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神様が異世界転生に失敗した結果

作者: 双葉愛





「残念ながら君は死んだね!」




まるでクラッカーを盛大に鳴らす勢いで言われた言葉に。こんな状況にも関わらず見惚れてしまう程のやたら美上丈な男に。この男と私以外何もない空間に。先ほど私を襲った筈の衝撃が体のどこにも感じないことに。




五感…いや六感さえもフル活用して“なぜ”と唱えたくなる状況にくらりと頭が揺れた。




えっと。落ち着こう。落ち着くんだ私。この男は私が死んだと言った。そう確かに私はさっき息絶えた記憶がある。




今日は大学受験の二次試験当日で、三年越しにセンター試験でやっと私が目標にする大学のボーダーラインを超えたので「今年は行ける!」と三浪の間ため込んだストレスとプレッシャーと努力の時間を背負って雪が積もる中外に出たのだ。




そして滑って頭を打った。受験に滑るならまだしも、本当に滑って死ぬだなんて縁起の悪いどころの話ではない。そんなギャグ漫画よろしく人生一大事の日にオオコケした私は後頭部から見事に出血し、病院に運ばれたも手遅れだった。




運が悪い、と言えばいいのだろうか。馬鹿だったと言えばいいのだろうか。




けれどあっけなく死んだ私は生きている。




打ったはずの場所を手で触っても痛くないし、両手を握るとちゃんと温かい。





「……どういうこと」




ただ茫然と私は呟いた。ニコニコと綺麗な笑みを浮かべている男は口元に弧を描き、混乱している私に口を開いた。





「君は死んだよ。でも選ばれた人間だ!危うい精神状態で三年も耐えた覚悟、その頭脳、そしてまさにタイミングのよさ!世界中で君が死んだ時刻と同じ時刻に死んだ人間達の中で君が一番優れていたから、君を選んだ。いやめでたいね!」




めでたくないわよ!!と叫んだ私は悪くない。




何それ、意味わかんない、何それ。あれだけ参考書を解いたのに、あれだけ死にもの狂いで勉強したのにこの男の言葉は何一つ理解できなかった。




最初に「神です」と名乗った男のことだ。これは夢なんじゃないか。それとも何かのドッキリ?




様々なことを考えるも、そんな考えはただの現実逃避に過ぎず無駄だよとこの男に言われている気がして唇を噛み締める。






「……あれ?嬉しくないの?ゼロの確率で選ばれた君は第二の人生を掴むチャンスを貰ったんだ。異世界で貴方の頭脳を使えば幸せになれること間違いなしだよ」




先ほどまで浮かべていたにこやかな男の笑みは、今は軽薄だと思って仕方なかった。男の明るい声が心を刺し、軽薄さが私に現実を突きつける。




私は死んだ。そう死んだ。死んだのだ。あれだけ悩んで悩んで頑張った数年が実ることなく死んだのだ。




叶えたい夢を叶えることはもう出来ないのだ。




目の奥が熱くなったが、涙で視界が滲むことはなかった。こんなあり得ないことを体験して途方に暮れている私は泣きやしなかった。




様々なことを考えて混乱してヒートアップした頭は、こんな時でも冷静に考える思考を残してしまう。




「異世界って何?」


「その名のとおり。地球とは別の世界だね。魔法もあるよ」


「……魔法なんていらないわ。私は生き返れないの?地球へはもう生まれることができないの?」


「未練があるんだね。あくまで君は異世界に選ばれただけ。地球に貴方の居場所はもうないよ」


「……っ。そもそも何であんたがそんなこと言うの!?何で知ってるの?神って本気で言ってんの?」



「僕がこの世界の創設者だよ。それを創られた君たちが僕を神と崇めているだけだ。僕が与えた言葉だが。僕が全てを決めて、僕の気まぐれで世界は動く。……キミに理解しろと言うのは難しいかもしれないね。何故地球が人類にとって住みやすい環境であるのか考えたことはあるかい?太陽との距離、空気中の物質濃度、母なる海の存在、人間の体内環境の調節、脳の仕組みやその他もろもろ。君が“生きていた”確率は誰かのくしゃみ一つで変わるものだ。そんな中で様々な確率を乗り越えて存在していたことに疑問を抱いたことはある筈だ。全て僕が決めたこと。そしてそれを告げず、神を信じない存在が懸命に解明に足掻いていた姿を僕はずっと傍観してきた。それに飽きたら君みたいな存在を作って飽きた世界に放り込んでやるのさ。すると僕の可愛い子たちは理では表すことのできない君の存在を解明しようとまた僕を楽しませてくれるだろう」





ツーっと、背中に冷たい汗が流れた。ただ私を見下すその瞳は無機質だ。




あぁ神様っていたんだ、と私はそう思うしか出来なかった。



さっきの威勢もどこへやら、驚愕の色を見せた私を神は面白そうに笑う。




「僕は飽きてはダメなんだ。生と死を作ってしまったばかりに、僕は生きることさえ出来ない存在だ。永遠に死ぬことがない僕は生きてさえいない。死ぬから生きる。ドーナツの穴のように、ドーナツがなくなれば穴もなくなるだろう?それと同じことさ。死に囲まれているからこそ生がある。切って離せば君たちが知る言葉では語れない無になってしまうからね。無だって有があってこそだけど…まぁいいか。とにかくだから僕は死んだ人間を使う。飽きたと感じた世界に、飽きたと感じた瞬間死んだ人間をその世界に送り込む。いくら僕が創設者だと言っても、全ては僕の気まぐれ次第だと言っても僕が世界を崩せば全て壊れてしまうからね。自爆ってやつかな。死んだ人間に生を創らせるんだ。だから君の協力が必要だ。…と言っても君はただ異世界に行けばいい。そしてその世界の理を乱して僕を楽しませてくれればいい。科学でも魔法でも、まだ無から人は産まれないからね。そして異世界の存在も認識はあっても照明は出来ない。在るだけで君は絶大な影響を及ぼす存在になれる」






「_____だから君に選択権はないよ。どうか僕を楽しませて」





……勝手な神だ、と思った。



けれど哀しい存在だと思った。




この神が言うことは私が理解できるレベルを当に超えている。




だから私は「健闘を祈るよ」と神がにっこり笑った途端、まばゆい光に包まれ________





* * *





「……え?」


「……あれ?」





相変わらず目の前に神がいた。



長い睫をふさふさとさせながらパチクリと瞬きをした神は首を傾げる。



私は何が起こったか理解できず、ぱちりと神がもう一度指を鳴らした途端また白い柔らかな光が私を包むものの、光が消えても目の前に映る光景は何も変わっていなかった。



いや神が傾げている首の角度が深くなってはいる。



その後度々指を鳴らして光だけを生んだ神は。







「失敗しちゃった」






と、最初に見せた笑みでにこやかに笑ったのであった、








* * *




そうそんな神様____もといルクスの失敗のせいで私が異世界に飛ぶことは出来なかった。



暫くは様子を見たり、他の方法を使ったりしたのだが効果はゼロ。




「い、異世界!?」




そして現在は何とルクスの傍でかつての私のような存在を異世界に送る手伝いをしている。



いやもう本当人生何があるのかわからないとはこう言ったことだ。



私の時もそうだったが圧倒的にルクスは“配慮”と言うモノを知らない。死んだ人間を満面の笑みで迎え撃つ神である。私みたいに理解できないまま難しい屁理屈をこねられて勝手に異世界に飛ばされる人間ばかりだろうと思わずルクスを冷たく睨んでしまった。




あれから保留扱いをされてしまった私は、他の選ばれた人間ならルクスは異世界に無事に飛ばせると言うことが判明してしまいただの白い空間でルクスと共に過ごすことになってしまった。




どうして私が異世界へ行けなかったのは未だ分からない。今までこんな失敗なかったと言う。そしてこんな失敗は存在するはずがないと言う。




それでも存在してるんだから仕方がない。




ルクスは完全にどこにも居場所がなくなった私を“暇つぶしに”と保護し、選ばれた人間への説明役として今は重鎮されている。




ちなみにあれだけ真っ白の空間も改造させて今では快適な空間となっている。家はもちろん何でもルクスは創ってくれた。




最初に会った日にルクスが神の威厳を晒した過去(くろれきし)は今ではいい語り草だ。神かぁ、と思うけれどルクスを怖いとは思わない。





懐かしいことを思い出して穏やかな気持ちで木につるされたブランコに乗りながら、ルクスが納得してくれた女の子を異世界へ送る様子を見ていた。




私もこの空間にいる限り寿命や生という概念は存在しないらしい。ルクスみたいな創りだす力もないけれど、生前深く願った夢はかなわなかったけれど、もう人ではなくなったけれどとても楽しく今を過ごしている。



ルクスに異世界の様子を見せて貰い様々なことを学んでいる。




魔法はもちろん科学が異様に発達した世界とか、四次元やタイムマシンがある世界とか、逆に地球よりも何も発展していない世界とか、戦争がない世界とか、戦争ばかりの世界とか、数えきれないほどの世界をルクスは創っている。




しかし不老不死の世界だけはどこにもなかった。




まだ私はルクスが考えていることを何も理解できていない。これからも理解できないかもしれない。けれどルクスが生きた永久を齧ることでいつかは理解できるものかもしれない。




ルクスはそんな私を「神を侮ったらダメだよ」と笑う。「だから人間は楽しいんだ」と楽し気に笑う。




……まぁルクスが楽し気で何より、と私も笑った。





神様が起こした失敗は、私にとって大成功であったようだ。




* * *




それからどれ程の時が流れたのであろうか。



かつて白だけが続く空間に神は己とかつて傍にいた少女の分身と、その二人に似た子が限りある時の中で過ごす世界を作ったそうな。



少女が生きていた間、きっと神も生きていたのだ。少女は身をもって神にそれを伝えそれ以来は、あらゆる世界を揺るがした転生者は現れなくなったと聞く。




人間が神に影響を与えることもあるのやも知れない。








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