面を転がりながら揉みくちゃになって意識を失った後、目を覚ましたら、なにやら豪華そうな建物の中にいた。まるでこれは、お城の中の様な。


先ほどの状況を振り返り、今の現状に当てはめると、五体満足で立っていられるわけもなく当然病院でもなさそうなことから、ここはもしかして異世界なのでは? なんて、馬鹿なことを考えた。


周囲を確認するとそこにはクラスメイトたち全員が。次々に目を覚まし始めた三年の仲間たちは僕と同様に体を確かめたりあたりを見渡したりして混乱中だった。


「お、おい。なんだよ、一体なにがどうなってんだよ?」

「よかった。私、死んじゃったんじゃないかって……」

「あんな状況で生きていられる筈ないだろ、俺たちは死んじまったんだよ!そんくらい分かれよ!」

「でも、じゃあ、なんで」


なんとなく、みんな漠然と死んだという認識がある様だ。ここが天国やら地獄など想像上の場所でないことも何故かわかる。一番しっくりくるのはこれが夢で、でもあまりにもリアル過ぎることから何となく僕はここが異世界の様な気がしたので、自分の意見を言おうとしたけど、なにやらみんなが言い争っている最中に僕の様なクラスの中心人物でもない人間が横槍を入れるのはさらなる混乱を招くばかりか収拾がつけられなくなる気がしたので、ここは空気を読んで口を噤んだ。それに、この場にはそれを伝える適役がいる気がしたから。


一人の男子が喧嘩腰に女子の発言を突っぱねたことから異性間で半ば紛争状態の有り様になりつつあった。そこにケタケタとある一人の男の笑い声が響く。


「キヒッ、キヒヒ。何だよ君たち、分からないのかい? 死んだと思ったら知らない場所にいた、なんて状況、それにふさわしい答えは少し考えたら直ぐに出てくるだろうに」


「な、何だよ、上田。その答えってやつは」


「なぁに、簡単さ。……ここはさ、異世界、異世界なんだよ」


しかし、彼の声は小さすぎたので近くにいた僕以外は誰も聞き取れなかった。


「え、何だって?」


「あ、だから……その」


何とも言えない沈黙が漂う。上田くんが最後にやっぱ何でもないと言ってさらに拗れる気がした僕は続きが気になっているみんなの気持ちを代弁して彼の言葉を繋いだ。


「ここは異世界だって言ってるみたいだよ」


僕の発言でさらなる沈黙がもたらされた。彼の先ほどの引き笑いと、その後もたらされた馬鹿らしい回答にクラスのみんなは一旦冷静になった。こいつ、頭おかしくなっちゃったんじゃないの、と。


「ーーっは、冗談キツイぜ。な訳あるかっつーの」

「はっ、信じないのは君の自由さ。でもいつか後悔」


「冗談じゃない、としたら?」

「な、河田、お前まで」


僕は別に上田くんの肩を持つわけじゃないがこのまま彼の意見が宙に浮いたままだと話が前に進まない可能性大なので自分のキャラではないがここで意見を主張することにした。


「上田くんも、もう気がついているんだろう。ステータスが見えることに」


「やっぱり。河田くんも気がついていたんだね」


「別に気がついたわけじゃない、ただ上田くんが色々呟いていたのが耳に入ったから、何となく真似してみたら、ね」


「な、なんだよお前ら、ステータスって、おわぁ?!」


「ちょ、どうしたの、達也くん!」


「うわっ、なんか目の前に薄くて変なのが! SFか何かかよ!」



クラスのお調子者、山口達也が疑問を発した直後、突然何かに驚いて尻餅をついたのがキッカケとなり、クラスメイト達が続々と試しにステータスと呟き始めた。


「なんだ、これは? スキル?ステータス?」


「あれじゃない? ゲームとかで主人公のプロフィールに書いてある」


「そんなのは分かってる。けどなんでそれが今目の前で浮かんで見えてるんだ?」


全員で顔を見合わせ、同じ様な立体スクリーンが目の前に浮かんでいるという情報を共有した。では、これは一体なんなのか?

その疑問に答えられそうな、何か知っていそうな人物に視線が集まる。そんな、僕をみられても困る。


僕は片手で目の前を仰いでイヤイヤと返事をした後、空気的に何か答えたそうな上田くんに視線をやって頷いた。彼はやれやれと肩をすくめて言う。


「それはきっと、あの人が答えてくれる筈さ」



……だからさ、上田くん。声、小さいんだよ。結局僕が答える羽目になるんじゃないか。











「ようこそおいでくださいました、異界の勇者の方々」


うん、知ってた。と、僕は思わず口にしかけた。別に隠す事でもないがここで出しゃばるのは役者が違うんじゃないかなってね、空気的に。


僕のこの気持ちは上田くんが仲の良い美術部の友人達と代わりに共有してくれた。ほらやっぱりなって顔ではしゃいでいる様子。


「その口ぶりですと、あなたは俺たちが今おかれている状況に対して何か関係が有るようですが、いったい誰なのか、お聞かせいただけませんか」


ここでクラスの代表を務めるのは僕ら三年で一番背が高くて格好の良い、サッカー部のエースにして生徒会長も務める爽やか系イケメンのいかにもリアル充実してますって感じが溢れてる高山春樹くんだ。


彼の誰何に答えたるはゾッとするほど冷たい目の色をした美人さんで、予想だが王女様とか姫様とか、なんか偉い人の一人でしょうなぁ。


「わたくしはアーラル神殿に仕えし巫女、ロベリア・ペストロイカです。此度は主神アーラル様の神託によりあなた方勇者の魂を異界の神門から招来し、いずれ来たる第三の氾濫に備える駒として使える様に指導する役目を担っております」



おや、巫女さんとな。予想とは少し違ったな、そして何やら雲行きが怪しい。


「……?」


ちょ、待って!高山くんが難しくてついていけてないの!この子、イケメンでスポーツ万能だけどちょっと抜けてる感じなの。しかしそこが女子には寧ろ堪らないそうで、解せぬ。

つかこの人の話は説明になってないし。

ハンランにどの字を当てはめたら良いのか定かではないが不穏な気配しか感じられないぞ、それに駒って言いましたよね、この人。困ったなぁ、僕の聞き間違いならいいんだけど。


「…なるほど、つまり?」


「あなた方は、星の数ほど現れる魔物を討伐するための戦力として、これから山のように大きな地竜でも容易く屠れるだけの力を訓練により身につけて貰います」


多分、高山くんは先ほどの発言にあった神殿やらあーら不思議神やら異界の門的なよく分からん固有名詞をもうちょっと噛み砕いて分かりやすく説明してねの意でつまりと言ったのだろうが巫女さんは要点だけ簡潔に述べろと受け取ったようだ。え、これマズくね?説明終わり?



「ちょ、ちょっと! 何言ってるか全然わかんない。戦力? 魔物? 訓練って何、私たちそんなの聞いてないしやりたくない!」


おっと、クラスの美化委員、小林さんが僕たちの気持ちを代弁してくれたぞ! いいぞ、小林さん。


しかし、小林さんは人睨み聞かされただけでヒッと息を呑み、そのままシナシナと腰を抜かして泣き出してしまった。彼女、ちょっと臆病なところあるから。

僕たちの遠くない未来に暗い影が差している。誰もがそう感じ取っていただろう。何か、誰か何か言わないと、このままじゃ取り返しのつかないことになるんじゃ。そんな雰囲気が漂うが高山くんは割とポンコツだし上田くんはさっきからずっとステータス画面とにらめっこ中で、果たしてこの重い沈黙を誰が破るのかとみんなが目配せしてる。あ、僕は無理なんじゃないかな?多々良さん、どうです? あ、無理、だよね……。



「おいお前、さっきから俺らが黙ってりゃ偉そうに! 訳のわからねぇコト抜かしてねぇでさっさと俺らを返しやがれ」


そして、ここでクラスのヤンキー、浅野くんが遂に立ち上がる。身長は高山くんと殆ど変わらない175cmだが、彼のガタイの良さを前にすれば思わず持ってる財布を差し出したくなる精悍さだ。ちょっぴり喧嘩っ早い彼は学校の皆んなからは恐れられてると思って普段から人とは一歩距離を置いたつれない態度をしているが、僕たちのクラスのみんなは知っているから。君が実は誰よりも花壇の花を愛でていることを、美化委員が水をやる前にいつも手入れが終わっている原因を、そして実は今日のキャンプを誰よりも楽しみに来ていたことを。


普段は花を愛でちゃいるが、喧嘩こそが漢の花道よと浅野くんが強気な態度で前に出る。冷たい目線で表情一つ変えない巫女さんに浅野くんは激怒した。


「舐めた真似してんじゃねぇぞゴラァ!」


巫女さんの真ん前で唾を散らせながら罵声を飛び散らせる彼の発言はとても聞き取れたものじゃなかったので、多分こんなこと言ってたんだと思うよ。でも迫力は凄かった、ちびるかと思った。


離れて見ていた僕たちでこうなのだから耳元であの恫喝を浴びせられた巫女さんもこれは流石に、と思ったが全く動じてなかった。

眉ひとつ動かさない巫女さんの目の色になんとなくヤバそうな空気を感じ取った僕は思わず「すぐに避けて!」っと、自分でも一体何を言っているのか分からないことを叫んでいた。中身は無くとも一応伝わったようで機敏な動作で瞬時に後ろへ飛び退いた浅野くんだったが、直後に謎の衝撃をモロに受けてこちらの方に吹き飛ばされてきた。



「ッてぇなぁ!」

「大丈夫、浅野?」


クラスのみんなが浅野くんを心配している。幸い大きな怪我は無かったようだ。

高山くんが初めて憤りを表情に表して巫女さんをキッ!とにらめつけた。


「他に何か聞きたいことがある者は居らんか? ……居ないようであればわたくしはこれで失礼されていただこう。

後のことはのちに他の巫女が説明に参るゆえ少し楽にしているとよい」



何故この人は僕をじっと見ながらそんな事を言ってくれるんですかねぇ。

巫女さんの去り際に、横目で意味深に微笑まれたのだが、空気的にここはリーダーである高山くんが受けるべきだと思い僕は浅野くんの介抱に回った。今度はつまらなさそうな顔をして、戸口の向こうに消えていった。


「河田くん、これから一体」


「分からない。でも今は。浅野くん、大丈夫? 頭とかぶつけたりしてない?」


「あぁ、何ともねぇよ。それよりも悪かったな、俺が出しゃばったばっかりに面倒かけちまった」


「何いってるのよ! あんな気味の悪い女から意味わからない吹き飛ばされ方しちゃって、私、もうダメかと」


「ちょ、な、何泣いてんだよ、小林。俺ぁこの通りピンピンしてるからよ、少しムカついちまったからって今度はあんな真似しねぇよ」


「もう、本当にやめてよね……この際だから言うけど、私、あんたのこと好きなんだから、もしもの事があったら、私……」


「おう、悪いな。俺も小林のことは嫌いじゃねぇぜ、ハハッ……はぁッ?!」



おや、ここで一世一代のカミングアウト。先の見えない未来に耐えかねてか遂に告白してしまったぞ。尚、彼女が美化委員をやっているのは他人と距離を置きたがる彼と少しでも接点を持つためにやっているからなのは浅野くん意外のクラスメイトと本人以外には周知の事実である。こんな状況だと言うのに見つめ合う二人、幸せそうで何よりです(白目)。


「おめでとう二人とも。とは言ってもこんな状況じゃ落ち落ちとお祝い出来ないのが心苦しいけど、帰ったらみんなで絶対パーティやろう! いやー、実はいつになったら君達が付き合い始めるのかと僕らーー」


「よーし、ちょっと春樹くん、こっち来てくれるかなぁ」


「え、あ、なんで、あ」


よーし、いいぞー。女子グループにポンコツ生徒会長が拐われてった。だってあのままだと浅野くんがやかんのように沸騰しちゃいそうな有り様だったからねぇ。おっと、小林さんもリンゴみたいになってるじゃないか。お暑いことねぇああもう見てるこっちが恥ずかしい。

見ればあちこちで今生の別れのように思いを伝えある男女がいた。その結果、どうやら僕の意中の女性は山口くんと結ばれたみたいで僕の初恋は思いを告げる前から砕け散ったのを知った。

……さて、邪魔者は涙と共にさっさと消えますかね、空気的に。






「これから、皆様にはステータスをこの紙に複写していただき、私のところに提出してもらいます。提出していただいた資料を元にこちらで皆様一人一人の育成プランとチーム構成を検討致しますが、このまでで何か気になることがございましたら質問していただいて結構です」



あれから十数分した後である。僕たちクラスのカップルたちは早くも引き裂かれようとしている。妙に浮かれている男女は少しでも長く共にいようと身を寄せ合い、妙にぎこちない男女の集団はケッと苦虫を噛み潰したような顔をしている。因みに僕は後者だ。ケッ、ザマァねえな。

心が悪い方に傾いている。でも今はこの気持ちを共有する仲間が十数人は居る、たとえ丑の刻参りで出会った女性だろうとも今なら添い遂げられそうな気分。勢いで隣の青い芝へ呪詛を振りまく作業に病みつきなの。きっと彼らも許してくれるさ、空気的に。


「な、なんだよお前ら、さっきまであんなに仲よかったじゃねえか。これからどんな目にあうかも分からねえからこそ、協力が大切になるんじゃないか、なぁ」



さっすが、クラスのマドンナ、姫野茜さんをものにした山口くんの言う言葉は為になりますなぁ。確かに、所詮俺ら背景のような選ばれなかった有象無象でも協力、チームワークの力でお前を超えられるかもしれないよなぁ。さて、みんな。玄翁と五寸釘、あと肝心の藁人形はもったかぃ?

奇妙な一体感に支配されている僕たちには、他の女子からの惨めな物を見る目が集まっていたが、もう何も怖くなかった。


そんなおふざけも程々に、そろそろ潮時かと空気を読んだ僕は作りかけのブードゥー人形を放棄して女子力の育成を中断した。やれやれ、こんなんじゃ先が思いやられるぜ。



召喚の後の、お約束のステータス確認がやって来た。ここで一悶着あるのもこの手のフィクションをかじったことのある聡いやつならすぐに感づく。ずばり特典チートのエリート組と、特典貧乏の落ちこぼれチームの誕生会が開催されようとしている。先ほどの恋愛弱者のお仲間さん達と情報交換を行ったところ、やはりステータスにバラツキが見られ、特典と思われるスキルに関しても一見して強そうなものや用途不明な代物からネタとしか思えないスキルまで様々だ。

因みに僕のステータスはそこそこ。スキルは【空気を読む】なる見るからに残念なスキルだった。

自分が使えないスキル持ちとしてそう遠くない未来に冷遇されるようになるのはクラス転移ではお約束だし実は隠れた才能やら窮地に陥った際に突如覚醒する運命が待ち受けていそうなのでこの結果を、はいそうですか、と一言で承服してやるのは僕としては御免被る。それにそんな役回りは僕以外にも相応しい人が何人か居るんじゃないかな?


「ええー、マジかよ。それ強そうじゃん!」


「だろ? 雷魔法の最上級クラスだからな。雷といえば勇者だよなー。

そういや、河田はどうだったん?」


「いいなー。あーと、僕は…水属性魔法の中級だった」



「あー、被ったぁぁぁぁー……」


「おおー、悪くないじゃん」


「これで僕ら全員魔法使いか、なんか実感わかないけど」


「おいちょっと待てちゃ! なんか微妙かと思われた呪術でなぜかめちゃくちゃ回復したんだが」


「おーヤベェ、不遇スキルかと思われたのが早くも覚醒したらしいぞ!」


「なんか浅野のブードゥー人形に呪いかけまくったら呪われた本人が超回復してら」


「ちょ、お前」


「ぱねぇ」


「つかこの人形どこで手に入れたんだよ、河田先生よぉ」


「うふふ、乙女の秘密よ、はーと」


「キメェよ!」



はいごめんなさい。さらりと水属性魔法だなんて嘘つきました。いやぁ、だってね。怖そうな【呪】とか強そうな【ムキムキ】とか以外はみんな無難なスキル持っててね、ここで上級、最上級ときて高まりまくったテンションの中【空気が読める】なんてスキル暴露してもね、逆になんてコメントしたらいいのって話でしょうに。しかも絶対これ覚醒しないやつでしょ。ここはこっち来てからずっとウズウズしている上田くんの出番でしょうきっと。


すると案の定、彼にステータスを見せてもらったら、各種値は僕らより全然低くて一見してクソ雑魚だったんだけど、スキルもやっぱり意味不明。スキル名は【リベレーター】、詳細には、解放する、とだけ。空気を読む以上に説明足りてない感じたけど何を解放するか書いてない辺り何かとてつもない進化の可能性とか溢れてるんじゃないかな。封印されし伝説のなんとかとか、世界の秘密を解き放つ、的な。僕なんても読めても空気だけだからね。隠された古代文明の解読不能文字とか読めたら多少はね、期待するんだけど。


そんな訳で彼が将来何か大きなことを成し遂げる雰囲気を読んだ僕は将来覚醒するかも?なポジションから身を引いて中級水属性魔法使いになりましたよっと。提出書類も抜かりなく魔法を生やしといた。

これにて一件落着……おおっと、呪術がバグって回復魔法に化けた北村くんが早くブードゥー人形を呪いたくてウズウズしているぞ? そんな空気を感じたので、仕方ないな最後の一つだよ、と人形を手渡した。本当はまだ出せるんだけど、ここで空気を読まずに何度も彼に渡しちゃうとお前はどっから出してるんだよと漫画的アニメ的お約束の展開にぶち当たる雰囲気をビンビン感じるので呪いは1日一度だけだよと念押ししておいた。女子の回復魔法使い永田さんの立場を奪ったら申し訳ないしね、僕は空気が読める男なのだ。


ところで、クラスに表立って最強と言い張れるような、いわゆる勇者的な人が何故か現れなかったので、クラスのリーダである高山くんが巫女さんに書類を提出する前に強そうなスキルを沢山生やしておいてあげた。


「ほう、これはこれは……馬鹿な!こいつ、どれ程のスキルを?!」


あ、ちょっとやり過ぎちゃったかも知れない。でもこれから不明な理由で無理やり謎の怪物的なのと戦わされるっぽいんだから、スーパーマンが一人ぐらいいても良いんじゃないかな、期待値的に。


「なんだよ、高山。光魔法以外もいっぱい持ってたんじゃないか」


「あれ、おかしいな、最初見たときは……あ、下の方に画面をスクロールしたら一杯出て来た」


「もー、春樹くんは相変わらずおっちょこちょいなんだから!」



ーー あははは〜


ほら、やっぱり君はみんなにとってヒーローじゃないか。

あ、上田くんが悔しそうな顔してる。まあ君にもそのうち活躍する機会が訪れるさ、絶対。


…… もう、僕が居なくても平気かな。

転生してからずっと空気的にドン底だったけど、やっと皆んなの笑顔が見れたよ。僕の役割も、此処までだ……。


なんとなく、このままフェードアウト出来そうな気配を感じたのでソロリソロリと一歩下がる。すると霊能力者の伊藤榛名さんにあっさりと姿を看破されどこに行くのと引き止められる。僕は……あのとき、死んだんだ。そうみんなにはそう伝えてくれ。彼女はホロホロと涙を流しながら、分かったわと最後に笑ってくれた。


あ、先生。野球部の皆さんも。皆んなが、僕を呼んでいる。河田、河田くん、裕也、ゆう……









「河田、おい、河田って!」


「ユウくん、しっかり!」



あ、危なかった。あれはもう少して死ぬところだったよ、空気的に。多分死んだ僕がクラスメイトのことが気がかりで生き霊としてみんなをサポートして成仏して行くって筋書きに違いない。いやー、僕はとても友達思いのよく出来たやつだなぁ。ところで野球はもう終わったの?


「……お前なぁ、気をつけろよ。倒れてから姫野さん、ずっと手当てしてくれてたんだぞ」

「ボールが頭の上をスコーンだもんな、あれは痛いわ」


え!姫野さん。すると、この頭のスベスベした感触は?


「ブチュー」


「ギャァァァァ!」


首を回して上を見て後悔した。なんと、そこには姫野さん、だったら良かったのに、山口くんのタコチューが!

一瞬天国かと期待した僕が地獄へと突き落とされた瞬間だった。あまりのショックに気絶!


次に目が覚めたときは夜だった。少しだけ冷たい氷嚢がおでこを冷やしてくれて気持ち良い。


「はぁー、凄い夢だったな」


「あ、おはよう。もう夜だけど。えっと、なんか食べる」


「ん……え、姫野さん?!」


一瞬で目が覚めたわ、やっぱり天国だったのか、ここは。通りで心地が良いわけだ。

姫野さんの白魚のような指がおでこのコブをなぞる。うん、だいぶ良くなったね。その言葉の後もしばらくずっと、さらりさらりと撫でてくれた。


「ありがとう姫野さん。もう平気だよ、皆んなのところへ行きなよ」

「ううん、私はここで良いの……ねぇ、覚えてる?去年の夏、ここで花火したの」

「え、ああ。高山くんとか一杯参加する予定だったのに色々と予定が狂っちゃって」

「うん。それでね、私たち二人だけでどうしよっかなーって」

「だって僕らが持って来たのヘビ花火と線香花火だけだったし、あれは無いって」


「だよねー。……それで結局、線香花火だけで二人寂しく、なんか切ない感じがしたんだけど急に河田くん、トイレ行くって。ああ、すっぽかされちゃったのかなぁって。仕方ないから私だけは一人でも最後まで花火やるんだって。でも君、コンビニで打ち上げ花火買いに行っちゃってたんだもん。突然近くからどーんって、びっくりしちゃった」

「だって、あれが2年の夏の締めくくりなんてあんまりじゃないか」


「あはは、言えてる。……あの日はさ、前日に嫌なことがあったからさ、ちょっと楽しみにしてたんだよね。なのに皆んなすっぽかしちゃうし、頭にきちゃったけど、君だけは来てくれた」


「それは、まあ、暇だったから……」


「それ、嘘でしょ」


「あ、バレた?」


「嘘でも自信を持たないと、目が泳いでたよ」



それから僕たちは二人だけで友達が花火を楽しむ光景を眺めた。色とりどりの炎を映し出す彼女の瞳は止めも綺麗だった。



「……ねぇ、私達、付き合おっか」


「…………え?」


「ううん、ごめん。やっぱ何でもない」



煮え切らない彼女の態度に、急に何か、冷めた。彼女の目は、僕を見ていなかったから。


「ごめん、ありがと。もう行くよ。今度はさ、みんなで花火しようぜ、絶対」


「あ……うん。バイバイ」



こんな湿っぽい空気で、そんな空虚な想いを告げられても、僕は全然嬉しくなくて、きっとこれこそが僕が自分で描いた都合の良い夢だと気がつくと何だか情けなくて、喜べる空気になんてならなかったから。

背後から想い人が僕を呼んでる声がする、だけどそっちの空気には馴染めそうもない僕は足のおもむくまに進むと、ふといつもの声が聞こえた気がした。




「河田、河田! 起きろ、河田!」


「どうしたんだよ、裕也。いきなり倒れちゃったりして。顔が真っ青だぞ?」



「……ん?あれ、ここは? 花火はやらなくて良いの?」



「……お前なぁ、異世界に来ちまったこと、忘れちまったの?」



え、異世界……?

あ……あれ夢じゃなかったのかよ!




こうして僕の異世界生活は幕を開けたのである。

勿論、死にかけた後は色々暴露してしっかり怒られましたよ。反省しております、空気的に。



さて、僕が勝手に張り切って、その結果力を使い過ぎて危うく三途の川を渡りそうになって得られた【空気を読む】の力だが、何とびっくり、御都合主義を引き起こす能力だと判明した。例えば戦いの最中、協力な攻撃を敵勢力に与えた際にだれかが「やったか?」などど呟こうものなら例え相手が本当にやられてしまっていてもほとんど無傷の状態で復活してしまうようになるのだ。簡単なカードゲームでフラグを乱立させたら面白いぐらいに手札が回ってきてイカサマを疑うぐらいのゲーム展開がアホほど続いたからね。


と言うことはこの能力を十全に生かすなら雰囲気づくりが大切となり、逆にその雰囲気がない場合は他の人の成長の妨げになりかねないわけだ。この事から上田くんの成り上がり無双に関しても今後しっかりとしたお膳立て無くしては成功しない公算が非常に高い。つまり、クラスのみんなで陰湿な嫌がらせを重ねて彼を逆境に追い込まねばならないわけだが……


「残念、彼のメンタルでは苦境に耐え切れなかったようだ」


「ふえーん、ぼく、お家帰りたいよぉ〜。ママァ〜!」


本人たっての希望もあってみんな日頃から感じていたことを包み隠さず伝えたりしてたら彼は急に泣きだしちゃったのだ。こ、こんな筈では。当然これ以上手出しできる雰囲気じゃなくなったのでとりあえずなるべくそっとしておいてあげることに。

しかし、本格的にこれは困ったぞ。なにせ僕が死にかけた所為でクラスから英雄が出たことを呑気に喜べる雰囲気じゃなくなったので高山くんのステータスボードに嵩上げしておいた様々なスキルははがされて光魔法がすこし使えるだけのイマイチ頼りないリーダーに戻ってしまっているから。


先ほどから、もうお前が責任持ってリーダーやればいいんじゃない? って空気を感じている。しかし僕にそんな大役が務まるわけがない、うわっ、おいやめろ!


だけどそんな僕の内心に関係なく空気を読むスキルは僕を勇者っぽく仕立て上げてしまう。これから僕はどうなっちゃうのだろう?

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