第22項 Fallin Star
サラマンダーのうなじにうっすらと紫に光る何か。
さっきまではなかったそれははっきりとゼクスの目に映っていた。
「あれは…………」
目を凝らしてみると、どこかで見覚えのある札のようなものが妖気を放っていた。
「――錯乱の呪符?」
ラルフにも同じものが貼られていた。だがしかし、サラマンダーに貼られていたそれは大きかった。
巨体のせいで取り除こうとしても容易ではないことが伺える。
錯乱の呪符はうなじに貼ることで対象を操ることが出来るのだろう。
一度目はミーナの跳躍からの攻撃。二度目はバルガスの不意打ちで。
二度、呪符近くに攻撃を許してしまったことで、サラマンダーは上空を注意せざるを得なくなってしまったようだ。
(操られているのにうなじを警戒をしている?)
ゼクスのなかで何かが引っかかった。
操られている――誰に? 警戒をしている――誰が?
呪符によって自我を押さえつけられている状態で誰が体のコントロールを行っている? 人間の場合、呪符に仕込んだ魔神が体のコントロールをしている。
だが、低級の魔神で龍族をコントロール下に置くことは不可能だ。
不可解なことが脳裏を巡る。
だが、今はこの状況を打開することが先決――
「うなじだ! 奴のうなじに呪符が貼られてる!! そこを狙えっ」
バルガスに向かって叫ぶ。
「うなじだぁ!? どうしろってんだ。俺は飛べねえぞっ?」
バルガスは巨漢故に跳躍はおろか、足も遅い。だがその分力は随一。
頼りのミーナは先の怪我で動く頃すらままならない。
「俺にいい考えがある」
そんな状況をよそに、ゼクスは自信ありげに呟いた。
バルガスを指差し――上を指す。
その意味はバルガスも分かると豪快に笑った。
「いいじゃねえか。おもしれぇ気に入った!」
ゼクスに向けられたブレスを軽々と避けながらバルガスに向かって全力疾走した。
バルガスはサラマンダーから距離をとり、斧を地面と水平に傾ける。
跳躍したゼクスが斧の上に着地するとバルガスが短く「いくぜ」と短い息と共に吐き――
「「ウオオォォォオォォッ!!」」
ブゥンッと彼の風を切り、ゼクスは上空を舞った。
バルガスの怪力で天井近くまで飛び、ふわりと体が浮遊したような感覚がしたと思うと、重力に囚われて地面へと吸い込まれるように落下し始めた。
(よし…………あれか)
サラマンダーのうなじに光る呪符を今度ははっきりと目視したゼクス。
目下に体を微調整しながら降下して――と、そのとき。
サラマンダーの上体がゆっくりと起き上がる。
「なにっ!?」
バルガスは屹立したサラマンダーを見上げた。
二本足で立ち上がったヤツの体はさらに大きく、ゆうに天井があった高さを超えている。
地下空間が狭く、うまく身動きがとれなかっただけで四本足で過ごしていただけだった。
邪魔だったものが消えた今、サラマンダーはこころなしか晴れ晴れしたように翼を広げた。
落下目標を失ったゼクス。
「しまっ――ッ」
眼前に襲いかかる爪。間一髪のところで巨大盾で防ぐ。
しかし、絶大な威力の一撃は一直線にゼクスを真横に吹っ飛ばした。
「カハッ…………」
思いっきり壁に叩きつけられ、鮮血が飛び散る。
「ゼクスッ!!」
ミーナががれきの影から叫び、心配をする。同時にサラマンダーに向けて攻撃を加えた。
バルガスもゼクスに駆け寄る。
攻撃をもろともせず、更にはブレスを放とうと口に火炎を含み予備動作を始めていた。
ゼクスは咳き込みながら四つん這いになる。
駆け寄りゼクスを心配して屈むが、その表情は笑みを含んでいた。
「ゼクス…………?」
サラマンダーを見上げるゼクス。
釣られてバルガスも視線の先を追う。
先の攻撃でガードした盾が上空に舞っていたのだ。
「盤面ばかり見ていても何も見えない――相手はヤツ……ヤツは次に何をするか観察すること……ってな」
ブレスを解き放つと同時にゼクスとサラマンダーの間に大盾が割って入り、防ぐ。
「――そして、あるものはなんでも使う。これ、何か知ってるよな?」
左手に描かれた魔法陣を見せる。
「拡張の魔法陣…………――ッ!」
「ビンゴ。さっき飛ぶ前ブレスを放たれたとき、瓦礫を格納しておいてな――」
サラマンダーの頭上に巨大な瓦礫が一定浮遊し、脳天に直撃した。
「ヤツのウロコは固くとも、脳天は苦手のようだったな」
気絶をしたように巨躯は横たえる。
「ふぅ……なんとかなったな。あとはコイツを−−」
サラマンダーのうなじに貼られていた呪符に手を掛けるゼクス。
瞬間、バチンッと電流のようなものが走り、手が弾かれる。
「ーーッ!」
呪符の防衛機能が働いたようで呪符に刻まれた紋章が再び紅く浮ぶ。
無理矢理起こされたサラマンダー。龍は天から垂らされた糸に操られているように羽根を広げ、そして胎児のように身体をまるめた。
「ーーッ! 何かヤバいっ二人共身を守れ!」
ゼクスが叫んだ刹那巨体を中心に爆煙が巻き起こる。
「ゴホッ、ゴホッ。大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。嬢ちゃんも大丈夫だ。しかし今のは一体ーー」
だんだんと晴れていく粉塵。その先のあるものにバルガスは目を奪われた。
「どうした? バルガス」
ゼクスもその視線の先に向ける。
ぼんやりと浮かぶ赤い二つの光。
ゆっくりと近づいてくる。
砂塵の中から姿を現したのは、真紅のドレスを身に纏ったーー
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