異世界へ
さて、このどうしようもない旅をどうやってこなしていこうか。
俺は宿屋のベッドで頭を抱えながら今日の出来事を思い返していく。
そもそものきっかけは所謂[異世界転生]だ。神様の頼み事を異世界で叶えるあれだ。
「私の願いを叶えてくれないかな?」
とある事情で生け贄にされ、ふと目を覚ました俺の前にいた顔を仮面で隠した黒い女神は開口一番にそんなことを言ってきた。
一般人たる俺は辞退したかったが、神様は強引だった。
その理由は何やら一般人たる俺にでも俺にしかない才能が一つだけあるそうな。
「その才能と理性的な人間であることだけが重要だから、置物でもいいんだ、君でもそれくらいはできるだろう?」
と断れば地味に馬鹿にされながらも食い下がられた。人種と魔族の種族間抗争に巻き込まれたら置物だって無事な保証はないだろうに。
「わかった、だけどちゃんとリターンはよこせよ?」
しかし、権利を握っているのは向こうな以上、ぐだぐだとごねても仕方ない。
「ありがとう、君ならそういってくれると思っていたよ。さあ、私と共に私の願いを叶えてくれ。」
目の前の黒い女神はそんなことを言う。
「魔王を倒すのに自ら勇者と出向くとは殊勝な女神様だな?」
「誰がそんなことを頼んだ?」
「は?」
「あんなのは必要なだけ関わればいいんだ、私達の願いは復活。そして君の役は私達の異世界初信者だ。」
……魔王を倒す勇者となるものとばかり思っていたが何やら怪しくなってきた。
「待て、どういうことだ。初信者?お前異世界の神とかじゃないのか?」
「当たらからずとも遠からず、出発前に自己紹介といこうか?マイバディ、私の名はニャルラトテップ。」
絶句した。
何故ごねなかったんだ俺。魔王より質の悪いのが仲間で、しかも信者になって悪事の荷担、勘弁してくれ。
「君の名は今は教えてくれないのかい?まあいいや、またいつか教えてくれたらいいよ。さあ、異世界に出発だ!」
絶句を適当に解釈、いや、全てわかったであろう上で楽しげに俺を闇に引きずり込む。そこが最後の記憶だ。
目を覚ませばRPGのような宿屋の中、あいつはどこかへ行っていて、俺はベッドで混乱と後悔で頭を抱えてる。
もう知るか、どうにでもなれ。
ベッドに潜り込み明日からの素晴らしい生活に思いを馳せて寝ることにした。