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第15項 白銀のアイリ 後編

「ふぅ……」

酒場の居住区で汗を流したゼクス。

「あ、いたいた。ちょっといいかしら?」

封筒を持ったリリィが探していたようだ。

「これを道具屋に道具屋に届けてもらいたいのだけれど、大丈夫かしら?」

「特に予定はない。大丈夫」

濡れた髪の毛を拭き取りながら答えた。

「じゃあ頼むわ。急ぎじゃないから今日中に届けてもらえればいいから」

と言い残し、どこかに行ってしまう。


ゼクスは着替えると、道具屋に向かった。

広場では朝市が終わり、撤収作業に勤しんでいた。

心做しか出店数が少なくなっている。

サラマンダーの出現で街を離れる人も出始めていた。

なんとか物価が高騰しても頑張っていた住民達も生活が脅かされるほどの脅威の出現により、離れざるを得なくなっているのも事実だ。

街の様子を伺いつつ、道具屋に向かう。

出迎えたのは娘の方だった。

「どうも」

「あ、いらっしゃいませ。お久しぶりですね。今日はどんなご要件で?」

「今回は買い物に来たわけじゃなくてな。これを渡しに来たんだ」

といって懐から預かった封筒を取り出す。

「リリィさんの使いでしたか。ご苦労様です」

と、いうと中身を見ずにしまってしまう。中身は分かっているようだった。

「ええと、ゼクスさん……でしたか? 最近色々と物騒になりましたね」

「そうだな。こっちの方はなんか問題あったりしたか?」

「いえ、特には…………」 

 ふと、視線を逸らした。無意識だったのだろう。

 その仕草を不審に思ったと彼女は過剰に反応した。

「なんだ?」

「…………少しだけ、生贄の件ですけど。前は反対派が大多数を占めてたと思うんですけど、最近、賛成派が増えてきたみたいで……」

「そうなのか?」

「……はい」

 憂いを帯びた顔で返事をする。

「まあ、大丈夫だ。何か困ったこととかあったら言ってきてくれ。できることならしてやるさ」

「分かりました、助かります」

 ぎこちない作り笑いを浮かべる。


用事を済ませて店を出る。

この前も道具屋に来たあと、鍛冶屋に向かったこともを思い出す。

(ついでだし、調子でも伝えに行くか)


カランカラン――

「ん?」

 音を立てて開いたドアの先に、見覚えのある巨体の先客がカウンターを塞いでいた。

「い、いらっしゃい」

 影から顔をおずおずと出しながら、相変わらずの消え入るような声で迎えるシェリー。

 それに同じように振り返り反応はしたのは、やはり見覚えのあった。

「おお、いつかのにいちゃんか。久しぶりだな」

「えっと、バルガス――だったか? なんでこんなところに」

歩み寄ると、カウンターに置いてあった両手斧が目に付く。

「傭兵がこんなところに来るときは武器の調達くらいだろ」

褐色のぶっとい腕を組みながらそう答える。

バルガスは重厚な両手斧を軽々と持ち上げると、背中に指す。

「ところで少し、話がしたいんだが、いいか?」

「ん? 構わないが、バルバのオヤジに剣の調子伝えてからでいいか?」

「おう、なら外で少し待ってるぞ」

 とだけいうとその巨体を揺らしながら店の外に行ってしまう。

「あの、すみません。お師匠は外に出てしまっていていないんです」

キャシーは帽子のつばを影にしながら呟く。

「じゃあいいや、そんな大した用事でもなかったし。剣の調子はすこぶる好調だ、とだけ伝えておいてくれ」

踵を返そうとするゼクス。

「あのっ」

頑張って声を振り絞るキャシー。

「お手入れ、ちゃんとしてくださいね。剣は気まぐれなので面倒かけてあげないとすぐひねくれちゃうので」

と、言って小さな砥石を渡してくる。

「これ、サービスです。刃先をちょっと研いであげるだけでも違うので……」

「おう。ありがとな」

ゼクスは砥石を受け取る。

キャシーは嬉しそうに笑うと、恥ずかしくなりほんのり赤くなった顔を帽子で隠した。


店を出ると入口付近で壁によりかかってぼぅっと空を眺めているバルガスと合流する。

「早かったな」

「まぁな。それで話ってのはなんだ?」

 周囲を見回すバルガス。人目を気にしている。

「ここで話すことじゃない。ついてきてくれ」

「構わないが、どこに行こうってんだ」

「ここよりは安心できるところだ」

まるでここが安心できないかのような口ぶりでバルガスは中央広場とは反対の方に向かった。


 

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