第30項 夜明けの光 前編
異形の者と化したアーデルがこちらに向き直る。
戦う意志を見せつけた三人を嘲笑うと「かかってこい」と言わんばかりに巨大な剣を向けた。
それを合図にゼクスとサラは左右に展開して駆け出した。
互いに干渉しないよう、そして敵の注意を片方に惹きつけるように。
剣の扱いに長けていたゼクスはアーデルの右――剣側に接近。唸りを上げて目の前に迫る剣を身をかがめて避けると懐に入り込み、脇腹に一閃を叩き込んだ。
金属にも似た斬撃音が響き、ゼクスの長剣は弾かれる。
「かってぇなおい」
駆け抜けたところを尻尾で追撃されるがバックステップでなんとか避ける。注意を引きつけた所をサラが飛翔し首元を狙う。
予想よりも動きが早い! 巨体に見合わぬ素早さで盾で防がれ接近を許さない。
空中で宙返りをするとすかさずブレスを放つ。紅蓮の閃光が巨大な盾を赤熱化させた。
巨大な盾ゆえに視界が遮られてしまう。
サラは盾を迂回してガラ空きになった胴から肩を切り裂いた。
ゼクスと同様に金属音が鳴り響き、着いたのは小さな引っかき傷のみだ。
小回りが利かないことをいいことに体に密着して斬撃を与え続けるが、まったくもって効き目がない。
アーデルは大振りの得物を投げ捨て、自らの体を武器にして刺突などを繰り出し始めた。
ゼクスとサラは息をあわせて同時に距離を置く。
アイリが魔法陣を展開し、強力な一撃を準備していたのだ。
「プラティンフォーゲル」
アーデルを光の筒が囲う。中のものを焼き尽くすようにプラチナの爆発が巻き起こる。
空震が起き下を覆う海面が乱れ波が生まれた。
一瞬で爆発は消え去り、アーデルの体が影になって映し出される。
「フハッ!! ヌルい!!」
何事もなかったように鼻息を荒くして笑っていた。
「そんな……それほどの力なの!?」
驚愕するアイリ。だがすぐに次の策を練り始める。
アーデルは両手を上に掲げ、掌に黒球の魔力を溜めた。地面に投げるように叩きつけると衝撃波が巻き起こる。
アイリは展開していた防御壁のおかげで耐えたが、前衛にいた二人は衝撃派をモロに受けてしまった。
サラは翼を駆使してなんとか空中で姿勢制御ができたおかげで数メートル吹っ飛ばされただけで済んだ。
ゼクスはそうはいかなかった。全身で受けたせいで機器類に全身を打ち付けてしまった。「ぐぁっ」と短い声を上げると身体を起き上がらせることが出来ない。
「ゼクス大丈夫!?」
アイリが急いで駆け寄りなんとか座らせる。
「あ、ああ。浮遊剣でなんとか衝撃を逃がしたが、痛いの食らっちまった。まだふらつく」
「気休めだけど治癒するからじっとしてて」
治癒を始めるアイリ。ゼクスはアーデルを見据えていた。
サラの機動力を活かして縦横無尽に飛び回り、かく乱してくれていた。
「チッ、ハエのように鬱陶しいヤツだ!」
尻尾や爪でなぎ払うが追いつけていない。
「くそっ、やっぱ盾が必要だな。今度いいヤツでも仕入れなくちゃな」
「今そんなこと言っても仕方ないでしょ!? ……直接手を合わせてどう感じた?」
「……ハッキリ言ってシエラよりもつえーかも知れねぇ。限界以上の力を引き出してるっぽい、頭のほうが力についていけてない感じがしたな。この手の敵は長期戦に向かないだろ?」
「ええ、そうね。でもこっちが持ちそうもないわよ?」
スピードはサラが一枚上手のようだが、徐々にその矛がサラを捉え始めていた。
ゼクスもアイリと同意見だった。このまま長期戦に移行してもジリ貧になる前に力でねじ伏せられてしまう。
「あいにく私たちは目的がある。それを達成できれば……でも、あいつがそう簡単に許してくれるとは思えないわよ」
目的――海流操作装置の破壊だが、簡単に壊れそうにない。ましてやアーデルが阻止してくることは明白だ。まずはヤツの排除を優先したいが、硬すぎて攻撃が通らない。
刹那、ゼクスの脳裏にサラのブレスが盾を赤熱化させた光景が思い浮かぶ。アイリの攻撃では起こり得なかった現象だ。
(龍人の力には弱い?)
一つの仮説が思い浮かんだ。だからといってサラのダガーナイフはまったく効かないし、ブレスを吐き続けろといっても到底無理な話だ。
自分の考えが馬鹿らしいと思いつつやってみる価値がある。そう思ってしまったゼクスは――
「もう十分だ。サラに重荷をかけ続けさせるのは良くないからな」
――笑ってみせた。なにか勝算があるような、そんな笑み。
アイリは「分かった」と言うと距離を取りつつ再び魔法陣を生成した。




