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第0項 From to Harber

「ハアッ、ハアッ」

 息を切らしながら森の中を走る青年--ゼクス・シリアートル。

 既に体力は底をつき始め足元もおぼつかない。

「くそっ、最悪だ! なんでよりにもよって--」

 滑り込むように足を止め、砂埃が舞い上がる。

 荒い呼吸、唾を喉でならし、目の前に待ち伏せている()()()()と視線を交わす。

「よりにもよって俺がこんなゴブリンごときに追いかけられなくちゃいけないんだっ!」


Prologue

――From to harber――


帝都から出て数年。放浪者(ほうろうしゃ)となっていたゼクスは森の中でさまよっていた。

腰にぶら下げていた皮袋の水は尽き果てて所持していた食料も、もうリンゴ一つだけとなってしまった。

少なくとも水は確保しようと森をさまよっていると水の音がかすかに聞こえた。

思わずゼクスは聞こえた方向に走る。


「水っ!!」

昼下がりの木漏れ日に照らされて、キラキラと輝く川にゼクスは駆け寄る。

森の中を何日もさまよい、疲労と焦りで満たされた体に柔らかな水が体を潤した。


手で水を(すく)って顔を洗い、「ふぅ……」と一つ息をつく――対岸の影と目が合う。

影は何体かいて用を足したり水浴びをしていたり。

一瞬、何がいるのか理解することを脳が拒んだ。



緑色の肌。ボロボロの布切れを要所だけ隠すように羽織っている。

――ゴブリン、低級の魔物。力は子供ほどで一体ごときでは大人を相手にすると雑魚と分類される。

しかし、一体何人の新米冒険者が彼らの手によって命を落としているのだろう。

一体の力はそれほどでもないが奴らは群れで行動する。力がない代わりに狡猾な罠を仕掛け、煽り立てる。

はっきり言ってゴブリンは脅威だ。

そんなやつらと数メートルもない川幅をまたいで目があってしまった。

それも、見てはいけない――いや、見たくもない現実を目の当たりにして――


「おっまっ――!! ふざっ――!!」

戦う意思は全くなく、それよりもこの場からすぐに去って人生の汚点とも言える記憶を消し去りたい。

体がねじれるかと思うほどに身体を#捻__ひね__#りゼクスは全速力で駆け出した。




木陰に身を隠し、ゼクスが使える数少ない魔法――アウトフォース――で匂いと気配を消す。

木を挟んで数メートルの距離でゼクスを探すゴブリンたち。

(はやくどっかいってくれ……)

心の中で呟くと何やら他の獲物を見つけたように騒ぎ立ててどこかへと去っていく。


思わず木の幹に背中を預けてへたり込んでしまう。

穏やかな昼下がり、梢から降り注ぐ木漏れ日を見つめる。

「俺、なにしてんだろうな……」

思わずそう呟いてしまう。


「キャアッ――」

再びゼクスの耳に駆け込んでくる声。今度は幼い少女のような。

そう遠くはない距離だ。

反射的にゼクスは声のした方に走り出していた。


ゴブリンに追われる10歳くらいの少女。手にはカゴを持って涙目になりながらゴブリンの群れから必死に逃げ惑っていた。

(くそ、俺より弱い獲物を見つけたからそっちを狙ったってことかよ)

ゼクスは舌打ちをする。剣術を扱えるが群れのゴブリンを一人で相手したことはなく、少女を助けられるかわからない。

しかし、ゼクスという青年は襲われている人――ましてや少女となると放っては置けない性格だった。

できることといえば奇襲と威嚇。目的は救出と撤退。

ゼクスは迫り来るタイムリミットの中必死に思考を巡らせる。



木の根に躓き転ぶ少女。

ゴブリンたちが棍棒を振り下ろす。

迫り来る恐怖から思わず目を瞑る……が、痛みは襲ってこない。

代わりに目の前にゼクスが立っていた。

フードを深く被り表情はよく見えない。

彼の足元には踏みつけられているゴブリンがじたばたと暴れている。

おもむろにゼクスは懐から青緑の剣を取り出し足元の敵を沈黙させる。

彼が左手を前にかざす。同時に青色の粒子が幻影のような剣が5本生成される。


「俺は慈悲深い人間だ。今なら見逃してやる。死にたいなら構わないが……」


幻影をおもむろに掴むと最前列にいたゴブリンに投げつける。

一瞬、ひるんだのだが……退こうとはしない。

「チッ、参ったな……」

ゼクスはボソリと呟く。

「嬢ちゃん、ちょっと目をつぶってな」

フードの下から少女と視線を交わす。少女は言われた通りにぎゅっと目を瞑り、カゴを抱きしめた。

彼はそれを確認すると力なく倒れている足元の亡骸から剣を抜く。

そして再び亡骸に剣を振り下ろすと、血の匂いが充満する。


視線をゴブリンの群れに戻し、ニヤリと笑う。

気配の消えた彼の姿がとてつもない脅威に錯覚したゴブリンたちは後ずさりをして散り散りに撤退していく。


フードを取り、ため息をつくゼクス。

目を瞑っている少女に声をかけようとするが、足元を見てためらうと彼女を抱きかかえて移動をする。


「もう大丈夫だ。目を開けてもいいぞ」

少女と目線を合わせるようにしゃがんでいるゼクスは優しく声をかける。

「あ、ありがとう。お兄ちゃん、強いんだね」 

「ん? ま、まあな……」

指先で頬をポリポリ掻く。強いとか、褒められることに慣れていなく照れくさかった。

「それで、どうしてあそこに? そのカゴに入ってるのは薬草か?」

少女が大事そうに抱えているカゴの中には薬草らしきものがいくつか入っていた。

「うん。お母さんの具合が悪くて……でもお店だと高くて買えないの。だから私が森にとりにきたんだー」

「そうか、えらいな。でも一人で森に入ったら危ないだろう?」

「ごめんなさい」

 しょぼんと意気消沈する少女は泣き出しそうになってしまった。

 どうしたらいいのか分からなくなったゼクスに一つ思いつく。

「そうだ。俺もこれ沢山持っててな。いるか?」

 とマントの下から取り出す真似をして薬草を差し出した。

「いいの?」

「よくはない。俺も()()()傭兵だからな。タダじゃやれん」

 少女のカゴに引っかかってるお花の冠を指差して。

「それと交換だ。いいな?」

 少女は自分でつくったお花の冠を取って

「こんなのでいいの?」

「俺はそれがいいんだ」

「うん! ありがとう」

 満面の笑みを浮かべる少女にゼクスはやさしく頭を撫でてあげた。


「それでどこから来たんだ?」

「んーとね、あっちの方にあるディネールっていう街だよ」

 少女が明後日の方を指をさす。

(ディネールといえば確か子爵領だったような……)

 ゼクスは少女をこのままにしておけなく送っていくつもりだったが、ためらってしまう。

 ディネールには騎士団の駐屯地がある。騎士団と鉢合わせするのが嫌だったのだ。

 少女は首を傾げてゼクスを見つめる。

 そんな様子を見て後頭部をかく。

(やっぱ放っておけねぇよ!!)

 諦めて、ディネールまで送っていくことに決めた。

「よし、じゃあディネールまで送ってやるよ。俺もちょうど用があったしな」

「うんっ! ありがとう」


 ゼクスは満足げに笑みを浮かべて港町ディネールへと向かった。





 港町ディネール――外壁――


白く輝く月を見つめる一人の少女。

透き通るような白銀の髪を潮風に揺らしている。

「動き出しそうね」

小さく鈴の音のような声を呟かせると

城門から飛び降りて闇に消えた。


……To be Continued

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