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第21項 野望と火龍

穏やかに寝息を立てて眠るサラマンダー。その前で不敵に笑みをこぼすロクスティ。

ゼクスとミーナは巨躯を前にかたずを飲んで立ちすくんでいた。

額にはじっとりと汗が流れる。

「あなたたちもコレの存在は驚異のようですね」

二人の表情を見てから、サラマンダーを肩ごしに見つめた。

おもむろにポケットから紅玉を取り出す。

「お前、何をするつもりだ……」

「何って、当たり前じゃないですか――」

ロクスティは紅玉を空にかざす。紅く、紅く、部屋を満たすほどの赤い閃光に包まれた。

呼応したようにサラマンダーは眼を開け、ゆっくりと体を起こす。

サラマンダーの双眸を視線が混じる二人。その瞳は底知れぬ存在感を放ち、背筋に死神の手が迫ったかのように錯覚をする。

――グオオオォォォオォォォッ――

体を引き裂くような咆哮。両耳を塞ぎ両目を閉じて耐えるしかできなかった。

「フハッ……フハハ……フハハハハハッ…………」

ロクスティは悪辣な笑みを浮かべた。

「口先だけで誰かを操ってはいましたが……いやはや、力でねじ伏せるというのは…………爽快なのですね! 爽快! 実に爽快!! 気持ちイイッ!!」

穏やかな表情のロクスティはもうここにはいない。快楽と欲求だけを満たす悪魔がそこにいた。

「さて、サラマンダー。この邪魔な奴らを――」

サラマンダーに指示を飛ばすように。

「殺って――」

――バクリ――

瞬間、ロクスティはサラマンダーの巨大な口に呑み込まれた。

何が起きたのか理解ができない二人。

彼がいた場所は赤い水溜まりができ、鉄の匂いだけがあたりに充満した。

「ロクスティ……」

ミーナは俯き――

「ロクスティ……ッ!! お前はまだ何も話しちゃいないぞッ!!」

――声を荒げ駆け出した。

駆け出すと同時に長銃を出現させ、サラマンダーの顔面めがけて発砲する。

着弾と同時に爆風が起き、硝煙から出したヤツの顔は傷一つついていない。

ミーナは右に方向転換し、持っていた長銃を投げ捨てる。すると彼女を守るように周囲を浮遊して追従を始めた。

今度は機関銃を取り出し、サラマンダーの側部に弾丸の雨を降らせる。弾丸が切れると同じように浮遊させ――と繰り返し怒涛の攻撃を続けた。

大きく息を吸い、火炎を吐き出すサラマンダー。ミーナは持ち前の運動能力で華麗に避ける。照射されて石畳は黒く焦げ、ところどころ溶け始めた。

くらったらひとたまりもない。

だが、動きの鈍いサラマンダーはミーナを捉えることができない。

ゼクスは駆け出していたミーナを呆然と見ていた。

状況は優勢に見えるのだが、ミーナが冷静さを失っているのは目に見えていた。

直線的な攻撃。自身の運動能力に頼り切った回避。全てが彼女の理に反した戦いだと感じていたからだ。

(このままじゃヤバイぞ――)

ゼクスは左回りに走り出す。

ミーナはブレスを避けると同時にサラマンダーの頭上高くに跳躍した。

体をひねりながら掃射を浴びせると、どこか嫌がっているように体を動かした。

同時に彼女を狙っていたブレスが天井に穴を開け、空高く火柱を上げた。

崩れた天井が落石になってミーナを襲う。

「キャッ――」

落石を直撃し、地面に叩きつけられる。

落下の衝撃はなんとか受け流せたが、足を落石に挟んでしまった。

なんとかもがいてみるが固定されて一人では外せそうにない。

頭上に近づく影。

視線を上げるとサラマンダーは大きく口を開けブレスを放った。

死を覚悟し、思わず目を閉じるミーナ。

肌を焦がすような熱。肺を侵す熱気。だが、ミーナの意識は顕在していた。

「ウオオォオァァ――」

目の前には大盾を構えたゼクス。

マントの端はだんだんと焼け焦げ、盾も徐々に赤熱化してゆく。

ジリジリと熱が地面をつたう。

「長くは持たない!! 何とかしてくれ!!」

熱と衝撃に耐えるゼクスが叫ぶ。だんだんと溶け始める盾。

ミーナは浮遊銃を全弾サラマンダーの足元めがけて放つ。

えぐれた地面にバランスを崩し、ブレスは再び瞬く星々を貫いた。

「大丈夫ッ!? 」

ブレスから解放されたゼクスは膝から崩れ落ちた。

「ハアッ、ハアッ……ッハァ……」

熱と気力を奪われ意識が朦朧とする。四つん這いになったゼクスはミーナの心配する顔を目で捉える。

フラフラになりながらも立ち上がりミーナの足を拘束していた瓦礫をどかした。

「ゼクス…………」

起き上がろうとするサラマンダーを視界の端で捉えた。

視線を上げて、首を回すと小さな入口が見える。咄嗟にミーナを担ぎ、その部屋へおぼつかない足取りで駆け込んだ。

ミーナを小部屋の隅に下ろすと、力尽きたようにゼクスは壁に背を預ける。

マントは焦げ、盾は溶け、ブレスの威力を物語っていた。

ストックしてあった回復薬を一気に煽るゼクス。少しずつ呼吸が整い始め、もう一つをミーナに手渡す。

「くっそ、アイリに鍛えられてなかったら今頃こんがりヤツの餌になってただろうぜ」

壁に後頭部をコツンと当てるゼクス。息はほぼ整い、気力も回復してきたようだ。

「ミーナ、大丈夫か?」

「う……うん。でも、足首やっちゃったみたい」

ブーツを脱いで挟んだ足首を診ると赤く晴れ上がっていた。

「一人で突っ走るからだ」

「…………ごめんなさい……父さんのことで……つい」

「………………とりあえずそれ、飲んどけ。傷は治らなくても体力は回復しておいて損はないだろ」

回復薬には体力と気力を少しずつ回復させる効力がある。だが、薬も都合の良い万能薬ではない。傷薬は回復を早めることはできるが、傷を瞬時に治す力はない。

神官かそれに準じる力をもった存在であれば傷を瞬時に治すことができるが、二人はそんな特別な力は持っていない。

ミーナは用意していた傷薬を足首に塗り、足を放る。

「チッ……俺たちを探してやがる」

物陰からサラマンダーの様子を伺うゼクス。崩れた瓦礫を鋭爪で粉々にするやつの姿が見えた。

「ミーナ、装備はどのくらいある?」

「銃に損傷はないよ。銃弾もブラスト、ヒール、ピアスまだまだあるよ。動けないけど固定砲台になれるし、ヒールバレットで援護も――」

「それじゃあ格好の的だろ。ダメだ」

回復薬のおかげで体力は元に戻ったゼクスは焦りを感じていた。

視線は穴の空いた天井に向いている。どうやってあの巨体で地下に入ったのかは分からないが、天井が空いてしまったことで、飛んでディネールに向かってしまうのではないかという懸念がゼクスの焦燥を煽った。

「ゆっくりもしてられないな……」

下唇を噛むゼクス。焦りとは裏腹に夜空に浮かぶ星々は呆れるほど輝きを放っていた。

ヒュッと黒い影が天蓋に出現。

「ウオォォォオォォォッッッ!!」

――――ドォォオォォォン――――

雄叫びと共にサラマンダーの脳天に巨大斧を叩きつける黒い影。

その衝撃にたまらずサラマンダーは怯み、体をくねらせた。

「くっそ、かってーな」

ガシャンと、鈍い音を立てて方に斧を担いだのは――

「バルガス!!」

「よお、こんなところで合うなんて奇遇だな」

偶然かのようにバルガスは気さくに片手を揚げた。

「なんでこんなところに!?」

「あんだけ派手な火柱が見えたらわかるだろ」

「そうじゃなくて、なんでここに来たんだ!?」

「リリィ姉さんに頼まれてな。お前ら二人が出たあとに姉さんが来て、おおよその場所が分かったから合流しに言ってくれって」

「アイリは一緒じゃないのか?」

「アイリ嬢はまだ見つかってないみたいだったぜ。だから俺が先に来たってことだ――おっと、おしゃべりはここまでのようだ。来るぞ」

サラマンダーが起き上がり、頭を振って気付ける。

喉を鳴らし、新手を確認すると

――グオオオォォォオォォォッ――

サラマンダーは再び咆哮を轟かせた。

だが音の反響がなかったせいか耳をふさがずに済んだ。

「さーて、いくぜ」

バルガスはサラマンダーの懐に飛び込む。火炎攻撃をしにくい位置取りで、鬱陶しそうにしている。

だが、バルガスもヤツの硬い鱗を貫けず、歯がゆい思いをしていた。

「ミーナ! 物陰に隠れて支援してくれ!! 気配は俺が消してやる!!」

ゼクスは小部屋に向けて叫ぶと、サラマンダーの右側に走り出した。

注意を引きつけて、ミーナへの攻撃を一手に引き受けるつもりだ。

小部屋と反対へ誘導をするとミーナがゆっくりと物陰へと隠れた。

「よし、これで――」

サラマンダーの動きを注視して動くゼクス。だがそこにはどこか違和感があった。

先の戦いとは違う――動き。

バルガスとゼクスを警戒しつつもまた別の何かに注意を払っているような。そんな動き。

(空中? 地上じゃない。空中を警戒しているのか?)

ゼクスは距離をとり、広範囲に視界を取る。

(ん? あれは?)

サラマンダーの首裏。そこにあったものとは――


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