一方
「はーいい湯だったなあ。」
「そうですね、こういうのは街では味わえませんから。」
私達は温泉から上がり様々な露店が並ぶ通りを歩きます。
お祭りのようなくじ引き露店、温泉に合うアイスの露店、逆にガッツリと串焼きの肉を売る露店等々様々です。
「あ、リレイズさんトラスさん。こっちですよ!」
ふと横合いから聞き覚えのある声がしました。
そちらを見れば足湯に浸かりながらアイスを食べるリレイズとそれに並んで串焼き肉を黙々と食べるフードを被った二人。
「よう、楽しんでるか?」
「はい、ミステさんともテイクさんとも仲良くなりました。」
どうやらミステとテイクがこのフードの子の名前らしい。
私達もそのまま足湯を堪能する。
……………………………こうしてじっとしていると主と魂を同化させた禁忌のお陰で真実に気づこうとする自分とそれを阻止する自分がいます。荷物を置いてすぐに出たのも主とナルメル様を見たくないからです。
「おいそこの姉ちゃんとお嬢ちゃん。ちょっとお話しようぜ。」
ふと男の人の声で意識が引き戻されます。ナンパというものでしょうか?こういう場所ではこういう輩もいるのだと初めて知りました。相手は5人ほどの人ですが
「悪いな、あたしらこれでも男持ちなんだよ。」
こういう時に強気な友人は頼もしいです。
「いやいや、君たちみたいな子に会ったらそれでも簡単には引き下がれないよ。ほら、俺達こう見えて砦の正騎士なんだ。腕もたつしそこそこの金だってあるんだぜ?乗り換えねえか?」
だけどこの男たちも何故か食い下がります。しかも正騎士証を見せびらかしながら、これは少しまずいかも知れません。
「ああもううっぜえなあ!ちょっと裏まで面貸せ」
10分ほどでしょうか、とうとう我慢の限界に達したようです。
「いえいえ、正騎士さん相手に問題をおこしちゃ怒られます、仕方ないから適当に相手してあげましょう」
私より先にトラスを抑えたのはリレイズでした。確かにその通りですしトラスを止めてくれるのはありがたいです。それを彼らにも聞こえる声で言わなければ
「正騎士も舐められたもんだなあ、まあちょっと来な。そこに正騎士の為に作られた宿舎があるんだ。特別にご招待してやるぜ」
ニヤリとリーダー格の男が私達を連れていきます。
ああ、どうしましょうか。
「まあ冷たいお茶だ、飲んでくれ」
不自然なほどニコニコした男の出したお茶を飲んでみると案の定薬が盛られています。これほどまでに直球で卑劣な輩が正騎士だとは…
「ご馳走さまです、よく冷えて美味しかったです」
魂がない空の器は魂に干渉することがないので身体は自由に動きます。ばれたら教会魔族双方の敵になること以外は以外と便利です。
リレイズさんも平然としておりますね、こちらはさすがです。
ミステさんテイクさんも持ち前の抵抗力が強いのか特に問題なく飲んでいます。
となると
「トラスはお茶よりもこっちでしょう?」
私達が平然としながらトラスだけが痺れるのはさすがに不自然です、ここはお酒の誘惑で乗りきりましょう。
「お、なんだよ。酒に弱えくせにこんなの隠してやがったのか。んじゃこのお茶やるよ。」
「はいはい、3杯までですからね」
「でも正騎士の宿舎って言う割には宿屋と変わりませんねえ」
「まあ、エリートの休息施設だからな。士気に関わるし国もここいらは金かけてくれるんだよ。」
リレイズはこんなときでも素直です。ですが、そろそろ戻らないと。
「おい、いつまで紳士してんだよ、もう薬効いてるだろ?ヤッちまおうぜ。」
こういう風に痺れを切らしますから……まあ、ここまで状況ができればもう大丈夫でしょう。
警戒されてからでは時間がかかるので動けないものとなめているうちに立ち上がり意表を突いた隙に奇跡を祈り私達の敵に裁きの光刃がとばされます。
「いてえ」「おい、どうなってんだ!思いっきり動いてるじゃねえか」「おい、あんまり騒ぐな!」
口々に光刃に貫かれた男達は悲鳴をあげます。するとドタドタと他の部屋から人がやってきました。思惑通りです
「これは一体どういうことだ!!」
怒声が宿舎を震わせついでにリレイズを怯えさせました。この人が責任者でしょうか?都合が更にいいです。
「私はレイヤール家のビトル=レイヤールです。この者らは正騎士の立場を悪用し私達を手込めにせんとした者です。厳格な罰を下しなさい」
私は家の証を見せながら高らかに告げる。地方貴族と言えど貴族には変わりません。
「おお、これはとんど失礼を。申し訳ありません申し訳ありません。こいつらにはそれはもうキツい罰を与え二度とこのようなことがないようにいたします。どうかお許し下さい」
「よろしいでしょう、皆さん帰りますよ」
リレイズ達を連れてこれ以上の厄介がないように真っ直ぐに宿へ帰ります。
ああ、大切な戦いを前にどうしてこのようなことが起きたのでしょうか。あの場で大きな騒ぎにはなりませんでしたが何事もなかったかのように済むことを祈るばかりです。