後編
何十何百何千回、懸命にマッチを売り、生き続けようと願うも毎回叶わず息絶えるという結末を繰り返し続けていた『マッチ売りの少女』。しかし、全てを諦めかけていたその時、灯したマッチの中に彼女は本当に必要としていた存在、この世界で唯一無比の宝物――『マッチ売りの少女』を見つける事が出来ました。そして彼女の心の中で、欲望が炎のように燃え始めたのです。
「ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」…
1人が2人、2人が4人、4人が8人、8人が16人、32人、64人、128人、256人――少女は次々に数を増やし続けていきました。マッチを灯せばその度に新しい『マッチ売りの少女』が現れ、優しく朗らかな自分の輪に加わる――その繰り返しは、今まで経験してきた辛い『繰り返し』よりも遥かに楽しく心地よく、そして辛い目に遭い続けていた自身の心に快楽を与えてくれるものでした。私が欲しい、1人だけじゃ物足りない、もっともっと最高の宝があったらいいのに――その心に応えるかのように、マッチの火は次々にその数を増しながら少女を照らしていきました。
そして、気づいた時には少女の周りを取り囲む道は、前後左右どこを見ても全く同じ姿形、同じ声、そして同じ微笑みを見せる空間へと変わっていたのです。
「あ、私♪」貴方も私なの?」そうよ、私♪」はじめまして、私♪」こちらこそ、私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」…
どんどん数を増やし続けていく少女たちは、新たな自分と出会う度に優しく声をかけ、ぎゅっと抱きしめて存在を体全体で確かめ合いました。自分たちの周りから不親切や無視、卑下などの嫌な感情は完全に消え去ったと言う事を互いに実感しあうかのように。そして同時に彼女たちは、近くに自分の顔が来たり、自分の体の感触を確かめ合う度に、頬が火照るような心地を味わい始めるようになりました。何度も何度もマッチの光を浴びるにつれ、少女たちは次第に自分自身や周りにいる別の自分から悲しさや辛さが消え、代わりに今までずっと気が付くことの無かった自分自身の持つ『可愛さ』や『美しさ』が体全体から存分に溢れ出すような感覚を覚え始めたのです。
それもそのはず、新たな『マッチ売りの少女』を求め続けるたびに、少女たちの肌色は良くなり、やせ細った体も整い、あの継ぎ接ぎだらけ、穴だらけだった服も新品同様のものになり、彼女本来の姿――寒さに凍える街を温かく照らすような、マッチの火のように暖かで仄かで、そして可憐な少女の風貌を取り戻していったのですから。
「やっぱり私って……ね♪」本当ね、私♪」綺麗よね……♪」やっぱり私、大好き♪」私もよ、私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」…
そして、街のあちこちで幻想的なやり取りを交わす彼女たちの傍で、別の少女たちの声が響き始めました。
「「「「「「「そこの私、マッチいりませんか?」」」」」」」
今まで何度も何度も、まるで呪いの言葉のように彼女に付きまとっていたその売り文句も、自分自身という素晴らしい宝に包まれようとしていた今の状況では、むしろ彼女たちにとって嬉しく楽しい言葉へと早変わりしていました。願いを込めてマッチに火を灯せば灯すほど、どんどん新しい『マッチ売りの少女』が姿を現し、この通りやこの町、いや彼女たちの周りを囲むこの広い世界を次々に埋め尽くしていくのですから。
「マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」マッチいりませんかー?」…
そして、道という道の左右に数限りなく並び続け、笑顔でマッチを渡し続ける彼女たちの前には、常に彼女と同じ心――誰からもマッチを買われなかった事の辛さ、苦しさの記憶を持つ『マッチ売りの少女』の列が並び続けていました。
「2個下さい♪」10個下さい♪」いっそあるだけくださーい♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」私も♪」…
「ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」ありがとうございましたー♪」…
そして笑顔で別の自分からマッチを貰っては彼女たちは次々に火をつけ、自身の願い――もっともっと、数限りなく新しい自分が欲しい、と言う願いを叶え続けていったのです。もう彼女たちにはどの自分が本物か、どの自分が幻想か、その区別すらできなくなっていました。ここにいる全ての自分自身が、同じ肌触り、同じ暖かさ、同じ優しさ、そして同じ可愛さと美しさを持つ『マッチ売りの少女』、本物か偽物か分ける必要なんてない、全員が揃ってその思いを抱き続けていたからでしょう。
この街から自分以外の人間が誰一人姿を消している事に対する違和感は、とっくの昔に消え失せていました。不思議なマッチの火を使って世界で最も美しい自分がいっぱいいるという幸福だけが、彼女の心を包み込んでいたのかもしれません。
「私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」…
気づけば何千何万、どれだけの数に増えたでしょうか。既に元の街の面積を遥かに凌ぐほどにまで広がり、あらゆる場所でマッチを売っては自分を増やし続けていた『マッチ売りの少女』でしたが、次第に彼女たちはある思いを胸に抱き始めました。新しい自分自身を次々に生み出し続けると言う行為や、笑顔で現れる新しい自分と温かさを共有しあう心地は、どれも彼女たちにとって非常に興奮する内容、心をどんどん燃え上がらせる素晴らしい時間でした。ですが、彼女たちはふと、それらの状況にすら完全に満足しきれなくなっている自分の心に気づいたのです。
「「「「「「「「「ねえ、『私』?」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ふふ、『私』も同じこと考えた?」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「当然よ、私も『私』だもん……ね♪」」」」」」」」」」」」」」」」
世界でたった1つの美しく煌びやか、可愛らしい『私』と言う存在が、マッチの火なんて関係なく現れれば良いのに。
いや、いっそ『私』が数限りなく現れて、この世界の全てを埋めつくしちゃえば良いのに。
燃え盛る炎がなかなか消えないように、一度心に浮かんだ彼女の欲望は消えることなく、どんどん膨れ上がっていきました。でも、彼女たちは一瞬自分の周りに広がる光景を見て戸惑いの表情を見せました。家や商店、大きな建物、相変わらず空を覆い続ける雲、まだ降り続いていた雪――もし自分たちの持つ究極の願いが叶ったとき、それらはどうなってしまうのか。そして自分自身の体、心は、無事でいられるのだろうか――そんな心配が些細なものであると言う事を、『マッチ売りの少女』は別の自分の優しくも頼もしい笑顔を見て気づきました。こんなに自分自身がいる素晴らしい世界が無限かつ永遠に膨れ上がる未来を恐れることは何もないじゃないか、と。
手にマッチを握った彼女たちの思いは、1つでした。
「「「「「「「「「「「「「「「「それじゃ、『私』……?」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いいわ、『私』♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
そして、一斉にマッチに火をともした瞬間、そこから今までに見たこともないほど眩い光が放たれました。一瞬目を瞑ってしまうほどの途轍もない閃光が、四方八方に広がった全ての『マッチ売りの少女』を包み込んだのです。
やがて、十分目が開くほどにまで光が収まった時、彼女たちは手に持っていたマッチはおろか、提げていたはずのマッチまで籠ごと消え失せている事に気が付きました。マッチが消えるように願った覚えはない、何が起きているのか――彼女たちは揃って困惑の色に包まれ、互いの顔を不安そうに見つめ始めました。マッチが無くなれば願いを叶える事もできなければ幻想も生み出せない、下手すれば新たな自分自身を作り出すことすら不可能になってしまうかもしれません。一体これからどうすれば良いのか、絶望すら感じかけていた、その時でした。
「ふふ、心配ないわ、『私』♪」」」」」」」」」」」」」
「「「「「……え?」」」」」」
耳に入った優しい声の方向を見た彼女たちの目に飛び込んできたのは、あの『光』が決して彼女を苦しませるようなものではない事を示すような光景でした。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
あちこちの建物にある窓という窓が一斉に開き、そこから全く同じ姿形、同じ声をした少女たちが一斉に笑顔で手を振り始めていたのです。
その様子に笑顔を取り戻し始めた彼女たちでしたが、それは単なる『少女』の一部にしか過ぎませんでした。次第に道が自分で混み合い始めている事に気づいた彼女は、建物の扉と言う扉が開け放たれ、そこから新たな『少女』が笑顔で外に飛び出し続けている事に気づきました。しかも、家の玄関の扉や商店の出入り口のみならず、倉庫も納屋も裏口も関係なく、ありとあらゆる扉から、全く同じ姿形をした少女の大群が、これまた全く同じ笑顔と同じ明るい声で、数限りなく現れていたのです。
「「「「「おーい私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」私♪」」…
「「「「「「「「「「「「「あぁんっ……ぎゅう詰めになっちゃう……♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「もう動けないわね、『私』……♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」そうね♪」…
最早一切身動きが取れない状態にまで溢れてもなお、彼女の大群は留まることを知りませんでした。次々に増えていく自分の体や声を感じ取る度に、この世界で一番美しく可愛らしい存在がもっともっと増えて欲しい、と彼女自身が願い続けていたからです。するとそれを受け取ったかのように、少女の数は更に増加の一途をたどりました。道で無数の自分の感触に悶える彼女たちの視界には、あらゆる建物の屋根と言う屋根を覆い始め、煙突の中から煙のように湧き続ける可愛らしい少女の姿が見え始めていました。最早彼女の願いを叶える過程で『マッチ』と言う媒体は必要なくなっていたのです。
「ふふふ、私……♪」もっともっと……♪」私が欲しいわ♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」…
そして、彼女たちは次第に、自分の可愛らしい笑い声が遥か高く『空』から聞こえてくる事に気づきました。もしかして、と思い上を見上げた彼女たちは、自分の抱いていた願いが最高潮に達したという事実を目の当たりにし、歓喜の笑い声をあげ始めました。
当然でしょう、ずっと空を覆っていたどす黒い雲やずっと彼女を寒さで凍えさせていた雪の代わりに、数えるのも億劫になるほどの彼女が空を覆い、そこから尽きる事なく地上に向けてふわりと降り続く、最高の世界が完成したのですから。
「おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」…
そこにいるのは、『マッチ売りの少女』たちではありませんでした。世界で一番可愛らしく美しく、そして誰よりも優しく親切な少女たちのでした。前後左右上下、常に自分に囲まれ押され詰め寄られ、自分の美しい声に魅了され、自分の心や体の暖かさを確かめ合う、素晴らしい『海』でした。彼女たちは、その中で自身の心――すべての自分を愛でる気持ちを常に発散し、喜びを全身から溢れさせていました。そしてその思いに応えるかのように、彼女は無限に降り注ぎ、湧きあがり、数を増やし続けていきました。
無限の少女たちの恋する心は、いつまでもいつまでも、無数のマッチのように燃え続けるのでした。
「私、大好きよ!」私も大好きよ!」いつまでも大好きよ!」私も!」私も!」私も!」私も!」私も!」私も!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」…
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太陽が昇り、眩しい朝日が照らしたとき、そこに広がっていたのは黒く焼け焦げた跡だけが残る凄惨な光景でした。
夜通し燃え続けた大火災が『町の全て』を焼き尽くし、そこに暮らす全ての命――人間も動物も植物も関係なく赤い火に変え、夜明けと共に消えていったからです。
それでも生きている人がいると信じ、懸命に捜索を続けていた隣町の人々は、完全に焼け落ちた町で一番の大通りの中心部で、ある奇妙な物体を見つけました。真っ先に燃え尽きてしまいそうなのに、何故かその物体だけは焦げ跡も一切なく、まるで何かに守られていたかのように無造作に置かれていたのです。
一体何があったのだろうか、奇跡でも起きたのか、と集まってきた人たちは一様に首を傾げました。
たった2本のマッチが入っているだけの、掌に収まるほどの小さな箱を見つめながら……。