ミッション④「ママに会わせよう」【トラ】
ミッション④「ママに会わせよう」【トラ】
屋敷の屋根の上。ソーラーパネルを設置していれば、間違いなく余剰電力が発生しそうなくらい、うららかな春の陽射しが降り注いでいる中に、四匹の猫、いや、猫又たちが歓談している。
「俺もアオもシロも、みんな作戦を達成したんだぞ」
「そうだよ。トラだけ何もしないのは、不公平だ」
「うるさい。俺は俺だろう」
「まぁ、そうだけどさ。でも、アオの言うことも一理あるからね。俺も、容赦なく撫で回されたし」
「そうそう。もっと言え、シロ。俺だって、身体張ったんだ」
「ブチ。お前は、野良のくせに、あんな鈍臭い真似をして」
「野良だから、何だ。いつまでも飼い続けられるとは限らないんだぞ」
「まぁまぁまぁ。みんな、落ち着いて。――今回の作戦は、トラじゃないと駄目なんだ。協力してくれよ」
「そうだ。単に人間に化ければ良いって話じゃないんだ」
「そう。ブチの言う通りだ」
「えぇい、やかましい。そこまで言うなら、今回だけ、特別に引き受けてやらぁ」
そう言うと、尻尾が二本ある虎柄の猫は、切妻屋根の向こう側へと姿を消す。
*
――俺は雄猫だってのに、何で化けると女顔になるかなぁ。小柄なのは、元々だけど。えぇっと。たしか話では、この先の部屋にジュンが居るんだったな。
上にはゆったりしたシルエットのセーターを着て、下には七分丈のパンツを穿いた細身の人物が、トールペイントでファンシーなレタリングが施されたドアプレートが下がっている部屋に入る。
「おやすみ準備なら、ちゃんと……。ママ?」
突然部屋に入ってきた人物に向かい、少年は難癖をつけるように言いかけ、そこにいるのが予想外の人物であったことから、しばし茫然と立ち尽くす。
――鳩が豆鉄砲食らったような間抜け面だな。まっ。死んだはずの母親に瓜二つの人物が何の前触れも無く現れたら、すぐに順応できないか。警戒心を解きたいところだけど、喋っちゃいけないのが辛いな。
細身の人物は、少年をジッと見つめ、不器用な笑みを浮かべながら、両腕を広げて待つ。少年は、両目を潤ませながら、その人物に抱きついて言う。
「会いたかった。ずっと、言いたいことがあったんだ」
――泣くんじゃない、馬鹿。俺まで悲しくなってくるだろうが。
細身の人物は、少年の頭を撫でると、そっと少年の腕を取り、ベッドのほうへ誘導する。
*
「フゥン。それで、ジュンが眠りに就くまで、横についててあげたんだ」
「意外と優しいんだな、トラ」
「馬鹿野郎。そんな美談じゃねぇよ。途中で猫に戻って逃げ出すわけにいかないから、仕方なくだな」
「まぁまぁ。よかったじゃないか。ジュンも、言いそびれたことを言えて、スッキリしてたし。作戦、大成功だよ」
屋敷の屋根の上では、今日も今日とて、四匹の猫又たちが歓談しているのでありました。
※トラ:野良猫。化ける前は、神社の縁の下に棲み、ゴミ箱漁りしていた。雑種、小柄。
※ママ:ジュンの母親。故人。晩年は闘病生活を余儀なくされていた。