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第25項 龍人と決意のカケラ 後編

一行は身体を休めることにした。

激戦を繰り広げ、体はボロボロになっていたので居住スペースで休ませてもらうことにした。


「これは……」

ミーナが手元にあった絵本を手に取る。

手描きで書かれた龍のお話のようだ。

簡単にだが、始祖龍と英雄が描かれたものだった。

パラパラとめくり、一通り目を通すミーナ。

「お母さんが描いてくれたの?」

「うん。大切なことだからちゃんと覚えておいてって言われたの」

「そうなんだ……ねえ、二人とも。このお話知ってる?」

 と、その絵本を手渡す。

 言われるがまま二人は目を通す。

「いや……これは……」

 バルガスは声を漏らす。

「俺もこの話は知らないな。多分二人も思ってるだろうが、俺たちの知ってる話とは微妙に違ってる。厄神祭のくだりは誰もが知ってる通りだが、龍人の事は一切出てきていない。初見だ」

 もう一度絵本をじっくりと読み直すゼクス。

「俺の記憶と、ここに書かれていることをすりあわせて予想するけど。この龍石ってのはマナの結晶――つまりは第二の心臓みたいなものだと思う。これを失うとマナの制御が効かなくなり、さっきのシエラさんみたいに内側から崩れる。原理とか仕組みはさっぱりだが、さっきの氷塊を砕いたのもそれに関係してたんじゃないか? サラに言ってた『大切なこと』てのもそう考えると納得できる」

「じゃあなにか? この龍石ってのはどんな魔法・魔術も解除できる万能の力ってことかよ。すげーな」

 羨望の眼差しで龍石を見つめる。

「ダメよ。打っぱらおうとか考えないことね」

「お、思ってねーよ」

「でも、代償は大きいわね。人一人の命と引き換えにどんな魔法術を解くなんて……」

 手元の龍石に目を落とすゼクス。

 こんな小さなものが万能の力を持つなんて……


 ゼクスは砕けた龍石のカケラを拾うサラの元に向かう。

 必死に小さな袋に詰めている。それもそうだ。

 母の形見。それも命の結晶だったものを捨てる事はできない。

 ゼクスも拾おうと手を伸ばすがヤメた。

 なぜかは分からなかったけれど、彼女の手で拾い上げたほうがいいと思ったから。

 一通り拾い上げたのを見計らい、隣にしゃがみこむ。

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はゼクスだ」

「サラ」

「じゃあサラ。これからどうするんだ? 君はどうしたい?」

「ここにいる」

 袋をギュッと両手で胸に抱える。

「子供が一人で生きていけるハズがないぞ」

「出来る! サラ、もう子供じゃない! ゼクスよりもずっと長く生きてる!!」

 意地を張って言い返してくるサラ。その瞳にここを離れたくないという決意さえみてとれた。

「子供だ。どんなに長く生きていようと、君は世界をまだ知らない子供だ」

「違う! 違うもん!! 一人で生きてく!」

 ふとゼクスは懐に手を入れる。

「これはサラのものだ。君に返すよ」

「え?」

 サラの小さな両手に龍石を乗せてあげる。

「これはお母さんが必死に取り返してくれたものだ。そして、君のお母さんは……俺は、助けられなかった――」

 唇を噛み締めるゼクス。顔を背けたくなるが、サラはじっと見つめてくる。逃げちゃいけない。

「――でも、シエラさんから、最後に頼まれた。『娘をお願い』って。だから君を――」

 目を瞑り、決意を新たにして、

「守る」

 そう、言い放ち宣言した。


「守る?」

「ああ」

「お母さんも助けられなかった人が? 私を? 笑わせないでよ」

 サラは子供らしからぬ、邪気さえ放っているような雰囲気を醸し出す。

「……これは君のお母さんの遺言でもある。俺が気に入らないのも重々承知だ。だから大人になるまで、君の面倒を見る。そして一人でも大丈夫だと、判断したとき――」

 ゼクスは自分の胸に親指を突き立てて――

「俺を殺せ。君になら構わない」

「――――!!」

 その場にいた全員が沈黙した。

「ちょっとゼクス何言ってるの!?」

「そうだぜ、少し気が動転してるんだろ? な?」

 突拍子もない言葉に二人は動揺を隠せないでいた。

「二人は黙っててくれ。これはサラとの問題だ」

 二人には目もくれず、サラをじっと見つめ続ける。サラもゼクスを見つめたまま。

「いいよ」

 サラは口を開く。

「ゼクスのこと、もっと知りたい。世界のこともっと知りたい。私が満足したら殺してあげる。それまで、おとなしく守られてあげる」

「約束だ」

 ゼクスは手を差し出し、サラも答えるように手を握り返した。

 まだ小さく、か弱い龍人の少女サラ。いつか殺される為に少女を守る騎士ゼクス。

 奇妙な関係が構築された。

 殺される為に守り、殺すために守られる。

 守れなかった業と復讐の為の契約。

 ゼクスはふとアイリに言った言葉を思い出す。

(――俺は変わりたいんだ。だらけきってるいまの生活を何としても変えたい)

 少しは、変われたのかな……

 そんな疑問を持ったゼクスだった。


 サラは身支度を始める。三人と共に外に出るために。

 ミーナとゼクスは魔力と体力の回復に努めていた。

 バルガスはサラの手伝いをしながら、なにか役にたつものはないかと探し回る。

「ん? これは……」

 キッチンの壁に隠れるようにボタンのような突起物を見つける。

 興味本位で手を伸ばそうとするが、腕が太くて入らない。

「おーゼクス。ちょっとこっち来てくれないか?」

 面倒くさそうにやってくる。

「なんだよ。こちとら休憩してんだ」

「ほれ、そこ。押してみてくれ」

 壁の隙間を指差す。覗いて見るゼクス。

 しゃーねーな、とぼやきながらも手を伸ばす。

 カチッ――ガゴン……ゴゴゴゴゴ

 地響きが起き始め、隠し通路が現れた。

「なんだこれは?」

 入ろうとせず、中の様子を伺うと、左右に設置された松明に次々と明かりが灯る。

 延々と続く上り階段。

「サラ、なにか知ってるか?」

「しらない」

 素っ気無く返される。


 顎に手を当てて、考え込むゼクス。

 先になにがあるのか気になってしまう。

「ミーナ、長距離スコープとかないか? このくらいの明るさなら出口が見えそうな気もしないが……」

「一応あるわよ。ほら」

 長距離スコープを取り出して、ゼクスに投げ渡す。

 早速覗いて見る。出口の先に星が瞬いていた。

「一応、外に繋がってるみたいだな。……方角から言ってディネールの方か」

 スコープを投げ返す。

「来た道を返すのも悪くはないが、こっちの方が早そうだな……あの魔装馬はどうだ? 連れてくるのか?」

「あの2頭は既に別動で戻ってるわ。魔力で分かるの。怪我を負ってるみたいだから足でまといになっちゃいそうだし。ましてやあたしもこのざまだからね」

 自虐気味に笑ってみせる。

「だな。これ以上足手まといが増えても面倒が増えるだけだからな。そうするか」

 ゼクスの言葉にミーナがムッとした表情を見せる。

「あんたの秘密。バラしてもいいんだよ?」

 ピクリ、とゼクスの動きがとまる。

 秘密? ゼクスの過去を知っているのは確かだが、そんなバレて恥ずかしい事はなにもしらないはずだが……

「なんの、ことだ?」

「あれあれ? とぼけちゃって。帝都にいた頃の事は誰よりも知ってるのよ?」

「へえ。そうなのか。俺に秘密とか身に覚えはないんだがなぁ?」

 そう言いながらも目が泳ぎ始めた。

 脳裏に同僚の顔が浮かんでは消えてゆく。この中の誰かが喋った、という線も出てきた。ああ、騎士学校時代は敵が多すぎて俺の秘密なんて金を積まなくてもポンポンと出てくる、と今更ながら学生時代を思い出してしまう。

「そう。騎士学校にいた頃。同僚の女の子に――」

「悪かった。やめてくれ。いや、やめてください、死んでしまいます」

 話し始めると同時に地面に正座をして、頭を下げる。

 良くない思い出が蘇ってきそうで、すぐに謝った。

「よろしい」

 得意げにミーナは鼻を鳴らす。


 支度を終えた全員が隠し通路の前に集まる。

 ゼクスを先頭にサラが後ろをついてゆく。ミーナはバルガスに背負われながら後方に注意をはらっている。

「サラ……ちゃん? 自己紹介がまだだったね。あたしはミーナよ」

「俺はバルガスだ」

 サラは後ろをチラッと見て「ん」とだけ短く返した。あまり興味がないのかまだ警戒しているのか、打ち解けようとはしてくれなかった。

 ミーナは直接的ではないが、部下の事を理解しきれていなかった自分にも責任があると思い、それ以上話をすることができなかった。


「そういえば」

 ゼクスが思い出したかのように声を上げる。

「親父さんのこと。なにも情報得られなかったな」

「……そうね。あいつはなにか知ってそうだったけどいいよ。アイツを仕向けた張本人に問い詰めるから」

 言葉は前向きなのだが、表情はどこか哀愁漂う。

「ロクスティには色々任せてた部分もあるから、帰ったら忙しくなるな―。まとめ役も選出しなきゃだし」

「ギルドマスターってのは大変だな」

「そうよ。ギルドマスターだけじゃなくて、皇帝から、店主まで組織を統括するって事は大変なのよ」

 ミーナはサラとゼクスの後ろ姿を見つめ重ね合わせる。

(守るってことは想像以上に大変なの……って言わなくても分かるか)



「アイリはどこに行ったんだろうな。結局現れなかった……」

「リリィさんは何て言ってたんだっけ?」

「あー、今居ないとしか聞いてなかったわ」

「まあ、大丈夫だろう。リリィ姐さんもアイリさんをそう危険な場所に一人で行かせることもしないだろうし、別件で動いてるなら、そのうち合流することになると思うからな」

 バルガスはしみじみと語る。そうとうリリィとアイリを尊敬していることが伺えた。

 そんな事を話していると、やがて出口が見える。


 出口を抜けると、涼やかな海風が頬を撫で、辛気臭い地下から解放された事を実感する。

 周囲を見渡すと、手入れの行き届った庭園。そこの片隅に出たようだ。

 中央には小さな噴水。

 噴水の影にだれかが立っている。

「だれだ」

 ゼクスは剣に手を伸ばして警戒をする。

 ゆっくりと近づいてくる人影。

 雲に覆われた月が、徐々に姿を表し人影を映し出す。

 銀色に輝く長い髪。揺らめかせて彼女はじっと紅の瞳を真摯に向けた。

「アイリ……」


 そこには槍を手に、武装を整えたアイリが待ち受けていたのだ。


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