小さな仲間と大きな目標
「お話しした通りです。あなたとリレイズさんは冒険者の昇格は認められませんでした」
いつもと変わらない受付さんが揺るぎない事実として淡々と話す。
「何故か?というお顔ですね。理由はおそらくリレイズさんがネクロマンサーであることでしょう。あなた方のほうが早かったにも関わらずあそこのボスはアイアンゴーレムとされ先に他パーティーが踏破したとなっております。ついでナルメル神のお名前も欠片も発表されておりません。」
そういえばリレイズが自己紹介の時に正統に評価されないとか言ってたな
「俺達はともかくビトルとかそこそこの立場の筈なのに随分と嫌われたものだな?」
「この町の元締めは教会です。彼らは決して例外を赦しません。むしろ、ナルメル神の聖印があるのと地方領主とはいえ貴族の娘がいるので適当にクエスト成果を曲げて報酬を削る程度の処置ですんだといったところでしょう。」
「教会連中もろくでもねえな大人の汚さが見え隠れしてやがる。仕方ねえ、受付にはどうしようもないのに怒鳴って悪かった。」
「待ってください」
諦めて皆の元に戻ろうとしたら呼び止められる。
「私個人としても今回の件は公平性に欠ける不愉快なものです。そこでお詫びの意味もこめてあなた方に本来流れないクエストを流したいと思います。異存はございますか?」
これは驚いた、淡々と業務をこなしていた受付さんがそんなことを言うとは……だが
「受付さんはそんなことして大丈夫なのか?」
「大丈夫ではないでしょう、形がどうあれ教会に好ましくないことですし業務における意図的な過失に他ならないのですから。」
自分のことなのにいつもと代わらず淡々と冷静に話す。
「なんというか、悪いな。だが受けるものはしっかり受けさせて貰おう。」
「受付をしているとこの世界の仕事がよくわかります。同じことを繰り返してばかりいる無駄な魔族との争いをどんな形であれ変えてください、あなた方ならそれができるかもしれないと判断いたしました。」
どうやらこの小さな町の受付さんは大きな世界の仕組みを悟ってしまっていたようだ。そして質の悪いことは俺のニャルの行き着く先は今の世界を一変させるであろうことは確かなことだ。
「はあ、わかった。必ずなんて言わないがこっちと利益が一致する。」
「ではこちらがそのクエスト証です。」
スッと予め用意していたのかすぐに出されたクエストに目を通す
「[大規模砦の最前線防衛]なるほど、教会の不当評価も限度がある。ここで活躍して沢山の人が俺達を見る、そしたら人は噂する。教会も活躍した冒険者の噂を躍起になって止めるほど怪しいことはできない。」
「そして更に詳細を。相手は魔王軍の将軍格であるドラゴンです。そしてライバルはある日彗星の如くやってきた勇者です。」
絵にかいたような舞台とキャストだ。そこに弁えないピエロがいきなり混じったら神様も魔王も混乱するだろう。ニャルの好きな混沌だ、それも敵味方からの注目を浴びる。
「最高だな、もし俺達が大成したら受付さん名誉神官になれるぞ。」
「その時はまたよろしくお願いいたします。では後の業務過失は私にお任せください。あなたの冒険の成功をお祈りしております。」
思いもよらないきっかけができた。ここで勇者を出し抜くことができれば俺達の目的に現実味が初めて生まれるだろう。
「というわけだ、こいつで勇者を出し抜いて俺達の名をあげる。そして地に足つけて布教だ。」
「君を侮っていた、私好みの展開を持ってきてくれるなんて思っても見なかったよ。」
経緯と共に皆に説明した。案の定一番喜んだのはニャルだ。そして次点でビトルとリレイズ。そして一番頭を悩ませているのはビトルの親に雇われているトラスだ。さっきから親父になんて説明したらとかビトルを守ることについてぶつぶつ呟いている。
「噂じゃ勇者はまだそこのリレイズより弱いから実現の可能性がそこそこあるのが一番こええんだよ」
「トラス、これは私達の試練であり絶好のチャンスです。いつも以上に頑張りましょう。ここで名前が上がればお父様も誇ってくれます。」
「ああもう、呪われてんのかあたしは!受付の人の無茶がなけりゃ止めるのに。」
あまり前向きでないトラスとそれを励ますビトルと大元の原因が自分であるから素直に喜べないリレイズ、反応はそれぞれだが全員の次の目標は決まった。
「準備ができ次第出発かな?」